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文学少女と数学少年は交じり合わない  作者: 狗尾草
第2章 文学少女は居座る
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第10話

 東條奏多が教室からいなくなってから数分、荷物の整理を終えて教室を出る。向かうのは職員室である。数学部の部室の鍵を借りるためである。2人目の部員がまだ見つかっていないため、仮の部室でしかないのだけれど。


 江戸原琉歌と初めて会い、部室を賭けて実力テストの点数で勝負することになったのがちょうど一週間前、先週の月曜日である。その翌々日の水曜日に実力テストが行われ、金曜日には3教科全ての結果が返ってきた。

 結果から言うと、自分は江戸原琉歌との勝負に勝った。見事に残り一室となっていた部室の権利を勝ち取ったのである。


 水曜日の実力テストを受けた時点では、負けるかもしれないと思っていた。数学に関しては、勿論お茶の子さいさいで、1問を除いて完璧に解けた自信があった。しかしながら、如何せん問題が簡単だったのだ。差がつかない恐れがあった。


 最初に結果が出たのは国語だった。金曜日の一限に返ってきたのだが、56点という可哀そうな点数だった。俺は悪くない。現代文が悪い。その休み時間に上位30名が公表された。トップには「1. 江戸原琉歌 2組 94点」の文字。化け物かよ……。

 1教科目で40点差という事実に打ちひしがれていると、後ろから「本野君」と呼びかけられた。振り向くと、江戸原琉歌が初対面のときと同じ目でこちらを睨んでいた。「30位にも入っていないようですけど、大丈夫ですか?」と言って、彼女は笑みを浮かべた。体中に鳥肌が走る。笑顔の方が恐怖を誘うとは一体何事だろうか。


 昼休みには英語の結果が張り出された。「9. 江戸原琉歌 2組 88点」「23. 本野栞 5組 76点」の文字を見つける。英語もできるのかよ……。国語、英語の時点で50点の差である。どうしてテストで勝負したんだと猛烈に後悔していた。


 5限目に数学のテストが返ってきた。92点――まずまずの点数だ。勝つためには江戸原琉歌が41点以下でなければならないのだが、告げられた平均点は58点。それを大きく下回るとも思えず、部室の権利は完全に失われてしまったものと考えていた。


 放課後、職員室隅の一室に集まった。お互いの解答用紙を見せ合うためである。黙って帰ろうかとも考えたのだが、男としてのプライドが邪魔をした。重い足を引きずるようにして職員室へと向かった。

 先に着いていた江戸原琉歌は顔を見るなり、「私の靴を舐める覚悟はできましたか?」と微笑みながら言った。おい、そんな約束はしてないぞ。あと、笑うの止めてもらえますかね。怖いので。


 お互いに解答用紙を渡し合う。見たくはなかったが、見ない訳にもいかない。と、解答用紙の右上を見て、一瞬目を疑った。数回瞬きしてみたが、変化はなかった。江戸原琉歌の数学の解答用紙には、大きな赤字で「33」と書かれていた。……。数学ができないにも程があるんじゃないですかね。


 江戸原琉歌に目を向けると、彼女は鬼の形相をしていた。ああ、蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなんだろうな。「本野君、不正の件は今正直に言えば、許してあげます」と表情を変えずに言った。いや、不正なんかしてないですし……。

 その後、数十分にわたってカンニング、教師への賄賂、点数偽装と様々な不正行為を疑われたのだった。冤罪って怖い。


 ということで、江戸原琉歌の壊滅的な数学センスに同情しながら、見事部室の権利を獲得したのである。あと一人の部員に関しては、部室でゆっくりと考えることにしよう。


「失礼します。部室棟の203教室の鍵を借りに来ました」

 職員室に入って言うと、石谷先生が返事をして鍵を取りに行ってくれた。1分程して戻ってきた石谷先生は、首をかしげながら言った。

「本野君、鍵は誰かが持って行ってるみたい。部室に行ってみたらどうかな?」

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