73
祭のたけなわは夜からだと聞いていたがすでに始まっているからか、楽しそうな笑い声と市のような呼び込みがそこかしこから聞こえてくる。
空は晴れ、肌寒さはあるものの特有の活気があってまさしく祭り日和だった。
活気のある空気に浮かれ、いそいそと足を踏み出そうとしたところへ目の前を遮るようにくるりと回る黒い生物がその細い足先でこちらの足元を差してくる。
その先に人混みに紛れそうな小さな頭を見て、今日はもう一人連れがいることをやっと思い出した。
多分はぐれたらヤバいよな? 右手を差し出すと大人しく繋がれてくれた。
しっかり握り返して、左肩に掛けた荷物の位置を直す。
んー、どうすっかなぁ?
がりがりと頭を一掻きして辺りを見回した。
そこかしこで陽気なニンゲンたちが祭りを謳歌している。
漂う匂いから判断して、半数は酔っ払いというやつだ。
水のような軽い酒とは言え、昼日中からビールが飲み放題となれば普段より飲む量は増える。
飲む量が増えれば、言わずもがな。
酔っ払いの質の悪いのに絡まれて酒自体が嫌になられると、俺の職業的にちょっと困る。
この子供にはあまり見せたくない。
自分一人ならどうとでもなる。あと一匹もいるけれどヒトの街にいる時はあまり姿を見せないようにしている。さっきは俺が忘れそうになっていたから顔を出したけれど。
それとも今のうちに慣らせておくべきか。
……まぁ。追々でいいか。
あんまり気にしすぎるのも、なぁ。一番は楽しく飲むことだし、仲間内の奴らでも悪酔いする奴がいないわけじゃないしな。とはいってもそういうやつが出れば他の奴からボコられるけど。
先生のとこだったりすると暴れる前にこっそりとヨークに摘まみ出されるらしい。
とりあえず今は俺がそばにいるし、大丈夫だろうと人込みに乗り込んだ。
夜の国のそれのような華やかさはないが、ヒトの国の祭りはとにかく賑わいと勢いがある。
キョロキョロと辺りを見回す子供の手を引いて立ち並ぶ屋台を冷やかしているうちに、香ばしい香り漂う串焼きの屋台に誘われた。
出がけに何かしら口にいれていたものの、もうそろそろ日は中天に差し掛かろうとしている。
思い出したらぎゅるると鳴りだした腹を宥めつつ、ツマミ兼食事になりそうなものを探すことに決めた。
まずはやっぱり串焼きからだな。
ついでだから街に着いた途端、大慌てで出店の準備に行った職人カップルにも差し入れしてやろう。
幸いにも通貨は今持っている分で何とかなった。
多めに包んでもらった内の二本を二人で一本ずつ持ち、出店と出店の間で人込みを避けるように後ろを向いて、がぶりと一口。
……うん。やっぱりシンプルな塩味に外れはないな。そういう意味でめちゃくちゃ美味いわけじゃないが。あー、ビールも一杯貰っとけばよかったなぁ。
「酒造さん!」
んん?
ざわざわとした喧騒の中、呼ばれて振り返った先に見知った灰色と視線が合う。
ポカン。間抜けな顔で立ち止まる俺の目の前にヒトゴミを縫うように現れたのは、砂の娘アシェイリーだった。
「お久しぶりです」
嬉しそうな笑顔に釣られこちらの顔も緩む。
子供と繋いでいる方とは反対の手を上げて挨拶代りに軽く振った。




