第17話
火曜日の放課後、部室にはジャージ姿にマスクをつけた俺と江戸原琉歌の姿があった。昨日の放課後石谷先生に言い渡された部室の掃除をするためである。埃などで制服が汚れたり、口から吸い込んだりするのを防ぐのが目的である。
それにしても、学校のジャージというのは何故こんなにも格好悪いのだろうか。その色が余計に格好悪さを引き立たせている。八咫高校では、学年ごとにカラーが決まられている。紺、赤、緑の三色があり、ネクタイや校章、シューズの色で学年が判断できる。
3年間そのカラーで過ごし、卒業生のカラーが次の新入生に引き継がれるシステムである。3年が紺、2年が赤、1年が緑であった翌年は、3年と2年は前年のまま赤と緑、1年が紺のカラーになるという具合である。
俺たちの学年は見事に一番不人気の緑の学年にあたった。全身緑色のジャージは、どんな美男美女が身に付けたとしても、お世辞にも格好良いと言えない可哀そうな奴である。ジャージが可哀そうなのか、それを着せられる生徒が可哀そうなのか。
そんな不格好なジャージを全身にまとい、その上マスクをしているものだから、傍目には不審者にしか見えないであろう出で立ちである。隣には眼鏡なしバージョンの江戸原琉歌が立っている。あの不気味な口角の笑みが見えない分、怖さが半減している気もする。
「そろそろ始めるか」
「そうですね」
声をかけると、江戸原琉歌は心底嫌だと言わんばかりの雰囲気を隠そうともせずに答えた。本が好きなら進んで取り組んでもらいたいものだ。掃除と言っても、おそらく大半が本の整頓になるだろうから。
本棚から溢れた本を片付けるため、空き教室に放置されていた本棚を2台運んできた。1人で運べる大きさではなかったため、運ぶのは斉藤先生に手伝ってもらった。運び終わったら、職員会議があるからと斉藤先生はすぐにいなくなってしまった。
これ以上本棚が増えるのには抵抗もあったが、他に置いておく教室もなければ、あったとしても運ぶ気など起きるはずもないため、部室が圧迫されるのは我慢することにした。どうせ2人しか部員もいないため、広いスペースは必要ないだろう。
俺と江戸原琉歌は会話を交わすこともなく、黙々と本を棚へと運んでいく。本1冊ならば何でもないのだが、何百冊となると結構重労働であることに気付く。しかも、江戸原琉歌は気になった本をその場で読んだりするため、その結果俺の作業量が増えてしまっている。おい、仕事しろよ。後で読め、後で。
「江戸原さん、先に運んでもらえ――」
「読書中」
掃除を促そうとすると、江戸原琉歌はその言葉を遮り、俺のことをきっと睨みつけ短く言った。そして、また手元の本に視線を戻したのだった。読書を邪魔すると普段の5割増し程で威圧するらしい。何この人、超怖いわ。
働かない江戸原琉歌に内心で文句を言いながら、せっせと掃除を続ける。優しいから読書させてあげているのだ。決して江戸原琉歌が怖くて注意できない訳ではない。あ、あんな睨み全く怖くないし。