家事ロボット
男の妻が死んだ。妻はかなりの歳だったため、数ヶ月前から病院に入院していたが、とうとう先日亡くなったのだ。男はひどく悲しみ、しばらく立ち直れないほどだった。しかし、男には妻がいなくなってしまったことで、一つ問題があった。それは家事である。男は家事のすべてを妻に任せており、男は洗濯機の使い方や、衣服の畳み方さえも知らず、精々出来る事は料理ぐらいだった。男は元大手企業の社長で、貯金は充分過ぎるほどにあった。そのためか、毎日の食事は非常に豪勢で、そのぶん男の体型もやや肥満気味だった。しかしそんな生活を送れば送るほど、やるべき事は溜まっていくのだった。
男は友人のつてを借り、ある一人の男を訪ねた。その男は機械やロボットの研究に時間を費やしている発明家で、発明家なら家事をするロボットぐらい簡単に作れるかもしれない、と言うことだった。男は早速出向き、その発明家に会った。
「やあ、どうも。家事のロボットが欲しいと言ったのは君の事かね。」
会って早々に発明家はそう言った。
「はい、その通りです。妻が亡くなり、家事の出来る者が一人もいないのです。」
「それは心苦しい。しかしご安心を、家事の出来るロボットなら少し前に完成したばかりです。あなたに譲りましょう。」
感情の揺らぎが無い声でそう言うと、発明家は後ろにある多くのガラクタの中から、一際大きい物を持ち上げ、そこに立たせた。
「これが、そのロボットです。今日は車で来ましたか?徒歩であれば重いので荷台を貸しますよ。」
「いえ、車で来たので大丈夫ですよ。そんな事より、本当に貰って大丈夫なのですか。家事が出来るロボットならば、あなたが使った方が良いような気もしますが…」
「いや、私はじっくり研究をしたいものでして…ともかくそれは差し上げます。勿論今は代金も要らないですよ。代金を貰う時はそのロボットの性能が確かな物であることが分かったときだけです。」
男は少し怪しく思いながらも、そのロボットを貰った。
ロボットの性能は確かだった。溜まっていた家事を速やかに終わらせ、掃除や庭の手入れなど、男のしていたことさえもロボットがするようになった。
男は発明家の家をもう一度訪ねた。
「おや、どうも。今回はまた何のようです。」
「いや、あなたがくれたロボットなのですが、様子が少し変でして…」
「ほう、それは何です。」
「ロボットが掃除をするために掃除機を使うんですが、その時いつも私に掃除機をぶつけてくるんですよ。それも毎日、何かこわれているんじゃないですか?」
「いや、それは君に向けたメッセージだよ。私が入れた機能だ。」
「一体何のために…」
「君の運動量を増やし、肥満を避けようとしているんだ。いくら家事の出来るロボットでも主人の体調の管理は出来ないからね。もう一度自身の体型を確認したらどうだ。まあ、その前に、性能は充分に保証出来た様だから代金を貰おうかな。」