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はぐれ魔女と平凡無才の魔剣使い  作者: 阿木津 秋水
はぐれ魔女と傭兵団
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乗せられた

 リリィはニヤニヤと笑みを浮かべていたが、ユリアは何か府に落ちないことがあるのか、少し悩ましげな顔をしていた。


「あらなーに? なんで私が術式を知ってるかって話?」

「だって、術式が使えるのにどうして傭兵に?」

「家が没落して行く当ても何もかも無くなったから傭兵になった。 他に理由が必要?」

「ぼつらく……?」

「栄えていたものが衰えて滅びていくことよ。 私の家も昔は魔術師としてそこそこだったんだけど、次期当主になるはずだったあたしは見ての通り傭兵に、今頃屋敷は廃墟になってるでしょうね」


 自虐気味にそう呟くと腰に下げた革の袋から石を取り出し、


「汝、己が身に風を見えざる疾風の翼を纏わせん。 天翔ける風(ヴィント・フルーク)


 彼女がそう唱えるとやはり俺の体が浮かばされ、扉の目の前でぴたりと止まった。


「……なぁ、一ついいか?」

「あら、もしかして漏らしちゃった?」

「いや……そりゃビビるっちゃビビるけどさ、そもそも俺が飛ばされなきゃいけない理由あったの? これ」

「え? だってそこの坊や飛ばす訳にもいかないし、お嬢ちゃんは無効化されちゃいそうだし、色々都合が良かったのよ」


 相変わらず理不尽な理由で飛ばされたり戦わされたりと、俺の運の無さは他に追随を許さないのではないだろうか。

 そんな事を考えながら溜息を吐き、体を投げ出すと、体は徐々に床に近づいていき、うつ伏せになる形で床に触れ、少し前まで失われていた体の重さが蘇って来た。


「狭いのにこんなめちゃくちゃなことするなよな……」

「いいじゃないの、減るもんじゃないんだし〜」

「減るから! 肝が冷えて俺の寿命が縮むから!」


 俺が必死に抗議する様がさぞかし滑稽だったのだろう。リリィは腹を抱えてひとしきり笑った後目の端に浮かべた涙を指で拭い手に持っていた魔石を革袋にしまった。


「泣くほどおかしかったかよ」

「そりゃあもう! 超必死になって抗議してるんだもん!……ふっ……くっ、あははははははは‼︎」

『ざまぁねえなぁ小僧、クハハハハハハハ‼︎』


 そんな耳障りな笑い声が部屋中に広がり、場の雰囲気は和んだが、俺の心は曇るばかりだった。


 蛇足のようにくだらない話で時間を浪費した後、リリィは居住区画へ俺たちを案内した。


「はい、この部屋が貴方達が寝泊まりする部屋ね」


 案内された部屋には少し厚めの粗末な布と、古びたテーブルと椅子が置かれており、布団はおろか、ふかふかのベッドすらもなかった。


「……なあ、ちょっといいか?」

「あら、何か不満でも?」

「ベッドは……?……ふかふかのベッドは……?」

「そんなもの全員分あるなんて言ってないわよ? あんた達は下っ端なんだからふかふかのベッドなんて使えるわけないでしょ?」


 唐突にクルトの言葉が頭の中を何度も通り過ぎ、自分達が乗せられた事に気付いた途端、俺は叫び声とも怒鳴り声ともいえない声を上げていた。


「おぃぃぃぃぃぃぃぃぃ‼︎ 騙しやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

「あたし達は一応使ってるし嘘はついてないわよ、多分」

「なんで!」

「ふかふかのベッドならあるって言われたんでしょ? 団長は使えるとまでは言ってなかったんじゃない?」

「んあぁぁぁぁぁぁぁちくしょう! こんな事なら一思いに宿でも借りてーーーはぁ……もういいよ、野宿よりゃマシか……」


 がっくりと項垂れて案内された部屋に入り、床に敷かれた粗末な布を手に取り、その場に座り込んで部屋の粗末さを嘆いていると、後ろから声を掛けられた。


「まあまあそんなに嘆かなくてもそのうち使えるようになるわよ、多分」

「多分おじさん今の聞いてないと思うよ」

「……おじさんじゃねえよ……おにぃさんだよ……」


 呻き声のような声でそう返すと、リリィはケラケラと笑いながら部屋を出て行った。


「それじゃ、優雅な傭兵ライフを楽しんで頂戴」


 扉が軋む音を聴きながら、俺は手元にある布を見つめて大きく溜息をついた。


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