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やりたい事ってなんですか?


ここ数日気が重い。ジュエリーを磨いていてもあることだけが頭を離れない。私には夢がないという現実。好きな事、やりたい事。夢につながる何かを探すけど思い浮かばない。マダムや紗希さんはどうやって夢を掴み今の立ち位置を手に入れたんだろう?


「心ここに有らずって感じね。雑だわ。」


いつの間にかロフトにやって来たマダムが私を見下ろしている。


「磨きが終わったら下にいらっしゃい。」


返事を待つこともなく下に降りていってしまった。きっと叱られる。そう思うとますます憂鬱になった。何とか磨きを終わらせてマダムの待つレジカウンターに向かう。


「お疲れさまでした。」


「お疲れさま。結衣、チャーリーが居ないとしっかり磨けない?」


「いえ、違うんです。考え事をしていて。」


「考え事?」


言うか、言わないか心の中で迷ったけれど、言ってみることにした。マダムなら私の悩みを解決してくれるかも知れない。


「あの、私マダムや紗希さんみたいにやりたい事や夢が無いんです。全然。人生はみんなと同じように学校に行って就職して結婚して家族を作って当たり前に過ごして行けば踏み外すことは無いって思ってました。」


「それも素敵な人生ね。」


穏やかな笑みを浮かべてマダムが答えてくれる。


「でも、違うのかもしれないって思ったんです。」


「それはなぜ?」


「マダムや紗希さんを見ていたらキラキラしていて眩しくて羨ましくなりました。やりたい事を見つけてそれを仕事に出来たら凄く楽しいんじゃないかって。マダム、やりたい事ってどうしたら見つかりますか?私には何が向いてますか?」


「知らないわよ。」


とても冷たい声で突き放された。マダムの表情も厳しいものに変わっている。


「夢や、やりたい事は自分で探すの。自分の人生に向き合って一生懸命足搔いて、足搔いて。少なくとも私は色んなものにぶつかって今の人生を手に入れたわ。今だって旅の途中よ。終わりは無いの。この命が尽きるまで。結衣は幸せな世代なのよ。大事に大事に育てられてレールから外れないように生きている。それも人生よ。本人がそれで満足なら充分幸せでしょう?人任せにするような人に夢ややりたい事なんてそう簡単に見つかる訳がないわ。」


「・・・・・・。」


返す言葉もなくうな垂れる。

確かに人に向いてる事を探して貰おうなんて他力本願もいいところだ。


「もう今日は、お帰りなさい。明日、またいつもの時間にいらっしゃい。お疲れさま。」


「お疲れさまでした。」


とぼとぼと歩き家に帰る。なんて恥ずかしい事を尋ねてしまったんだろう。泣きそうになったけれど悔しくて泣けなかった。すごくすごく遠回りをして頭を冷やして家に帰った。


「ただいま。」


「遅かったじゃない。どうしたの?もうみんな帰ってるのよ。」


「ごめんなさい。散歩してた。」


「もう、女の子なんだからもう少し用心しないと駄目よ。お風呂、ご飯どっちを先にする?」


「先にご飯食べる。」


お風呂に入ろうかと思ったけど、食事を先にする事にした。食欲なんてわかないけれど、食卓で家族の夢を聞いてみたいと思った。


「いただきます。」


おじいちゃんの合図で食事が始まる。気持ち野菜が多めに並べられた食卓は今日も華やかだ。


「ねぇ、ママやパパって私くらいの時、夢ってあった?」


「えっ?」


2人とも不思議そうな顔で見つめてくる。


「だから、やりたい事とかなりたかったこと。」


「ああっ、そう言うこと。ママは保母さんになりたくてピアノ習って短大行って保母さんになったわ。楽しかった。でも、途中でパパに出逢って結婚して結衣が生まれて家族が増えて。今はみんなの健康と成長を見届けるのがママの生き甲斐だわ。」


「パパはアイドルになりたかったなぁ。」


「アイドル!?」


「そうだよ。事務所に写真を送ってね。1度だけ書類審査に受かって二次面接に進んだんだよ。落ちたけどね。」


「なんで?」


「歌が致命的にヘタだった。」


恥ずかしそうに告白するパパを見て皆で笑い転げた。確かにパパの歌はそう上手くない。でもそんな風に考えてた頃があったんだ。パパにもやんちゃな少年時代があったんだなと不思議に思う。


「私たちは生きることに一生懸命だったわね。夢とか希望とか二の次三の次。」


唐突におばあちゃんが話し出しおじいちゃんがウンウンと頷く。


「戦後でそれどころじゃなかったからなぁ。食うのもままならなくて。今はいい時代だよ。何でもあるし、何でも出来る。」


「何でも出来る・・・・・・。」


確かに世の中は豊かで色々飽和状態だ。きっと色んな夢が叶う。でも私には思い浮かぶ夢がない。


「私、なりたいものとかないんだよね。おかしいのかな?」


「おかしくないわ。ゆっくり探してもいいんじゃない?」


「そうだな。大学にいって勉強しながらでも見付ければいい。慌てることはないさ。」


「お風呂でも入ってスッキリしてらっしゃい。」


「うん。」


パパもママも優しい。勧められるままお風呂に入り湯船に浸かる。生きることに精一杯で夢なんか見られなかった祖父母。夢破れた父に夢を叶え、その後家庭に入った母。夢も見られない私。本当に大学で学ぶ間に夢ややりたい事が見つかるんだろうか?頭がゴチャゴチャしてきて湯船にブクブクと沈んだ。













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