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文学少女と数学少年は交じり合わない  作者: 狗尾草
第1章 数学少年は計画する
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第1話

「――入部届は4月末までに提出するようにね。今日は以上です。日直さん、号令をお願いします」

 担任の石谷薫いしたにかおるがそう言うと、名前も知らない男子生徒が間延びした声で気怠げに号令をかける。

 起立と言われて軽く腰を上げ、礼と言われて頭だけぺこりと下げる。傍から見たら無様な姿なのだろうが、周りも生徒も対して変わりない格好である。高校生にもなって真面目に「起立、礼」などやってはいられない。


 気持ちのこもっていない行為に何の意味があろうか。今更、小学生宜しく、背筋を伸ばせだの、声を揃えろだのと注意されるのは御免であるが。

 何の必要があってしているのか小一時間問い詰めたい。いや、別にそこまで興味もないけれど。が、一体誰に問い詰めれば良いのだろうか。校長か、教育委員長か、それとも文部科学大臣か。


 ふと、箒を持った男子生徒が目に入る。ああ、そういえば掃除の時間である。掃除は嫌いではないが、何事も強制されるとやる気が起きないものである。外国の学校だと外部の業者に委託しているところも多いと聞くが、何故生徒に掃除させるのだろうか。

 何の必要があってしているのか小一時間――以下略。まあ、掃除の場合はまだ理由も分かる。自分たちが使ったものを自分たちで綺麗にするのは当たり前と言えば当たり前に思える。


 今週、自分の班は3階の音楽室の当番になっている。わざわざ2階の教室から歩かなければならないのは面倒だが、使われない分教室よりは掃除が楽なので良しとしよう。早く行かなければ、そろそろ先生に怒られてしまう。


 そんなことを考えていると、背中に突然衝撃が走る。

「どーん! しおり、何考えゆうがー?」

 振り返ると一人の女子生徒が自分を見上げていた。東條奏多とうじょうかなた――最初の席替えで後ろの席になった騒がしい奴である。身長は150あるかないかで、その童顔も相俟って、小学生と言われても何の違和感なく受け入れてしまいそうなほどに幼く見える。

 四国の鰹が有名な県の出身で、高校入学と同時に引っ越してきたらしい。まだ方言が抜けていない。というよりも、わざと方言で話している節がある。県民には申し訳ないが、あまり可愛い感じがしない方言である。博多弁は可愛いって聞いとーったい。


「別に何も考えてねえよ」

「えー、面白くないなあ。次はもっと笑える答えを期待しちゅうき」

「笑える答えって何だよ」

「知らん! 自分で考ええや。そんなんやと女子にモテんよ」

 要求しておいて丸投げとは酷い奴である。それよりも、いつでも面白いことを言わなければモテないのか。触覚があって手が生え変わったり巨大化したりする緑色の戦士や、手が4本になったり4人に分身したりする3つ目の戦士が可哀そうである。


「ていうか、早く掃除行かんと先生に怒られるで」

「行こうと思ったら、お前が話しかけてきたんだろ……」

「私のせいかー。じゃあ怒られたら慰めてあげるよ!」

 恨めし気な目を向けると、東條は誤魔化すように笑みを浮かべて元気に言う。それを見ると責める気持ちもなくなってしまうからどうしようもない。小動物的な彼女は庇護浴を刺激するからずるい。かわいいは正義なのである。


「ジュースでも奢れ。じゃあ、また明日な」

「えー、100円までね。また明日―」

 東條に挨拶してから荷物を持って席を離れる。教室を出て階段へ向かっていると、後ろから石谷先生の声がした。「東條さん、真面目に掃除してくださいね」――あいつは何をやっているんだ。

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