第十三章 「本当の自分」
ルナが、何かを喚いていた……
「リン! お前だってアタシと同じはずなの! 取り上げる価値もなくって、間違っていて、汚くて、恥ずかしい。何にもなれない人間なんでしょ? だから、アタシと同じようになりなさいよ! そして、自分に、家族に、社会に絶望しろっ!」
リンは熱に浮かされたようにぼうっとしてきた。意識がはっきりしない。
ルナが何かを懸命に話している。しかし、自分のアドミレーションが、ごうごうと燃え盛る音や、自分の心臓が、どくどくと激しく鼓動する音が邪魔をして、まったく聞こえてこない。
彼女の感情がわからなくなってきた。
なぜ、何を、なんのために、あれほど否定しているのか……。
あれじゃ、だめだよ。
なんとかしてあげたい。わたしならできる。わたしがなんとかする。
自分の意思なのに、自分じゃない誰かが考えているみたいだった。
だんだん自分の内のことしか考えられなくなってきた。
それは、自分の外を無視することではなく、外のことさえも自分の内だと思うようになったということだった。
リンがひと呼吸するごとに、アドミレーションの勢いが増す。そして、アドミレーションを生成すればするほど、からだがどんどん熱くなっていく。まるで、自分が炎の中に飛び込んだように、アドミレーションと自分のからだの境界線がわからなくなっていた。
ふらふらとしながら、ぼうっと立っていると、ルナが突然目の前に迫ってきた。
「話を聞けよ! リン!」ルナが左手にインフルエンスを発動する。
大きく広げられた左手。それと同じように広がったインフルエンス。左手が振り下ろされると、目の前が灰色のアドミレーションでふさがれ、からだ全体を包み込まれてしまった。
ぎゅっと握りしめられたあと、ルナの方に引っ張られる。
ルナが力を込めて、左手を引いていた。
その左手は、たくさんの橙色のアドミレーションをつかんでいる。リンのアドミレーションがごっそり奪われていた。からだを確認する。さきほどまであった燃え上がるアドミレーションがなくなっている。
しかし、なんの問題もなかった。からだの熱さは変わっていない。再び、リンのからだがアドミレーションの炎で燃え上がり始める。
体内の光が莫大なアドミレーションを供給し続けていた。からだの奥でその光が熱を発し続ける限り、温泉のようにアドミレーションが湧き上がってくる。そんな確信がある。
ルナは、左手のインフルエンスで奪ったアドミレーションを吸収しながら、驚きの表情を浮かべている。
からだの熱さでもうろうとする中、なんとか自分の意思を保ったままルナに問いかけた。
「ルナ、戦い始める前にもきいたけど……どうして、わたしに干渉するの? わたしに何も価値がないなら、汚くて間違っている人間なら、放っておけばいいじゃない。
あなたに何かをするつもりはないから。 わたしはひとりで、自分の力で、前に進むから」
ルナが困ったように顔をしかめながら答える。
「……お前のことが、気に食わないからだよ! どうしてそんなにさわやかに生きられるのよ? どうして明るく、前向きに進み続けられるのよ!
それは『理想の自分』なんでしょ? 嘘の自分なんでしょう?
そうじゃなきゃ、おかしいよ……。
間近に迫った死を前に、他人をまったく信じられず、恐怖し固まって動けないでいる。そんな『ダメな自分』をさらしなさいよ!
それこそがリンなのよねっ? 正体を現して、アタシにお前自身を見せてみなさいよ!」
「理想の自分とダメな自分? 正体? それが何だっていうのよ?」
「誰にだって、理想の自分とダメな自分がいるでしょ? 理想の自分であり続けないと、怒られたり、傷つけられたり、恥ずかしくなったりするじゃない!
今のアタシは……ダメな自分だよ。そんな自分はさらしちゃダメなんだよ。だから、抑えつけておかないといけないの。
リンは、ずっと理想の自分のままじゃない! そんなにきらきらしながら生きていることが、妬ましいのよっ! いらいらするの!
アタシみたいなお前が、『理想の自分』のままで、理想に届こうとしている。アタシは『ダメな自分』のままなのに……そんなの許せない!」
ルナの切羽詰まった様子に心が痛む。しかし、ルナの言う通りにはできない。
「理想とかダメとか、そんな自分はいない! わたしは、『わたし』しかいない!
