第三章 「のぞむ未来」
二週間後、「キャメロット・メンバー オーディション」の一次審査が予定通り開催された。
リンは集合場所として用意された講義室で、いすに座り待機している。
ここに集まったのは、合計十二名。そのうち三名が別の制服を着ている。どうやら他のプロダクションか、一般からのエントリーみたいだった。
軽くお化粧をして、髪型をしっかりと整え、アイロンがけしたアヴァロン・プロダクションの制服で身を包む。羽根のモチーフが付いたお気に入りのヘアピンもつけて、身だしなみは準備万端。しかし、心のほうは、そわそわして落ち着くことができない。
他の受験者も同じように緊張している様子だった。会話はまったくなく、講義室の中は、ぴんと張り詰めた空気で満たされていた。全員が強い思いを抱いているのだろう、アイドル・アドミレーションが聖杯からもれている。リンからも橙色の光がもれていた。
その影響で室内が少し明るい。もれたアドミレーションによる物理的な干渉力で、からだに圧力を感じる。講義室から押し出されてしまいそうだった。
講義室には、横四列、縦四列の席があった。一次審査で新たにふられた一から十二のエントリーナンバーの順に、左前から受験者が座っている。リンの番号は十番だった。
前をのぞくと、二つ前の席にルナがいた。
ルナを観察すると、彼女からはアイドル・アドミレーションがもれていない。とても落ち着いているように見える。なぜこれほど場慣れしているのだろうか。じっと彼女を見つめていると、さらに心が落ち着かなくなった。そわそわする感じに、ちくちくする感じが加わる。二週間前のキャメロットのライブのときと同じ感覚だ。
不意に左肩をたたかれた。驚いて、顔を向けると、隣に座っていたアヴァロン・プロダクションの先輩が、心配そうな様子で、リンの顔をのぞき込み、ひそやかに声をかける。
「どうしたの? 具合、悪い?」
リンは、なぜ声をかけられたのかわからなかった。きょとんとして、ひとまず「大丈夫です」と答えた。
「なんか怖い顔をしていたから、心配になって」
リンは顔を赤らめて、頭を下げる。
「すみません、ちょっと考えごとしていて……」
先輩は、ふふっと笑いながら「よかった。安心した」と言い、再び前を向いた。
ああ、調子が狂う。ルナを見ていると、意識してしまう。これまで、こんなことはなかったのだけど……。
がらりと扉が開く音がする。
オーディションの係員がバインダーを一つ抱えて、講義室に入ってきた。バインダーを開いて、十二名それぞれの前に立ち、一人ずつの顔とネームタグを確認していく。
十二名すべての確認が終わったあと、係員が教壇の上に立つ。
「ただいまより、キャメロット・メンバー オーディション、一次審査を開始します」
先ほどまでの張り詰めた空気がさらに引き締められるのがわかった。
「お伝えしている通り、一次審査は面接と討論の二部構成です。最初は、面接を行います。一対一の面接です。担当官は二人いますので、同時に二人ずつ面接を行います。みなさんは出番になるまで、ここで待機していただきます。順番が来ましたら、私がこちらに呼びに来ます。面接室の前まで移動して、部屋の中から呼ばれたら入室してください。一人十分程度の面接を行います」
係員がバインダーのページをめくり、強く凛とした声で名前を読み上げる。
「一番、アニー・グリフィス」
「はい!」
ルナの隣の女性が席を立つ。アヴァロン・プロダクションの先輩だ。
「二番、ルナルクス・アルグレイス」
「はい」
ルナも席を立った。
係員が先導し、ルナと先輩が講義室から出ていく。
リンは、かばんの中から『アイドルのちから』を取り出し、開いて、自分のメモ書きしたページを探した。
あの人のようなアイドルになる!
