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「名前を名乗れないような奴は信用ならない」

 再会を分かち合おうと砂の娘の肩に触れようとしたところに、俺たちの間に割って入ってきた見知らぬ甲冑の男がいま彼女が組んでいるチームメイトだと紹介されたけれど、適当に挨拶を返したのが気にくわなかったのか。

 いつものごとく酒造りだと名乗れば、眉間に寄っていた皺をさらに深く刻み込んで下から睨み付けられた。

 まぁ、純粋に身長差ってものがあって普通に話をしたとしても見上げられていただろうけどな。

 さぁて、どうすっかな。

 片手を顎に当てようとして食べかけの串焼きを持っていることに気付く。

 やべぇ。もう少しでタレを落とすとこだった。

 そのままぱくりと一口かじって肉を引き抜く。もぐもぐと咀嚼していると「聞いているのか」と唸るような声音で問われた。

 もう片方の手は子供と繋がっているし、これが両手塞がりってやつだな。なんて思ってみる。

 手元から少し視線を上げて一緒にいるはずの子供をちらりと見れば、同じようにもぐもぐと肉に齧り付いていた。

 目が合って、子供がきょとりと目を見開くさまが小さな俺の黒い相棒と重なる。

 おい、あんまりそういうとこばっかり似てくれるなよ。それとも、オンナノコはあざとい方が良いんだっけか? なんとも言えない気持ちに思わず空を仰いだが、見えるのは建物から建物へ渡された綱にぶら下がる色とりどりの布切ればかりで奴の影すら見つけられなかった。

 あー、うん。そうだな。怖がっているようでなければいいか。と視線を男に戻す。

 がっしりとした体格に、見た目の装備的にも重戦士っぽく真面目そうなヒトの男だ。

 別に、信用されようがされまいが、うちの顧客になるわけじゃないしなぁ。……でもまぁ、友達の子供の、仲間(・・)であることに変わりはないわけだしな。

 ごくりと口の中のものを飲み込んだ。


「では、私はここでお別れしましょう」


 俺が口を開く前に、にこりと柔らかな笑顔で彼女は告げた。

「申し訳ありませんが、私の大事な人にそのような暴言を吐くような方とは一緒にいられませんわ。他の方にもそうお伝えください」

 おぉ。なんかよくわからんがこれ、ヤバいやつだな。……いや、ホント。美人は怒らせるもんじゃない。笑ってるのに怖いとか、先生並みだぞ。まぁ、先生を怒らせて怖いのは先生だけじゃないけどな。

「明日の待ち合わせにはもちろん行きますわ。お仕事ですもの」

 受けた仕事はどうするんだ! と男が驚いたように聞いてくるのをかわすように言い捨てると、彼女は俺の串を持った方の腕を引き寄せそのまま祭りに賑わう人の波に入った。



 あれよあれよ、という間に通りを一つ越えて小さな路地に着いてから彼女はなぜか「ごめんなさい」と、しおらしく頭を下げてきた。

「いや? ちゃんと気を付けて歩いてくれただろ」

 振り返れば、どこから舞い戻ってきたのか(いや、ずっとそばには居たんだろうけどな)使い魔がはぐれずに済んだおじょーの食べ終わった串を回収しているところだった。

「そうではなくて、彼の態度のことですわ。あのような人とパーティを組んでしまっていたなんて!」

 怒っているというよりは拗ねているように私だって聞いてないと唇を尖らせている娘にくすりと笑う。

 俺としてはこれから、これ以上は関わり合うことの無い奴だろうから名乗られたが聞き流したし、多分、今はまだ覚えている容姿も、もう忘れるだろう。

 だから。

「別に気にしてないよ。だから気にすんな」

 あー、でも、そうだな。そういえば言っていなかったっけな。

 別に隠しているわけじゃない。酒造だって言った方がわかりやすいし、仲間内にはそれで通してるから名乗る必要もなかったし。

 父親である砂は知ってるかもしれないが、あいつらだって名前には拘らない奴らだしな。

 必要になるのはヒトの街で宿に記帳する時ぐらいだな。

「アシュイリー。ジン、だ」

 ぽかんと珍しく抜けた顔をしている彼女に、さらに笑みが浮かぶ。

「俺の名は、ジンだ」

 呼ぶのはどっちでもいいよ。そう言って、彼女の頭をくしゃりと撫でたら使い魔に足蹴にされた。

 悪かったよ。いくら知り合いの子供だからといって年頃の女の子に軽々しく触れたりして。

 痛む後ろ頭に、もうしないと心に刻んだ。

 ……少なくとも覚えてる間は。


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