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文学少女と数学少年は交じり合わない  作者: 狗尾草
第2章 文学少女は居座る
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第14話

「部員が部室にいるのはおかしいですか?」

 なるほど、部員が部室にいるのは当たり前のことだ。それに関して尋ねてしまうなんて少し呆けていたみたい――。いやいやいやいや。部員? 江戸原琉歌が?


「江戸原さん、言っていることの意味が分からないんだけど」

「はあ、可哀そうになる理解力ですね。数学部の部員である私が、数学部の部室であるこの教室にいることに、何か問題がありますか?」

 江戸原琉歌はわざとらしく大きな溜め息を漏らしながら言う。可哀そうになる理解力とか言ってますけど、実力テストの結果は俺の方が上だからね。可哀そうなのは貴方の数学力だからね。それよりも数学部の部員って何だよ。


「江戸原さんが数学部の部員?」

「本野君の卑劣な謀略のために勝負には負けてしまいました。私は寛大な心を持っていますから、その不正行為を告発したり、改めて勝負を申し込んだりするような大人気ないことをするつもりはありません。

 が、その不正行為がなければ元々この部室は、私の私による私のための文学部になっていた訳です。よって、この教室を好きに使う権利は私にもあると考えるのが妥当です。

 仕方がありませんから、数学部の看板を掲げることは許してあげますが、私はこの教室で数学部の部員として文学部の活動をさせていただきます」


 江戸原琉歌の演説はまさに立て板に水である。卑劣な謀略めぐらせてないから。寛大でもないし大人気もないから。リンカーンの名演説が独善的に改悪されてるから。妥当ですとか言ってるけど、不正行為という前提は事実無根だし、論理は穴だらけだから。許してあげますって、貴方にそんな権限ないから。


「だから不正行為なんかしてないから」

「容疑者は無罪を主張するものですから。主張するならば不正行為をしていないという証拠を提示してからお願いします」

 江戸原琉歌はどや顔で言った。いや、表情が変わらないから、多分そんな顔してるんだろうなという想像でしかないが。ていうか不正行為をしていない証拠とか無理だろ。とんだ悪魔の証明だよ。


 あと口角上げて笑わないでほしい。怖いから。本当に先程の美人と同一人物なのだろうか。眼鏡ありと眼鏡なしで劇的ビフォーアフター過ぎる。眼鏡ってすごいよな。人相まで変えちゃうもん。ずっと眼鏡かけとけば良いのに……。


「まあ、良いや。それよりも、本当に入部するの?」

「当たり前のことを聞かないでいただけますか? 本野君も部員が2人集まって好都合だと思いますが。どうせ目星もついていないですよね。Win-winです」

 どこの世界で当たり前なんですかね? まあ、江戸原琉歌が入部してくれたら、わざわざ部員を探す手間は省ける。しかし、毎日のように江戸原琉歌と二人きりの教室に閉じ込められるのか。気が乗らねえ。


「分かった。俺も他の部員とわいわい活動するつもりはなかったから。互いに不干渉ということなら問題もないしな」

「ええ、私の読書を邪魔しないようにお願いしますね」


 部員を探す手間と江戸原琉歌を入部させるリスクを天秤にかけて、結局は入部を認めることにした。教室で読書しているだけなら別に問題はあるまい。とりあえず部さえできてしまえば、既存の部活動への入部回避という当初の目的も達成される。ここに、本野江戸原不可侵条約が締結された。

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