その言葉をなぞり、目を閉じる。入所した当時にこれを書いた自分に報告するつもりで、心に思う。わたしはここまで来たこと。もっと先に行くこと。あなたが臨んだものがその先で手に入ることを。じっと祈りながら精神を集中させて、そのときを待つ。
受験者はこの部屋に戻らず、別の場所で次の討論まで待機するということだった。人数が減っていくにつれて、心臓が胸をたたく音が強くなる。
一次審査開始から四十分ほど経過したとき、リンの出番ようやく回ってきた。
「九番、ジェシカ・ホワイト」
「はい」
声をかけてくれた優しい雰囲気の先輩が、余裕のあるようすで返事をして立ち上がった。
「十番、リン・トライスト」
「はいっ」
飛び上がるように立ち上がり、裏返った声で応答する。
名前を呼んだ係員について講義室を出て、教室三つ分離れた場所にある面談室の前まで移動する。
「ここで待機をお願いします。名前を呼ばれたら部屋入ってください」
リンは無言でうなずいた。今、声を出したら、口から心臓が飛び出そうだった。それほどに鼓動が速く、大きくなっていた。
「リン・トライストさん。どうぞ」
部屋の中から聞こえたのは、男性の声。警戒心をまったく感じさせない穏やかな印象だった。
リンは、ぐっとお腹に力を入れて、「はい!」と答えた。その勢いのまま、ドアノブを握り、扉を開け、ありったけの意気を込めて、あいさつをする。
「十番、リン・トライストです。よろしくお願いします!」
部屋の中央に、三人座れそうな長机といすが一つずつある。机には複数の閉じたファイルが並び、そのうちの一つのファイルを開かれていた。いすの隣に男性が立っていた。リンのことをまっすぐ見ている。にこりと笑みを浮かべて話し始めた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。キャメロットのプロデューサーをしています。マーリン・カウンセルです」
彼は、リンの目の前にある一脚のいすを示しながら、どうぞ、と着席をうながす。
「ありがとうございます」
そう言いながらリンはいすに腰掛けて、マーリンの着席を持っていた。
彼があのキャメロットのプロデューサーなのか。キャメロットにまた一歩近づけたようで感慨が深かった。
「では、さっそく始めましょうか」
彼は、開いたファイルの資料に目を落とし、さっと確認したあと、リンに話しかけた。
「とても元気ですね」
優しく見守られているような雰囲気と、何にも揺るがない安定感を覚えた。この人が相手なら、なんでも話せそうな気がした。
「あ、あの、ちょっと緊張していて……」
「こんな状況じゃあ仕方ないですよね。でも、大丈夫です。十分ぐらいお話するだけなんですから。リラックスしていきましょう」
「は、はいっ」
リンの面接が始まった。世界情勢や聖杯に関する知識を問う試問のあと、エントリーシートの記載事項について詳細を確認する会話が始まる。やがて、「性格」についての話題になった。
「リンさんは、アヴァロン・プロダクションに入所して二年なんですね。この二年間のうち、あなたの『積極的』な性格で、どんなことに挑戦してきたんですか? そして、挑戦の結果、どんなことを考え、学び、獲得してきたのですか?」
「わたしは……この二年間、目の前を通り過ぎるもの、すべてに飛びついてきました。
講義やレッスン、コンテストに、オーディション。そして、いろんな人間関係に対して。
でも、それらは『挑戦』という言葉はなんとなく違っていて……。周りの人から見ると、落ち着きなくどたばた駆けまわっている痛々しい人、みたいだそうです。
これを言われたとき、そう見えても仕方ないって思いました。自分の力を見極めずに、なんでもやってみようと思っているだけなんです。まずやってみよう。ダメだったら次へ。そんな感じでどんどん自分の未来を広げていくイメージでしょうか?」
「私も、リンさんがいろんな所に顔を出していることを知っています。私は痛々しいとは思いませんね。まずやってみようという考え方はすてきだと思います。」
「あ、ありがとうございます!」
「その生き方をすることで、何か良いことはありましたか?」
