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ステイジュエリー。


翌日、昼ご飯を済ませて家を出て1時にお店に着いた。重厚な扉を開けて中に入る。


「こんにちは。マダム。」


「あらっ、結衣こんにちは。ジュエリーがお待ちかねよ。今日は初日だから一緒に磨きましょう。いらっしゃい。」


「はい。宜しくお願いします。」


2人でロフトに上がると、昨日の鳥が私を見て


「ネンネ、ネンネ。」


と騒ぎ出し、マダムが鳥の体を優しくなで上げ嗜める。


「ノン。チャーリー、この子は結衣よ。今日から一緒に働く仲間よ。」


「結衣、結衣。今日カラ仲間カァ。」


悠長に喋る。本当に賢いらしい。仲間と言ってくれるなら私も今日からチャーリーと呼んであげよう。


「そう、宜しくね。チャーリー。」


「宜シク。」


「結衣、ここに座って。それとこれ。優しく、優しく撫でるように拭き上げてね。」


「はい。」


木で出来た丸椅子に座るように促され、柔らかなクロスとジュエリーを渡される。私はゆっくりと優しくジュエリーを拭き上げた。隣に座るマダムが手元をチェックしている。


「そう。良い感じね。でも結衣、ジュエリーを手に取るときは声をかけてあげて。小さな声でいいの。こんにちはとかおはようとかひと言でいいわ。そして磨きながら綺麗ねって心の中でいいから話し掛け続けるの。そうするとね、不思議なのだけどジュエリーの輝きが増すのよ。愛情を掛けると人も物も素直に輝いてくれるのよ。ちょうど結衣。貴女みたいにね。ただ貴女はちょっとムダが多いわね。それにほんの少し心がくすみだしてるわ。」


そう言うと笑いながらむにっと私の脇腹をつねった。そう、私は食べる事が大好きで嫌いな物なんて殆ど無い。ママの料理で飽き足らず食事後にスナック菓子を毎食後開けてしまう程なのだ。これはもうほぼ習慣でやらずにいられない癖。ママの食事で満たされている筈なのに食べてしまう。ママは毎日お菓子は体に悪いからと食事の量を増やしてくれたけど、それでも食べてしまう。今日からはそれに満腹やのメンチコロッケもプラスされる予定だ。悪い習慣をマダムに指摘されたようで苦笑いが洩れる。


「ヘヘヘッ。」


誤魔化すようにジュエリーを磨いたら首元にジャラリと何かが落ちてきた。昨日と同じピンクの宝石が付いたネックレスだ。チャーリーが落としてくる。マダムが拾い上げチャーリーに話し掛ける。


「駄目よ。まだ早いわ。求めてないの。」


「駄目。駄目。」


「そう。」


チャーリーが落としてくるネックレスを拾い上げ棚に戻すとマダムが話し掛けてきた。


「結衣、あのネックレスはどう?」


「可愛いし、綺麗ですね。」


「欲しいと思う?」


「いえ、私にはとても。」


「そうよね。」


柔らかな笑みを浮かべてジュエリーを見回す。


「結衣、ここにあるジュエリーはね、ステイジュエリーと呼ばれているの。」


「ステイジュエリー?待つ宝石?」


「そう、待つ宝石よ。ここにある宝石はみんな最良のパートナーを待っているの。人はみんな出会う人から身に着ける物。果ては食べる物まで縁で繋がっているの。これだってぴったり来る物を見付けられたらそれが運命の出会い。これでいいかって妥協したものって飽きたり、壊れたりするでしょう?それは縁が無かった物なの。他の誰かと結ばれる縁を壊してしまったとも言えるわ。結衣、貴女の今の体は無駄が多いわね。何故かしらね?」


答えられずに下を向いてしまう。


「まぁいいわ。貴女がここで働くということは私と貴女の間に縁が存在するって事なんだから。さぁ、ジュエリーのお手入れを済ませてしまいましょう。こんにちは。」


マダムはジュエリーを手に取ると話し掛け、優しく優しく拭き上げていく。眼差しまで優しくなっていた。


「こんにちは。」


私もジュエリーを手に持ち教えられた通り声を掛け、綺麗ね、綺麗ねと拭き上げた。途中でマダムが「上手よ。」と声を掛けてくれる。頭の中でジュエリーに声を掛けながら黙々と作業を進める。あっと言う間に3時間が過ぎた。


「結衣、ありがとう。綺麗になったわ。明日も宜しくね。」


「はい。お疲れさまでした。」


緑のトンネルを抜けて路地に出て満腹やの前を通り掛かったけれど、買うのはやめた。店を過ぎたら食べたいという欲望はきれいさっぱり消えていた。帰宅してお風呂に入りママが作った料理をみんなで囲む。この瞬間が幸せだ。私はアルバイトの話をみんなに話した。


「今日ね、ジュエリーを磨かせて貰ったの。ただ磨けばいいわけじゃなくて、綺麗ねって話し掛けたりしながら丁寧に拭き上げていくんだよ。そうするとね、不思議なんだけど本当に綺麗に輝くの。ふわぁって光を放つみたいに。」


「素敵ね。なんだか今日の結衣はキラキラして見えるわ。よっぽど楽しかったのね。」


「そうだな。パパにも結衣が眩しく見えるよ。」


「えっ、そうかなぁ。」


照れて顔を覆うとみんなが大笑いした。食事を終えても興奮が冷めず、食後のおやつの事もすっかり忘れていた。ママに食べないの?と聞かれて思い出した程だ。今日はやめておこう。


「今日はいい。」


「結衣ちゃんがお菓子食べないなんて珍しいねぇ。」


おばあちゃんが笑う。ママはお菓子の棚を閉めると温かなハーブティーを淹れてくれた。


「ルイボスティよ。良かったらどうぞ。落ち着くわ。何だか今日の結衣は子供みたいに興奮してるから。」


「ありがとう。美味しい。」


「そろそろ結衣もお菓子は卒業かな。」


隣に座ったママがからかうように肩をぶつけてくる。不思議なくらい食欲は落ち着いてハーブティーのお陰か気持ちも落ち着いた。明日が待ち遠しい。頭の中はそればかりだった。


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