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月光浴。


「ママ、今日帰り遅くなるね。マダムにお願いされてて9時位までバイトなの。帰り、迎えに来て貰えるかな?」


「えっ、9時までバイト?いいけど、大丈夫なの?またおかしな人来たりしない?」


先日、横柄なお客様に頬を叩かれた1件から我が家はアルバイトに対してナーバスになっている。あの日、マダムは家にやって来て誠心誠意謝ってくれた。でも両親は行かせるのは不安だと辞めることを勧められた。それを強く押し退けたのは私。「やりたいと思うことをやらせて欲しい。夏休みの間はメルシーで働きたい」と強く訴える事で夏休みだけの条件付きではあるけれど、了承を得られた。その後の夜バイト、あまりいい顔をされるわけがない。


「大丈夫。もうあのお客様は来ていないし、私も気を付けるから。行かせてお願い。」


「分かったわ。パパにはママから上手く言っておくから。いってらっしゃい。」


「行ってきます。」


お店に着くとマダムと紗希さんが忙しなく出入りしていてお店の前には大きな看板が立て掛けられていた。『本日休業』私がバイトを始めてから2度目の休業。今日は一体何をするんだろう?


「結衣、来たのね。待っていたわ。早く手伝って頂戴。」


私に気付いたマダムが大きく手招く。マダムの後からやって来た紗希さんの持つプレートにはジュエリーが乗せられている。


「結衣、ロフトのジュエリーを私のアトリエに運んで。落としたりしないように慎重にね。」


「はい。」


ロフトに駆け上がりジュエリーの載せられたプレートをゆっくり慎重にアトリエに運ぶ。アトリエにはテーブルに載せられたジュエリーが規則正しく並べられていた。そのテーブルの横では止まり木に止まったチャーリーがカチャカチャと忙しなくダイヤを転がしている。


「結衣、そのジュエリーを磨いて同じような間隔を置いて並べてくれる?」


「はい。」


マダムの指示通りに磨いたジュエリーを並べていく。ずらりと並べ終えるとすっかり日が落ちて月明かりが射し込んできた。


「そろそろ良いわね。」


マダムがアトリエの明かりを落としカーテンを開けた。月明かりにジュエリーが煌々と照らされ息を呑むほど美しく輝く。さっきまでお気に入りのダイヤをカチャカチャ転がしていたチャーリーも静かになった。


「今日は満月よ。お店のジュエリーに月明かりを浴びせて月光浴をさせるの。」


「月光浴?」


「そう、月光浴よ。月明かりにはね、浄化作用があるの。特に満月の月明かりは浄化作用が強いのよ。人が浴びても効果があるの。あなた達もしっかり浴びると良いわ。満月の晩には狼が現れると言うけれど、今夜はどうかしら?」


マダムが言い終わるのとほぼ同時に紗希さんのアトリエの小さな扉のノブがガチャリと動いた。お店は閉店で閉めきって私たち3人しか居ないはずなのに。


「嫌だ。マダム、怖い!!」


あまりの恐ろしさにマダムの後ろに回り込み、身を隠した。



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