「いろんな経験ができます。その経験の積み重ねが、わたしの目標につながっていると思うと、日々やりがいを感じることができます」
「リンさんの目標とは?」
「キャメロットのメンバーになることです! わたしは幼い頃にイドラに襲われたのですが、そのときに助けてもらったアイドルが、キャメロットのメンバーだったんです。その人のような強くて、かっこよくて、きらきらしたアイドルになって、同じようにキャメロットとして活躍したい! って思っています」
「シンプルで、力強くて、まっすぐな目標ですね」
マーリンは、微笑みながら大きくうなずいた。
リンは、いつのまにか緊張を感じなくなっていた。彼が言った通り、リラックスした状態で会話ができている。不思議な感じがした。
マーリンが「最後に」とことわってから話し始めた。
「リンさんと話したいことが、イドラ化についてです。アイドルとして活動するときの最大のリスクと言えるでしょう。もし、キャメロットのメンバーとなり、最前線でイドラと戦うことになった場合、イドラ化する恐れが高くなります。これをどのように考えますか?」
リンは、リラックスしたまま、自分の思いを語る。
「まったく恐れていません」
「それはなぜでしょう? 再起不能となったり、死んでしまったりなど取返しのつかないことになります。リンさんの何がそう思わせるのでしょうか?」
リンは自分の気持ちを確認する。四年前のあのときに出会ったイドラを思い出してしまうときがある。そのときは前後不覚になるほど、恐怖してしまう。しかし、イドラ化することに対して、恐怖は全く感じない。
「それは……そんなことを恐れていたら、何も手に入らないからです」
「『そんなこと』って……怖くないのですか?」
リンは強くはっきりとうなずいてから、心から生まれてくる気持ちをそのまま伝える。
「わたしにとっては『そんなこと』としか思えません。怖くなんかないです。わたしにはイドラ化を恐れている暇なんかないんです!」
マーリンが真摯な瞳で、リンのことをまっすぐ見つめていた。まるで何かを見極めるように。
どう思われるかはわからないけど、自分の正直な気持ちだった。後悔はまったくない。
「わかりました。以上で面接は終わりです。ありがとうございました」
リンは、高揚した気持ちのまま、「ありがとうございました」といって立ち上がり、退室した。
部屋を出ると、係員が待っていた。別の講義室に行くように促される。
係員の誘導で移動しながら、次の討論に関しての説明を聞く。
「次は、受験者同士で行う一対一の討論です。あなたの相手はもうすでに次の部屋で待機しています。議題は討論開始直前に発表します。時間は十分間です。その間、自由に討論を行ってください。」
説明が終わったちょうどそのとき、討論を行う部屋に到着した。
部屋の中央に、ぽつんと演説台が二つ向かい合っていた。部屋の隅には、その演説台を横から臨むかたちでいすが二脚置いてある。そのうちの一つに座っていたのは、ルナだった。
面接が終わったあと、ずっとここで待っていたのだろうか。いすに座って、脚を組み、手持ちぶさたに爪の手入れをしていた。扉の方に顔を向けると、リンと視線が合う。
ルナは一瞬表情が硬くするが、すぐさま冷静で自信たっぷりな顔になった。
一方、リンは平常心を保とうと、必死に心を落ち着かせようとする。カフェのときやキャメロットのライブのときに感じた苦い思いが想起される。彼女は他人で、わたしの人生にはまったく関係ないんだと思うほど、意識してしまう。
係員が、ルナが座っている左どなりのいすを指して説明する。
「あちらに座ってもう少し待機していてください。討論開始まで、相手と会話するのは禁止です。十二名すべてが面接を終えて、討論が行われる部屋に入ったあと、議題発表、そして討論開始となります。」
言い終えた係員が退室する。リンとルナが二人きりで残された。
リンは、ルナの方に近づき、会釈すると、ルナが立ち上がって、手を差し出した。リンも手を差し出し、互いに握手をする。柔らかく、何かを探るような感触だった。きっとわたしの手も同じ感触なのだろう。
数秒間の握手のあと、互いに手を離し、いすに座った。