あの日あの時、キリアに憧れてアイドルになることを決意した、わたしだけなの! そのときから変わってなんかいない!」
さらに、ごうっと燃え、あふれ出るアドミレーション。
「わたしのこと……教えてあげる。本当にそう思っていることを、確信していることを! そんなこと考えなくても、生きていけるって! あなたになんか負けないって!」
リンが右手を胸にあてる。声を張り上げて、再び宣言する。
「輝け!」
右手を横にはらうと、胸から真球のような輝化領域が一気にふくらんだ。
リンの全身が包まれる。
球の中で、まとっていた炎が密度を上げた。とてつもない熱さ。
その熱さが、からだにまとわりつく。かたちを持つ。からだの各所を守る輝化防具になる。
輝化領域がはじけた。バックドラフトのように激しく燃え上がるアドミレーション。
からだの前でアドミレーションが集束する。毛糸玉のようにぐるぐると巻き取られていく。
そうやって回転しながら、ぎゅっと凝縮される。
それを手に取ると、投げ槍に変化した。
輝化武具と輝化防具のかたちが、聖杯浸食の前と後で変わっていた。
投げ槍の刃と柄の接続部分に、小さくてかわいい羽飾りがついている。
そして、腰の防具の背中寄りの場所に、一対の翼が生えていた。
リンは残り四本の投げ槍を生成する。両手に一本ずつ投げ槍を持ち、構える。
「リン、わかってよ……。アタシが理想の自分であり続けるために、あなたを倒して、あなたを汚すことが必要なの!」
ルナは、リンに負けないほどの大量のアドミレーションを解放した。
きっと、今、リンから奪ったアドミレーションをインフルエンスで変換したもの。
輝化防具が、まるで生成した直後のように輝く。
右手には輝化武具のナイフ。
ベルトの鞘に納めたナイフを抜き、アンコールバーストを発動。
十六本のナイフの群れが宙を泳ぐ。
左手にはゲル状に変化させたインフルエンスをまとわせる。
お互いに三歩踏み出せば、握手ができる距離。
目と目が合う二人。ぶつかり合うしかなかった。
お互いに一歩踏み出す。もう止めることができない。
リンの未来と、ルナの未来が、もう一度交錯した。
がっ、ぎぃいん!
ナイフと二本の投げ槍が、思い切りぶつかり擦れる音。
ルナの右手側に飛び込み、投げ槍を振りぬく。
彼女は、ナイフでしっかりと防ぎ、受け流した。
すれ違う二人。
アドミレーションの揺らぎ。直感。ルナがナイフの嵐を放った。
ドライブを発動。ルナも十六本のナイフも置き去りにして、走り抜ける。
腰の防具に付いた翼。初めて見たときに確信していた使い方。
ブーツに付いた翼とともに展開する。四枚の翼。それぞれの角度を調整する。
ドライブの進行方向が自然に変わる。くるりと翻って反転。
ルナが正面に。再びドライブ発動。
ナイフの嵐。合計十六本が猛スピードで飛来する。
投げ槍三本をプロペラのように縦回転させながら放つ。
四本のナイフを巻き込む。投げ槍が灰色に。
リンの進行を妨げるのは、正面衝突が避けられないナイフ三本。
再び腰とブーツの翼を操作し、するりとかわす。一本、二本。
最後の一本。翼の制御では間に合わない。
アドミレーションのかたまりを自分の右側に放つ。
反動。リンの走るコースが左側にずれる。ナイフが右側面をかすめて通り過ぎる。
つんのめってこけそうになる。必死に足を動かして体勢を整える。
両手に残った二本の投げ槍。これも初めて見たときに確信していた使い方。
投げ槍を打ち合わせる。きぃんっ! という小気味よい音。投げ槍に変化。
羽飾りが赤熱し、じわっと溶けて液体となる。
そのまま投擲した。
羽飾りの液体が炸裂。ばちっ! という音を立てて、勢いよくアドミレーションに戻る。
さながら追加の推進剤。羽が生えた投げ槍。速度と威力が増加する。
ルナの焦りの表情。慌てて防御。
左手のインフルエンスを強化。厚く、広く、固く。
着弾! 受け止めるのが精いっぱい。勢いを殺しきれない。
