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 この間行った飲み会で(いや、この間が初めてというわけではない。何時だってそうだ)あんまりにもあいつらが「りょーしゅ様働き過ぎ。いくない。休むべき」だというので一つ手を打つことになった。


 とはいってもやつらは自分たちに課せられたノルマ面倒くさいとか、りょーしゅ様が言うから仕方なくやったのになんでか怒られただとか、一緒に酒盛りをしたい、と言った愚痴の方が多い。

 簡単に言えば、りょーしゅ様が仕事を休めば自分たちもサボりやすくなるってことなんだろう。

 あからさまに「仕事なんてしなくてもいーのにねぇ」、更には「外交なんてやめちゃえー」なんて言うのもいる。

 実際に必要なのかどうかは俺にはさっぱりわからないことなので、それに関しては適当に相槌を打っておいた。

 その後、いつものように挨拶がてら顔を出して一緒に朝食を摂った際の重い溜息から、(領民に対する呆れのものだったとしても)これは本当に疲労しているようだと思うに至る。

 ちゃんと見るとこは見てるんだな。聞き流して悪かったなー。なんて感心しつつ、疲労回復や療養には温泉が良いのだと森に、再三擦り込まれた身としては選択肢はほぼ一択しかなかった。

 快く誘われてくれたこともある。

 とりあえず珍しく先に連絡を入れて、二、三日泊まることにした。


「よぅお越しになられました」

 出迎えに現れたのはいつもの主だけではなく、黒髪のチョイときつめの美女が頭を下げる。

 前を重ね合わせて太めの帯を腹部に巻くといった何処かの少数部族の民族衣装だという服装は、落ち着いた淡い水色で白抜きのユリのような花が裾を飾る。

 美の良し悪しがわからない俺にも良いものだと思わせた。

「珍しく女将が居るな」

 軽く挨拶を交わし、傍に寄ってきた森にこそりと耳打ちする。

「今回はちゃんとした客だからな」

 連絡を入れたかいがあるな。なんて思っていると。

「いつまでそんなところでぐずぐずしているの! さっさと荷物をお持ちして案内なさい!」

 さっきまでのにこやかな表情から一変目尻を吊り上げ、ぴしりっ。どこから出したのか鞭がしなり森を打ち付ける。

「いててっ、わかった、わかったって」

「口答えしないの!」

 いつもの小芝居が始まったな。

「あー。気にすんな。もうちょっと待ってれば終わるから」

 眺めながら隣で微妙に硬直しているりょーしゅ様に一声かける。

 いーよいーよ止めなくて。こういうもんだから。と言えば、そういうものかと納得していなさそうだけれども頷いてくれた。

 前に森がなんか言ってたあれだ。様式美ってやつらしい。

 一通り茶番が終るのを待つ。

 まぁ、俺も久々に見たせいで多少びくりと身体が揺れちまったのは仕方がないよな? 美人は怒るとホント相当怖い。

「んじゃ、そろそろ行くか」

 森の声かけに、ほっと胸を撫で下ろしたのも内緒の話だ。斜め上から注ぐ憐みの視線など、ないったらないのだ。


 案内された彼の為に選ばれたであろういつもとは違うフローリングの部屋で、やっぱり靴は脱がされ室内用だというスリッパに履き替えさせられる。

 毛足の長いラグが敷かれ、転がろうと思えばできなくもないが、まずは一休みだと森が用意するお茶を待ち切れずにテーブルに置かれた菓子に手を出そうと、背の低いソファーに腰掛けた。

 同じように隣に座ったから食べるのだと思って一口サイズのそれを差し出そうとして、視線の先が違うことに気付く。

「りょーしゅ様?」

「……あ、その、これは」

 指差したのはテーブル。ではなく、そのガラス張りの天板を飾る白く薄いヴェールのような織物。

 何処かで見たことあるような。

「ああ、しっぽちゃんから貰い受けたんだよ。美味い料理(めし)のお礼に」

 しっぽちゃんと言えば砂の嫁さんで、ということは当然お嬢ちゃんことアシェイリーの母親だ。

 戦闘服という名のひらひら薄布を思い出せば、そりゃー見たことあるわって話だ。

「へぇ。リチギってやつだな」

 会話が聞こえているのかいないのか、何やら難しそうな顔で、あんまりにも端のレース部分を矯めつ眇めつ眺めているモノだから気になるのかと問えば。

「ええ。まぁ……」

 上の空な様子で曖昧な返事が返ってきた。

 これは見たことがあるぞ。仕事のことを考えているんじゃないか? などと当たりを付けてみる。

 多分自分とこの布とか考えて目まぐるしく頭の中を回転させているんだろう。

「知ってるぜ。あんたみたいなのをわーかーほりっくっていうんだろ?」

 ちょっとニヤニヤしながら言ってみる。

「どっちかって言えば、そりゃあ職業病の方だろうよ」

 と、室内着の準備をしていた森が呆れたような声音で言った。

「どう違うんだよ、っていうか職業病って何だよ」

「おまえと一緒でな、なんでも自分の仕事に当てはめて考えたりするんだよ」

「ええー。同じじゃあないのかよ。俺もかよ、ってかさ。それだとお前もだろ? 森」

「いや、お前よりましだと思うぜ。なんせ、仕事も趣味も特技すら酒造りなんだからな」

「なんだよ。それのどこが変なんだよ」

 普通だろ。と口を尖らせる。


「……とりあえず、君にだけはワーカーホリックだなんて言われる筋合いはないってことがわかったよ」


「なんでだよ!?」

 さっきまで思考の海(どこか遠く)へ行っていたはずりょーしゅ様の台詞に思わず突っ込んだ。

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