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文学少女と数学少年は交じり合わない  作者: 狗尾草
第2章 文学少女は居座る
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第11話

 誰が鍵を持っていったのだろうか。教師の誰かが用事でもあったのかもしれない。鍵がなくなっているなんてことはないよな……。そんなことを考えながら部室棟までの廊下を歩く。


 八咫高校は旧校舎と新校舎に別れており、両者は2階の空中廊下で結ばれている。勿論一回の入り口同士でも行き来できるが、教室や職員室が2階にあるため、行き来するのにわざわざ一回に降りるような面倒なことはしない。

 新校舎は20年程前に建てられたもので、県下の公立高校の校舎としては最も若く綺麗なことで有名である。授業はほぼ新校舎で行われており、旧校舎が使われるのは家庭科などの技能教科や何らかのオリエンテーションを行うときくらいである。


 そうした理由で使われなくなった空き教室が部室として使われている訳である。学校の備品などを置いている教室もあるため、部室として使えるのは旧校舎の2階、3階の数室になっている。部室棟と呼ぶのは正しくない気もするが、学校内ではその名称で親しまれているため構わないだろう。


 廊下を歩いていると、グラウンドで練習する野球部やサッカー部の掛け声、新校舎横のホールから響いてくる吹奏楽部の楽器の音が混ざり合って聞こえてくる。よくあんなに頑張れるものだなと感心する。

「本野ー!」

 空中廊下を歩いていると、突然名前を呼ばれた。辺りを見渡すが人の姿はない。

「本野、こっち! 下!」

 どうやら廊下の下から呼んでいるらしい。下を覗くと、神木亮介が野球部のユニフォーム姿で手を振っていた。


「野球部の練習はどうしたんだ?」

「1年はランニングなんだよ。ああ、早くボール触りたい」

 尋ねると、神木は笑いながら答えた。いや、話しかける前にランニングしろよ。


「サボってたら怒られるんじゃないか?」

「ちょっとくらい大丈夫だって。本野は何してんの?」

「部室に行く途中」

「あれ、何部だっけ? 将棋? 華道?」

 何故将棋になるのだろうか。一度も将棋なんて言葉を発したことはない。まして将棋なんてルールも曖昧にしか知らない。華道は論外。神木には俺が華道を嗜むように見えるのだろうか。そんな節穴で野球ができるのだろうか。目医者にかかることをお勧めしたい。


「なんでそんなチョイスなんだよ。数学部だよ」

「数学? うげえ、よく興味が湧くな。もしかして変態か?」

 変態じゃねえよ。世の中の数学好きな人々に謝罪しろ。というよりも、神木も理系クラスのはずである。数学嫌いなくせに理系を選ぶ奴の方が変態ではないだろうか。


「おい、神木! サボってんじゃねえぞ!」

 文句を言ってやろうとした瞬間、大きくドスの利いた声が響いた。

「やばい、監督じゃん。本野、また明日な」

 神木はそう言い残すと、全力疾走で走っていってしまった。やっぱり怒られてるじゃんと溜め息が零れる。つくづく適当な人間である。


 神木の背中を見送った後、気を取り直して部室棟へと向かう。数学部に与えられた部室である203教室までは1分もかからなかった。電気が付いているため、誰か中にいるのは確実だろう。

 扉に手をかける。軽く横に引くと少し動いた。どうやら鍵も開いているらしい。恐る恐る扉を引いていく。古い割にはあんまり軋む感じはなく、扉は音も立てずスライドした。

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