ルナは受け流そうとしていた。
その隙にルナに接近。
身をかがめて、両足で踏み切る。前方に飛び出す。
ブーツの翼も使った跳躍。宙で槍を振りかぶる。
ルナが一本目の投げ槍を左に反らす。空中のリンを確認する。
もう一本、羽付きの投げ槍を放った。
振りぬいたままのルナの左手。そこからゲル状のインフルエンスが伸びる。
べちゃりと地面にはりつくと、ゴムのように収縮し、ルナを引っ張る。
投げ槍が地面に着弾! 衝撃波が地面の砂礫を舞い上げる。
もうもうと立ち込める砂ぼこり。リンが身をひるがえす。着地体勢。
突然。砂塵からすさまじい速さのナイフが次々と飛び出してくる。
無防備な体勢。腕と脚で急所を守る。様々な方向から切り刻まれる。
着地。リンの周囲を埋め尽くすナイフ群れ。競うようにリンを狙う。
かすめる。受け止める。はじく。かすめる。かわす。突き刺さる。死角からの攻撃。
ダメージ軽微。ステップ、三歩。ドライブ発動。
避ける。はじく。滑り込む。叩き落す。目の前が開けた。
一歩踏み出す! ナイフの群れから逃れる。
ブレーキ。反転。五本の投げ槍を生成。五本すべてに衝撃。羽飾りが溶ける。
一本ずつ投擲。ルナのナイフを次々と射抜く。
砂塵がおさまったときには、ナイフの群れも一掃できた。
ルナが姿を現す。舞い上がった砂礫で、輝化防具が汚れ、傷だらけになっていた。
「お前のアドミレーションがどれだけ増えたとしても、関係ない……。
コンクエストスキルでアタシのアドミレーションに変換して、吸収するだけなんだからっ。
お前が何をしたって、アタシには勝てないのよ」
リンは、落ち着いてからだを確認する。
さっきまでの攻防で、ルナのインフルエンスにたくさん接触してしまった。灰色のまだら模様がからだ中を蝕んでいる。
胸に灰色が届こうとするとき、奇跡が起こった。
リンのアドミレーションが、インフルエンスの浸食に拮抗した。灰色を外へ追いやるように、胸の周囲から急速に橙色のアドミレーションが広がり始める。やがてすべての灰色をリンの右手に集め、からだの外に押し出した。
球状に押し固められたインフルエンスが宙に浮かぶ。リンはすかさず投げ槍を生成。防具に一度ぶつけて羽飾りを炸裂させ、灰色の球を貫く。ガラスのように弾ける。
リンのアドミレーションに、ルナのインフルエンスによる浸食と吸収に対する耐性が備わっていた。
ルナの目をじっと見つめて、宣言した。
「そんなことない! わたしはいくら倒されても、何度でも立ち上がってみせる。そして、立ち上がるたびに、強くなってみせる!」
「ううぅっ!」ルナが激しく顔を歪ませて、興奮して喚き散らす。「アタシの! 力をっ……、否定するなぁっっ!」
ルナがさらにアドミレーションを解放した。そのすべてがインフルエンスに変わる。
リンを聖杯浸食した巨漢の人型イドラ。それと同じ大きさのゲル状の物体が、目の前に現れる。ルナがその中に取り込まれていた。
彼女はインフルエンスの中で、輝化武具のナイフを生成する。一本、二本、三本……。
合計十六本。そして、右手に持ったナイフで、すべてをたたき割っていく。
これは……彼女のアンコールバースト。十六本のナイフがそれぞれ十六の破片に変わっているのだろう。その破片の合計は、おそらく二百五十六。
ルナが左手を掲げる。彼女を地上に残し、二百五十六の破片を孕んだインフルエンスが球状に丸まって、宙に浮く。
「これで、お前の未来を、そこにたどり着く意思を、奪ってやる……。アタシの力に、ひれ伏せっ!」
左手を振り下ろすと、ばぁん! という音ともに、二百五十六の破片がインフルエンスの卵を一斉に突き破って外界に飛び出る。一つひとつの破片が核となり、近くのインフルエンスでナイフをかたちづくる。
二百五十六の小魚の群れ。まるで一匹の巨大な魚のようにうごめいている。
巨大な魚が、リンに狙いをさだめ、襲い掛かってきた。
ざわざわざわざわ、ざざざざざっ!
