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 出掛ける前に一杯どころか一晩時間をくれるという女とその恋人を家に迎え入れてやることにした。


 始まれば一日どころか一晩で改装を終えそうな森を、それだと出掛けられないからゆっくりやれと細工職人が藤色の髪を揺らし何やら言いくるめて帰していた。

 作業は明日からにすると後ろ向きに手を振る奴に、

「明け方とかだったら迷惑だからやめてよね」

 まるで追い払うようなそれを苦笑しながら見送った。

 実際のところ俺たちがいようがいまいが、寝ていても気付かせずに仕事できるんだろうから、迷惑になるはずもない。

 女には好きなようにさせるのが一番だと身を持って知らしめる男たちの姿に、そういえば俺の周りってそういうのばっかりだな。なんて思う。

 似たような奴らが集まるってのはホントなんだなぁ。

 アレだ。類は友を呼ぶってやつ。

 まー、なんていうか。出掛けるために作業を長引かせるなんて本末転倒というか、何やら何かが逆になっているような気がするが、彼女の一番の目的がうちのおチビさんを連れ出そうとしてくれていることだとわかっているから、とりあえず口出しはしないでおく。

 そろそろ何処か出してやりたいなぁとは思ってたんだが、どうにもこういうのは苦手で。

 女のことは女の方が多分、きっと詳しい。

 そいでもって、逆らわないのが良いのだ。多分。

 玄関へと至る数段の階段を上がりドアを開けると、話が終るのを待っていたらしい呆れた顔で立つ子供の姿に右手をひらりと上げれば「おかえり」の言葉がかけられて、それに「ただいま」と返す。

 その際、二人になぜかニヤニヤとした表情で見守られた。ような気がする。

 ……ただの挨拶になんの含みがあるというのか、奴らの思考は計り知れない。

 まぁどうせ、大した話じゃないだろうし、どうせいちゃいちゃ始めるんだし、放っておいてもいいか。


 リビングで酒を片手にくつろぐ二人とはまた別の酒を自分のグラスに注ぐ。

「そういえば、お前も魔法生物だよな?」

 蒼魚草の実で造った酒は仄かに白く濁り、甘い香りを放つ。

 その甘い香りに違わぬドロリとした甘さを舌の上で転がしてゆっくり嚥下した。

 あー、美味い。

 噛みしめてると、もしかして、それってあたしのこと? と半眼で睨みつけてくる女に、好きそうだと杯を満たしてやれば少しだけ険を緩めてくれたようだ。

「……とっても失礼な言い方だけど、それがどうかしたの?」

「あー、いや、さ。勘違いしてたんだよ」

 元はと言えばお(じょー)と俺との使い魔の成長についての認識違いの話だったけれど、森とりょーしゅ様に聞いてそれが両方違っていたことを知ったわけだ。

 お(じょー)は大きくなれないということは成長できないと思っていたようで、子供のまま大人になれないのだと勘違いしていたし。

 俺は俺で奴らのことを魔法でいくらでも大きさが変えられる生き物だと思っていた。

 他にももっと複雑に色々、思い込みで勘違いしていたことはままあるが、これは、まあ、一番最初に見た魔法生物(それは森という名のヒドラのことだ)だとか、とにかくいろいろヒトじゃないモノと触れ合ったせいだということにしておく。多分、他にもまだまだあるだろう。

 なんにせよ、固形物自体は必要ないし、どこにでも魔力の余波はあるからそれを吸収すれば成長できるらしい。

 まー、ご飯を食べなくても大人にはなるもんだし、大人になればなるほど小さくなる奴もいるってことだ。

 とにかく、すべてが魔力で出来ているから。

「魔力がなくなったらお前も、萎れたり年くったみたいになるのか?」

 掻い摘んで説明してから聞くみると、めちゃくちゃ嫌そうな顔をされた。


「あたし達はどっちかっていうとヒト寄りだから、そこまでじゃないけど。でもあんたたちだって魔力ないけど、無くなったらちょっとはしわしわになるんだからね!」


 ……いや。それ意味わかんねーんだけど。

「しわしわになるの?」

 困ってがりがりと頭を掻きまわしているところへ、子供が横から声をかけてきたから「らしいよ」と返した。子供は、ふぅーん。と気のなさそうな返事をしてから上を見上げる。

「でも、この子は毛玉みたいだから、萎れてもわからないかも」

 ふよふよと視線の先に浮いていた使い魔が、呼ばれたからと言わんばかりにふわりふわりと子供の目の前に下りてきた。

 ……こいつ。俺の時は何やっても下りてこないくせに。


「使い魔くらいの魔法生物になれば、そのフワフワの毛だって魔力で出来てるのよ。保てないくらい魔力が減ったら荒れてぼさぼさになるか、抜け落ちるんじゃないかしら」

 そんな使い魔、見たことは無いけど。

 と続けて言う女の言葉に。そういえばそうだな。なんて思いながら大人しくお(じょー)に指先で突かれている黒い毛玉を眺める。

「あー、じゃあ。大丈夫だな。それだけコロコロしてツヤツヤしてんだから」

 嫌味ついでにそう言ってやれば。

「ん。ツヤツヤでさらさら、フワフワしてる」

 ふわりと笑う子供。

 おいおい、褒めすぎだろー。

 ほら見ろ。めっちゃ踏ん反り返ってんじゃねーか。

 ふふん。とか鼻息が聞こえそうだぜ。

 まぁ、でも。なんだ。雰囲気が壊れそうで言うのはやめといた。

 たまには俺も空気は読むんだ。なんて言い訳しつつ。

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