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小林



千佳の不安は見事に的中した。放課後、帰宅の用意を始めていた常史江が隣のクラスの不良に呼び止められたのだ。間違いなく野田が何か謀ったのだろう。

会話の内容はこの学校の番長格である大柄な不良、小林が彼に用があるというのだ。

野田や常史江を呼びに来た生徒も小林の舎弟だった。二人はしばらく話し合うと、教室を出てどこかに向かって行った。

千佳は常史江の身を案じた。何せ相手は札付きの不良の小林である。190センチを超える身長に85キロの筋骨隆々の肉体に、17歳とは思えないドスの利いた声

校内や校外でも数々の暴力沙汰を起こし、教師も相当手を焼いていた。何故退学処分にならないのか不思議なほどの素行不良少年だった。

また、腕っぷしも相当強く、元プロボクサーの父に喧嘩で金的を放ち睾丸を破壊し、再起不能にしただの猪を素手で殴り殺したなどのワケのわからない噂も千佳は耳にしていた。

野田も以前、彼に前歯を叩き折られ、それ以降舎弟になったらしい。

クラスの連中は見て見ぬふりを決め込んでいたが、千佳は居ても立っても居られなくなり、二人を尾行する事にした。

二人は校舎から出ると駐輪場へ向かった。そこは放課後、半ば不良達の溜まり場と化していた。

常史江と舎弟の二人が到着するころには既に小林を含む三人の不良が待ち構えていた。

その中には野田の姿もあった。鼻腔には鼻血止めのティッシュが詰めこまれていた。彼は小林の背後に隠れて常史江に怨恨の視線を向けていた。

小林は己の鍛え抜かれた鋼の肉体を誇示しているのか、シャツを限界まで腕捲りしていた。

千佳はその様子を気付かれないよう、10メートル以上離れた位置から支柱に隠れて様子を伺っていた。

小林は常史江をまじまじと見つめると野田の方を向き突然笑い出した。

「お前こんな女みたいな奴にやられたのかよ」

「だっせー」

他の不良達もつられて野田を嘲笑した。野田は舌打ちするとティッシュを入念に詰めなおして言った。

「う、うるせえな、それよりとっととそいつシメて下さいよ。そういう約束でしょ」

「わかってるよ、そういうことだ転校生、ちょっと痛い目見てもらうぜ?」

そういうと小林は指の骨をクラッキングし、常史江に近寄った。

常史江も平均よりはずっと背が高いように見えたが小林はそれよりも10センチ程高いように千佳には見えた。

「さて、何発もつかな?」

「自分に言ってるのか?」

常史江が小林を指さしてそう言った。舎弟たちは大笑いした。

「おい聞いたか?今のセリフ、かっこい~。からの突然キック」

小林が常史江の鳩尾にむかって蹴りを放った。咄嗟の出来事だったので反応しきれず常史江はモロに喰らったようでドスッという鈍い音がなった。

常史江は「うっ」と呻くとその場にうずくまった。

「クソ弱えなコイツ」

小林は常史江につばきした。唾液は常史江の肩に付着した。

したり顔の小林は野田の方を向いた。

「おい野田、ヤキ入れてやったんだから1万よこせよ」

「え?さっきは5千て…」

「ああ?」

小林が野田を凄まじい形相で睨みつけると、野田はすぐに尻込みした。

「ひっ、わかりましたよ。だけどそいつの鼻もへし折ってくださいよ」

小林は渋々承諾したようだった。彼は常史江の方へ向き直った。

その状況を見て千佳は焦燥していた。一体どうすべきだろうか。自分があの場に割って入り平和的解決を訴えるか?最悪の結末しか想像出来なかった。

それとも誰か助けを呼ぶ?だとしても誰に?仮に教師に助けを求めても力になるだろうか、教師は信用できなかった。というより、千佳はこの学校の誰にも信を置いていなかった。それに助けを呼ぶ時間など無いかもしれない。

千佳は一瞬彼を見捨てその場を去ろうとも思ったが、常史江が田畑をいじめから救ったのを思い出し、思い改めた。

遂に千佳は自棄になり彼らを止めようと一歩足を踏み出そうとした。

その時、常史江が片膝立ちの姿勢のまま、右手でまっすぐ小林を指差すと呟いた。

「悪いがあれを使わせてもらう」

小林達は吹き出した。

「出るぞ出るぞ必殺技」

小林がそうおどけるやいなや、信じられない現象が起こった。

常史江の指先から雷が放たれ、それが小林に直撃したのである。

小林は仰向けに倒れると、数秒間痙攣してピクリとも動かなくなった。その顔は白目を剥いていた。

彼の舎弟達は突然の出来事に皆一様に言葉を失っていた。それは千佳も同様だった。

常史江は舎弟達に指先を向けた。

「君たちも喰らってみるかい?」

彼らは瞬時に青ざめると情けない声を上げ、小林を踏みつけて逃げだした。恥も外部もない逃げっぷりだった。

常史江はそれを一瞥すると小林に蹴られた痛みが残っているのか、ふらふらと立ち上がった。

一方、千佳は思考の整理が追い付かないでいた。

あの転校生、常史江永久、変わった奴だとは思っていたが、『変わった奴』程度では片づけられなかった。

何せ、手から電である。サ〇ババもビックリだろう。

彼は何者なのだろうか?超能力者?宇宙人?それとも…

千佳が考えあぐねいていると常史江が千佳の方を向いて言った。

「いつまでそんな所に隠れてるんだ」

千佳は吃驚した。まさか気付かれていたとは思わなかった。

千佳は少し躊躇した後、恐る恐る常史江の方へ向かった。何となくだが彼は自分には危害を加える事をしないだろう、という考えあっての行動だった。

常史江の足元に倒れている小林に目を向けると、口から泡を吹いていた。

日頃の行いを思うと不憫だとは思わなかったが、少し心配になった。

「だ、大丈夫なのこいつ?」

「多分な、100万ボルトの市販で売ってるスタンガンと同じ電圧を喰らわせた。」

そう常史江は抑揚のない口調で言った。

千佳は頭をかいた。やはりこの男の仕業らしい。

「ねえ説明してよ」

千佳は少し語気を強めた。

「アンタ何やったのさ、何かのトリック?」

常史江は面倒くさそうな調子で言った。

「見られちゃしょうがないな、まず場所を変えないか?そこでゆっくり話そう」

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