一本のナイフのうごめきが多重に重なり、リンの頭上から津波のように迫ってくる。
圧倒的な迫力。本能的な恐怖。
リンは後退し、反転。ドライブの全速力で離脱した。
インフルエンスの嵐は、リンの全速力に匹敵する速度で追いすがる。なかなか間合いをとることができない。
石切り場の端が見えた。これ以上は真っ直ぐいけない。リンはスピードを落とさないように方向転換し、端に沿って走り続ける。
一部の群れが周回をショートカットし、前方から飛来。それを投げ槍で迎撃しつつ、ルナの様子を観察する。ルナは、すり鉢状となった石切り場の底の中心に立っていた。意識を集中して、このインフルエンスの嵐を操っているのだろう。
投げ槍を一本、ルナに向かって投擲する。しかし、インフルエンスで防がれてしまった。
インフルエンスの嵐に何度も追いつかれそうになりながら端を一周した。ずっと変わらぬ速度と勢いを保っていた。つまり、この場所、この半径五十メートル広さのすべては、ルナのアンコールバーストの射程距離だ。ならば……、
ざわざわざわざわ!
ナイフの群れが奇妙に震える。ふと、ルナを見ると、今度は右手を掲げていた。ナイフを逆手で持ち、膨大なインフルエンスをまとっている。次の瞬間、そのナイフを地面に突き刺した。
ずああぁっ、と地面に蜘蛛の巣のような灰色の網目模様が広がる。
その網目に足を引っかける。すると、本物の蜘蛛の巣のように、粘り気を持って足にまとわりついた。途端にスピードが落ちる。必死に足を前に出すが、連続して網につかまる。さらにスピードが落ちる。
早く、あそこへ! リンが目指すのは、この石切り場に落ちるときに足場にした大型クレーン車だった。
ざわざわざわっ!
インフルエンスの嵐に追いつかれた。大量の刃が、頭の上から降り注ぐ!
投げ槍五本を生成。羽を炸裂させて縦回転させて、リンの周囲に配置。
身をかがめて、さらにアドミレーションを励起し、燃やし続けた。
嵐の中。
視界は、インフルエンスの灰色に染まる。
鼓膜は、ナイフがリンの投げ槍にがんがんと当たる音で支配される。
痛み。
防ぎきれなかった。
アドミレーションの厚みを越えて斬撃、インフルエンスの影響が届く。
「わああぁぁぁっ!」
今、自分はここで戦っていることを宣言するように、恐怖に負けないように声を張り上げる。
投げ槍の回転と威力を落とさず、体内のアドミレーションを保ち、自分を守る。
降り注ぐ痛みにひるまず、恐れず、しっかりと前を向き続ける。
……やがて、嵐が過ぎ去った。
リンは、二百本以上のナイフがつき立った大地に立つ。
輝化防具は、ずたずたにされ、からだ中に灰色の傷ができている。
リンはさきほどと同じ方法でインフルエンスをからだの外に排出する。
アドミレーションを生成すればするほど、からだの熱が上がってきた。
意識を保つのが難しい。しかし、今、倒れるわけにはいかなかった。
地面に刺さったナイフに排出したインフルエンスが吸収される。再び動き始めた。
リンはドライブを発動し、大型クレーン車へ接近する。
ルナがそれを邪魔しようとして、インフルエンスの蜘蛛の巣を放つ。
リンは懸命に走る。自分をとらえようとする網をよけ、投げ槍で切断し、振りきって、大型クレーン車の外装に飛びついた。
最も高い位置にあるクレーンのアームの作業台まで、五十メートル。
そこまで到達すれば、ルナのインフルエンスの射程外。
スロープ。階段。はしご。
自分の足で登れる限界は三十メートル。残りはアーム部の二十メートル。
インフルエンスのナイフの群れが迫ってくる。
クレーンのアームに投げ槍を投擲。等間隔で突き刺さる。
跳躍。腰とブーツにある翼の助けを借りて、五メートルのジャンプ。
ナイフの群れが、今、立っていた位置に殺到する。
投げ槍を手掛かりにからだを持ち上げ、さらに足場にして再び跳躍。
作業台に手がかかる。
からだを持ち上げたとき、再びナイフが飛来するが、投げ槍を回転させて防ぐ。
しかし、一本のナイフが脇腹に突き刺さる。
リンは歯を食いしばり、ぐっと息を呑み込んで、痛みをこらえる。
作業台に足をかけ、そのまま目の前の大空に飛び出した。
灰色の雲が切れて、青く透き通った空が一面に広がっている。太陽のまぶしさ、それを反射して真っ白に輝く雲をからだいっぱいに感じる。
そして、リンが持つ四枚の翼を、力いっぱいに広げた!
