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なれ初め。


翌日お店に行くとリチャードさんが肩にチャーリーを乗せて花壇の手入れをしていた。ご機嫌に鼻歌を歌い、チャーリーも肩の上でご機嫌に揺れている。


「リチャードさん、こんにちは。チャーリー、外に出しても平気なんですか?」


近くに寄っていくとリードも付けられていないチャーリーを肩に乗せていることに驚いて尋ねた。


「結衣ダッタネ。コンニチハ。チャーリーハ大丈夫ナンダヨ。僕ノ片割レダカラ。居ナクナッタリシナイノサ。」


「そうなんですね。じゃぁ、ごゆっくり。」


あまりの楽しげな様子に邪魔をしてはいけないと早々とその場を離れた。


「結衣、後デロフト二行キマスネ~。」


どこまでもご機嫌な紳士だ。出来れば来ないで頂きたい。もちろん本人には言えないけれど。お店に入るとマダムがうろうろと何かを探している様子だ。聞かなくても予想が出来た。


「こんにちは。マダム、もしかしてリチャードさんですか?」


「そう、どこに居るかしら?」


ぱぁっとマダムの顔が華やぐ。何て分かりやすいんだろう。


「チャーリーと外で庭のお手入れしていましたよ。」


「チャーリーと?まぁ。本当に全く子供なんだから。」


いそいそと扉を開けて出て行くマダム。パタリと扉が閉じてから「マダムも充分子供みたいですよ。」と声に出して言ってみる。


「そりゃ、子供みたいにもなるわよ。会うのも数か月振りなんだし。」


「紗希さん?!居たんですか?」


誰も居ないと思って言ったひとり言をロフトに居た紗希さんに聞かれてしまった。紗希さんはニヤニヤと笑っている。


「ふたりのなれ初め教えてあげようか?」


「なれ初め?」


「あっ、知らないんだ。なれ初めって言うのは恋の始まり、出会いって事。」


「はぁ。」


椅子に座りジュエリーを手に取る。話を聞かないつもりではないけれど、仕事もこなさなければいけない。これで紗希さんの話す気が削がれたならそれまでだ。


「マダムとリチャードはマダムの留学先のフランスで出逢ったんだって。」


「留学?」


「留学と言う名の逃避行。」


紗希さんは、私の反応を窺いながら話し続ける。そう言えばマダムは前に絵で挫折してフランスに逃げたと話してくれた事があったっけ。


「この前の話思い出した?」


私がコクリと頷いたのを確認して紗希さんは楽しげに話し出す。


「マダムね、自分が画家に向いてないって気が付いたとき、家に居るのが嫌になって一人きりで海外に飛び出したんだって。どうせならフランスに行ってみたいって。パスポートと必要最低限の荷物を持って。で、無事に辿り着いたのは良かったんだけど、空港を出てすぐに知らない人にスプレーをかけられて慌てて居たら、言葉こそ分からなかったけど現地の人が親切でタオルで拭いてくれたりして安心していたら••••••」


「君、スラレテ居ルヨッテ僕ガ教エタノサ。」


いつの間にかロフトに上がってきたリチャードさんとマダム。ふたりが紗希さんの言葉を遮って続ける。


「嘘だと思って荷物を探ったらお金が無くなっていたの。とてもびっくりしたわ。」


「ソシテ君は、僕二凄イ勢イデ怒リ出シタンダ。ドウシテ盗マレル前二言ッテクレナカッタノ!!ッテ。」


「そうそう。そして責任取りなさいよって詰め寄ったのよね。異国で言葉が通じる人なんて居なかったから怒りを全部ぶつけてしまったのよ。」


「トンダ言イガカリダッタヨ。」


リチャードさんがマダムを見て大袈裟に肩を竦める。


「デモ、コレガ僕ラノ運命ノ出逢イダッタ。」


フワリとマダムを抱き寄せた。マダムが頬を薔薇色に染める。


「一文無しになった私は、リチャードの店に転がり込んで働いたの。手伝ってみたらステイジュエリーを売るのは素晴らしい仕事でね、是非日本でもお店を出したいとメルシーを開店させたの。」


「今ハ、離レテ暮ラシタリガ少シ淋シイケレド、ヨーコハ本当二良クヤッテクレルカラ助カルヨ。チャーリーモ懐イテイルシ。」


リチャードさんが肩に乗るチャーリーを撫で上げると、バサリと1度羽ばたく。いつもは煩い奴なのにリチャードさんの話の腰を折らないように気を使ってるみたいだ。チャーリーは本当に頭が良い。


「そうだったんですか。出逢いは最悪でも結果最高のパートナーに出逢えたんですね。」


「結衣、良イコト言ウネ。」


ロフトに笑い声が響き、穏やかで幸せな時間が過ぎてゆく。

数日後、リチャードさんはフランスに帰っていった。

淋しげな様子のマダムに「またすぐ会えるさ」と言葉を残して。




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