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変化。


翌朝ここ最近では珍しいくらいスッキリと目が覚めた。


「おはよう。」


「あらっ、結衣おはよう。早いのね。ご飯みんなで食べる?」


「うん。」


休日の私は朝寝坊なので朝ご飯はみんなと別に食べることにしている。だけど今日は普段通りに起きられてみんなと食卓を囲む事が出来た。


「夏休みに結衣と一緒に朝ご飯が食べられるなんて珍しいな。」


「本当、結衣ちゃん珍しいわねぇ。」


「これが続くとママ助かるわ。片付けが一度で済むもの。」


みんな口々に珍しいという。でもまぁ確かに自分でも珍しい。それにいつもみたいな体の怠さがないのが不思議だ。きっとアルバイトに行くのが楽しみすぎて体がまだ興奮状態なのかも知れない。朝ご飯を終えるとママが「お菓子?」と聞いてくる。


「いらない。ママのご飯で充分。美味しかったよ。ごちそうさま。あっ、ママ」


「なぁに?」


「お皿、洗おうか?」


「えっ?本当に」


「うん。何か今日は調子が良いんだよね。夏休みだし時間あるし洗ってあげるよ。」


「ありがとう。朝ご飯も一緒に食べられて、お菓子もやめてくれておまけにお皿洗いまでしてくれるなんてなんていい夏休みなのかしら。」


ママがとっても嬉しそうで私も嬉しかった。食後のおやつの件は本当に頭を悩ませていたんだと思う。このまま止められるといいなって私も心から思った。お皿洗いのお手伝いも出来るときはしてあげよう。思えば私、今までママに任せきりでなにもしてあげてなかった。


「ママ、今までお手伝いとかしてあげなくてごめんね。」


「いいのよ。ママは専業主婦でみんなのお世話をするのが仕事なんだから。お皿洗いって意外と重要なのよ。残しているもので体調が分かったりするんだから。例えばパパなら朝ご飯のウインナーを残したときはだいたい二日酔いね。おじいちゃんがご飯を残すときはちょっと胃が痛いとかね。それに結衣はいつでも全部食べてくれる。」


「さすがママ。」


「でしょう?だから結衣も無理にお手伝いしようとか言わなくていいのよ。手伝ってくれたらすごく嬉しいけど出来るときでいいからね。本当にありがとう。」


「うん。」


早めに起きられたから課題と宿題を早めに終わらせておじいちゃん、おばあちゃんの部屋に行く。いつもと同じエアコンとテレビで寛いでいたら、あっと言う間に昼になり昼食を摂ってアルバイトに出掛けた。


「マダム、こんにちは。」


「こんにちは。あらっ、結衣。今日は何だかすごく顔色がいいわね。」


「そうですか?何だか今日は早起き出来て頭もスッキリしてるんです。ママのお手伝いまでしちゃいました。」


「あらっ、いいことね。結衣、ジュエリー磨きは今日からひとりでお願いできるかしら?」


「はい。」


マダムからクロスを受け取ってロフトに上がる。


「結衣、結衣。コンニチハ。」


「こんにちはチャーリー。」


すっかり私の名前を覚えてくれたチャーリーがご機嫌で挨拶をしてくれる。本当に賢い子だ。私は丸椅子に座りジュエリーを手に取る。


「こんにちは。」


「コンニチハ。」


私がジュエリーに挨拶するタイミングでチャーリーも挨拶を被せてくる。見上げるとチャーリーはチャーリーで自分に預けられたダイヤの宝石を一生懸命齧りながらブツブツ言っている。もしかしたら磨いているつもりでいるのかもしれない。初めはチャーリーの事を怖いと感じていたけれど、こうして接しているとなかなか可愛いと思えてきた。ダイヤが嘴に当たるカチャカチャという音とチャーリーのブツブツ言っている何だか分からない言葉が耳に心地いい。


私も心の中で綺麗ねと声を掛けながら優しくジュエリーを拭き上げていった。


「こんにちは。」


「コンニチハ。」


ピンクの宝石が付いたネックレスを手に取ったとき、上からゴロリとダイヤが落ちてきた。びっくりして見上げるとチャーリーが私を見下ろしている。目が合うと何事も無いかのようにダイヤとチャーリーの脚に繋げられたチェーンを引き寄せダイヤを拾い上げまたカチャカチャと始めた。なぜか分からないけれど チャーリーは私とこのネックレスに反応する。売りつけたいんだろうか?でも、商談なんてプライスタグの下がった商品を私なんかが買えるはずがない。丁寧に丁寧に拭き上げて棚に戻した。淡いピンクが輝いて本当に美しい。早く運命の人に見つけて貰えるといいね。


運命の人に見つけて貰えるといいね。この言葉は思いのほか心に残り、私は綺麗ねの言葉に早く運命の人に出逢えますようにと言葉を添えてジュエリーを拭き上げていった。最後の1個を終えるととても清々しい気持ちになる。


「終わったぁ。お疲れさま。」


「オツカレ。」


「結衣、終わったの?」


「はい。」


「お疲れさま。」


下の階からマダムが声を掛けてきた。ロフトから降り、レジカウンターに行くとソファに座ったマダムが赤いワンピース姿で白く毛足の長い猫を抱き、お客様と談笑している。何となく高貴な印象の猫はマダムに抱かれるとより一層その姿を際立たせた。そしてマダムも猫によって自身の姿を引き立てている。


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