脇腹に刺さったナイフのインフルエンスが解除され、刃が消滅。核となっていた破片が地上に落ちていく。ざわざわざわ、とナイフの群れが足もとを泳いでいる。
地上から五十メートルの位置に滞空している。予想通り、ここはルナの射程範囲の外だ。
はるか下にいるルナが上空を見上げていることがかろうじてわかる。
「アタシを見下さないでよっ!」
ルナが聖杯連結で声を届けてきた。いら立ちと興奮に任せて、叫び、喚いている。
リンが右手を高く掲げる。五本の投げ槍が生成された。
そのすべてを束にして、右手からあふれるように噴出したアドミレーションをまとわせる。
「アンコールバースト」
ひとり静かにつぶやくと、投げ槍の束に莫大なアドミレーションが集束。まばゆい光を放ちながら、一本の巨大な投げ槍となる。
ルナに対して、はっきりと宣言した。
「わたしは絶対やり遂げるっ!
アイドルになって、精いっぱい生きる! あなたになんか、絶対に負けないっ!」
宙に浮かぶ巨大な槍の矛先をルナに向けた。
右手を大きく振りかぶって、一気に振り下ろす!
ごぅん、ごごごごご……
重々しい音を立てて、リンのアンコールバーストが、動き始める。
「そんなことができるなんて、絶対に認めない!
お前は汚れたんだ! 間違ったんだ! そんなやつが何かを成し遂げるなんてできないっ。そんな資格はないんだよ! そろそろ気づいてよ!」
ルナが右手のナイフを掲げた。
そこを目掛けて、すべてのナイフの群れが集まっていく。ルナの右手には、おぞましいほどびっしりとインフルエンスのナイフがまとわりついている。
すべてのナイフが集まったあと、鈍色の光を放ちながら、インフルエンスのかたまりが形を変える。ルナの背丈以上ある灰色の大剣ができあがった。大剣軽々と振り上げる。
リンの槍が、立ちふさがるルナを貫こうとして突き進む。地上に向かって落ちていく。
ルナが構える。大剣の切っ先を空に向けて、じっと狙いを定める。
そして、槍と大剣が衝突した!
衝突点は、槍の穂先と大剣の切っ先。そこからじわじわとインフルエンスの浸食が始まる。
……しかし、それだけだった。リンが作り上げた大槍のアドミレーション量が、ルナの大剣のアドミレーション量を上回っていた。
ルナの大剣は、リンの大槍のアドミレーションを浸食しきれず、大槍の勢いに押し負ける。
ルナの大剣にひびが入る。
リンが聖杯連結越しに悲しい音を聞いたとき、大槍が運んだ莫大なアドミレーションはルナに直撃していた。
リンは、はるか上空からルナが大きな光に巻き込まれるところを見る。
ルナの心の叫びが、リンの心に直接届いてきた。
「アタシは、負けた……。どうしてっ? ……そんなこと、わかりきっている。
リンが『特別』で、アタシが『特別』じゃないからだよ。そうに決まっている! それしかない! そして、特別じゃないアタシは、やっぱり『ダメな人間』なんだ……」
……ルナの心の中が見えた。
憎悪と敵意が炎となって燃え上がっている。
炎の先に、子どもの頃のルナがいた。あったことはないが、この心が伝えてくれている。
炎に焼かれながら、のどを押さえて苦しそうに喘いでいる。
彼女のところに駆けつけたかった。しかし、炎が邪魔で先に行けない。
彼女は、そこで、何かと必死に戦っていた……。