居心地が悪い時間が続く。ルナと視線が合うのが気まずくて、うつむいたまま時間を過ごしていた。
やがて、部屋の時計でおよそ十分が経過したとき、チャイムが鳴り響く。続けて係員の声がスピーカー越しに流れてきた。
「十二名全員の準備が完了しました。これより討論を開始します。
制限時間は十分です。議題に対する互いの意見を表明して、自由に討論を行ってください。
意見が同じなら、さらに深く考察するというのもありです。意見が異なるなら、今この場における合意形成を試みてもよいです。まったく相いれないというのなら、とことん議論してもらってかまいません。
もしも討論で勝敗のようなものが決まったとしても、選考にまったく関係ありません。
最後に、公平な審査のために、みなさんの討論のようすは別室で観察しています。また、録画も行っています。
それでは、部屋の中央にある演説台へ移動してください」
ルナは、すっと立ち上がって右側の演説台に向かっていった。
それを見て、リンも立ち上がり、左側の演説台に移動する。いまだに視線を合わせることができない。
再びアナウンスが始まる。
「議題は『未来とは、何か』です」
未来とは……? 唐突すぎて、戸惑ってしまう。世界情勢に関する議題ではないのだろうか。
「それでは、開始してください」
何を話せばいいのか、まったくわからない。ルナも同じ状況なのだろうか。彼女の声も聞こえてこない。長い沈黙のあと、ルナが一つ咳払いをした。
リンが顔を上げる。ルナの自信たっぷりの表情がそこにあった。
彼女はまっすぐリンの目を見つめて、自分の意見を発表する。
「アタシは、『未来とは、待ち望むもの』だと考えています。
それはなぜかというと、アタシたちは時間を越えることができません。未来にたどり着くには、待つしかないからです。
そして、未来は、自分の過去と現在を結んだ延長線上にあります。
つまり、過去の自分によって現在の自分が何であるかが決まります。また、現在の自分によって未来の自分がどうなるかが決まります。
過去の自分に資質が存分にあれば、現在の自分が良いものになります。現在の自分がたくさんの実績を作れば、未来の自分が良いものになります。
言わば、『人事を尽くして天命を待つ』ということです。
未来とは、過去と現在の先にあるもので、良い結果となることを待ち望むものです」
リンは、ルナの流れるような演説に感心した。あの時間の中で、ここまで自分の考え方をまとめることができるなんて……。
しかし、ルナが語った「未来」には、賛同できなかった。リンが考える「未来」はもっと別のかたちをしていた。
「あなたはどう考えていますか?」
ルナが、リンの意見をうながす。
自分の考え方が、きちんとまとまっていない。
……でも、リンは違うと表明したかった。その気持ちに突き動かされて、言葉が表れていく。
「わたしは、『未来とは、自分で探して、確認するもの』だと考えています。
なぜなら、今いる場所からは、未来は見えません。そして、『ある』のか『ない』のかもわかりません。
そのような『ない』かもしれないものに期待なんてできません。『ない』ものを信じて待っていた結果、裏切られてしまうのは、当たり前です。
そんな不確かなものを待つことほど非合理的なことはありません。
わたしは不確かであるなら、確認すればいいと考えています。その目で、耳で、からだ全体で体験するんです。
そこに飛び込み、体験する。もしも、そこにあったなら、つかめばいい。なかったなら、別の場所に飛び込んで、また確かめる。それだけです。
未来とは、存在が不確かなものです。探して、確かめる必要があるものです。自分のからだ全体で体験しなければならないものです」
ルナが顔をしかめている。その表情のまま、リンの意見に対して反駁する。
「リンの意見は、漠然としていて理解できません。
まず、未来が『ない』と主張しています。これはおかしいです。
未来はあります。あるから、守らなければならないんです。そのためにアタシたちアイドルがいるんです。自分も含めて、みんなの未来、夢や希望をイドラから守るんです。
リンはこれがわからないのでしょうか?
それに、『未来を体験して確認する』って……本当に意味がわかりません。
『いろんな選択肢を試してみる』という意味だとすれば、これほど効率の悪いことはないでしょう。それぞれの選択肢に関連することが中途半端にもなります。『何でもできるけど、何にもなれない』という状況になりかねません。
しっかりと望む未来を見定め、行動することが一番の近道なのです」
リンは、ルナの意見と反論を真正面から受け止めた。
やはり、わたしの考え方は、普通の人と違うのだ。プロダクションに入所してから、たびたび感じていたことだった。でも、違うことを怖いとは思わない。違っていて当然だと思う。
誰かにわかってもらいたいと思わない。いや、わかる人なんていない。だからわからなくて当然なんだ。
わたしに未来はない、ということを……
今度は、リンがルナの意見に対して反駁する。カフェでエントリーシートを書いていたときのルナに対する思いが重なっていた。
「ルナは『未来』について、そんなふうに考えているんだね。
考え方はひとそれぞれだということがよくわかりました。
ルナの考え方もすてきだと思う。あなたの考える未来は、必ず報われる未来。がんばっただけ必ず良くなる未来です。でも、わたしには受け入れがたい考え方です。わたしには、未来が明るくて、きちんと報いてくれるって、どうしても思えません。
未来に対する楽観的な思考の根拠はどこにあるのでしょう?
それから、ルナは『過去の自分に資質があれば、現在の自分が良いものになる。現在の自分が多くの実績を作れば、未来の自分が良いものになる』と主張していました。
それでは、才能が不足している人や、健康的なことや経済的なことが原因で、活動が制限される人はどうなるのでしょうか? ルナの考え方では、そのような人たちは報われない、良い未来が訪れないということになりませんか?
ルナの意見は、『選ばれた人だけが、良い未来を得る』と言っている気がします。
わたしは『未来』のことを、すべての人が自由に決めて、探して、体験して、選ぶ。開かれたものだと考えています」
ルナのしかめっ面が、急速に怒りの表情に変わる。戸惑いの視線も、リンに向かって鋭く伸びる槍のような憎しみの視線に変わっていた。
ルナが、大声でまくしたてるように論じる。
「いいかげんにしてよ! 何を言ってるの。アタシに対する偏見だわ!
『選ばれた人』なんていう意味はありません! 字義通りに受け取ってください! 才能ない人とか、活動が制限される人でも、あとからたくさん活動すれば、同じです!
それに……、未来はあるじゃない! アタシたち、その未来で報われるために、今がんばっているんじゃないの?
これって楽観的な思考なの? そうじゃなくない? みんな、こうやって考えているよ。これが普通の考え方でしょ!
アタシの考え方が正しいのよ!
同じように考えないリンが間違ってる! そんな偏った考え方で、アタシたちのことを断罪しないで!」
リンが、ルナの意見を黙って聞いていると、次第に苦しくなっていた。
自分とルナの考え方の隔たりが大きいことや、それが正しいのか、間違っているのかを論じること。どんな意味があるのだろう。
リンの「未来がない」ことを感情的に喚き散らしたかった。でも、言ってどうなるのだろう。同情されたくない。されたところで何の役にも立たない。所詮は他人だ。他人が考えていることなんて、どうでもいい。
リンは、この討論から一歩引いた気持ちで、ルナに応答する。
「わたしの考え方が偏っていて、間違っている……そうかもしれないね。でもさ、考え方なんて、ひとそれぞれじゃないの? 『正しい』とか『間違い』に何の意味があるの?」
険しい表情をしたルナが息を吸って、次の言葉を発しようとしたそのとき、討論が始まる目に聞いたチャイムが再び鳴り響いた。
「討論を終えてください。おつかれさまでした。これにて一次審査は終了です。自由解散とします。最初の集合場所に荷物を置いている方は取りに戻ってください」
チャイムを聞いた瞬間、ルナは、いつもの自信たっぷりで余裕のある表情に戻っていた。演説台から離れ、リンとは顔も合わせず、言葉も交わさずに足早に部屋から退室していった。
これでよかったのかな。
リンは「キャメロット・メンバー オーディション」の合否として、そう思うのと同時に、ルナとの関係としても、そう思っていた。でも、しかたのないことだった。リンには他人との関係なんて気にする時間はないのだから。
最後まで走りきるしかないのだ。




