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 黒々とした連なる山脈の影を横目にその裾に沿って進む路は荒野。

 ゴロゴロとした岩場の風景から徐々に大きく目立つものが減っていく。背の高い木から低い潅木へ。

 青々とした草が色褪せ、白茶気ていく。

 道程は長い。

 砂漠は広いが、そこへ辿り着くまでも遠いのだ。

 遮るもののない視界の先に見える青い色の小屋は、目立つようにみえて思うよりそうでもない。

 ようやくそこそこの大声をかければ相手も気付くだろうと思うところで、ほっと息を吐く。

 そこへ乾燥し熱のこもった空気の、殴るような勢いの風に思わずたたらを踏んだ。

 無意識のうちに上げた腕を目の前から外せば、風と共に降り注いだ細かな砂を吸い込んでしまい、げほげほと激しく咳き込む。

「だからお前ん()まで持ってってやるって言ったのによ」

 上から振りかかる呆れた声と、傍に走り寄ってくる気配は別物だ。

 差し出された水筒に口を付け、ほんの少しの水で口内の砂を漱いで吐き捨てる。

「大丈夫ですか」

 安否の声にすっきりして顔を上げて、横の心配そうな見知った灰色の髪の娘に感謝の言葉と共に水筒を返せば彼女は緩く首を横に振って、にっこり微笑んだ。



「あー、もしかして、結構待たせたか?」

 久しぶりと軽く挨拶を交わす。

 まぁ、そりゃあ他にも用があったんだけどさ。それでも約束の日付にはまだなってないはずなんだけどな。

 日除け替わりのフードを、今度は用心深くそっと掴んでから後ろに撥ね退けた。

「んにゃ。そうでもねぇ」

 ニヤリと笑い胸の前で緩く腕を組む筋肉質な大男が答えると、傍らの娘アシェイリーも口を開く。

 今日の服装はあの戦闘用のひらひらではなく、強い日差しの為か厚めのローブを纏っていた。

「大丈夫ですわ。パパは砂が大好きですから、いくらでも時間を過ごせちゃうんです」

「おうよ。大好物だぜ!」

 嬉しそうにサムズアップ。

 ……いろんな意味が込められていそうだがここはあえてスルーしておく。

 こういうのは下手に突っ込むと長話に突入する。俺には砂の良さとか美味さとか語られても、到底理解できないからな。

 だから、やっとスルーできるようになったのかって成長を見守る的な視線はやめろ、使い魔め。

「で、どうだったよ?」

 改めて首尾を問う。

 そうだ、俺にとって必要なのは砂の話じゃない。どうでもいい話は逸らすに限る、とか思っちゃあいるが、それだけじゃないんだからな。

 まぁ、ここが砂漠で砂地であるからこそ、隊長こと「砂」に頼んだわけなのだが。……というか俺もヒトの事言えたもんじゃないが、ヒドラってやつはなんでこう好きなモノの名前で呼ばせるんだろう。ヨークみたいな方が変わっている。

 とにかくそうやって返事を待っていると男は眉間にしわを寄せつつ、へにょりと眉を下げて、それがなぁ。と口を開いた。

「今回は小振りなのばかりだったなぁ」

 肩を竦めながら渡された袋の大きさは前とあまり変わりはないように思えた。


 砂漠の薔薇(デザート・ローズ)といえば言わずと知れたこの白銀砂漠名産の入浴剤として有名だが、実のところ本物ではない。

 だからといって偽物でもない。

 砂漠に棲む貝の化け物が内包する、言わば真珠のようなものだ。ほんのりとピンクかオレンジ色をした拳大の丸っこい物体の、その核に形成される星型の赤い石のような物が真の砂漠の薔薇(デザート・ローズ)だ。

 外側の削りかすを砕いたものが入浴剤になる。

 砂の言葉に首を傾げながら袋を開け覗いてみれば、其処にはすでに処理済みのキラキラと赤に輝く石がごろごろと入っていたが、確かに一回り小さいようだった。

 これを一度酒漬けにしてから磨り潰して薬酒の材料にする。案外知られていないようだがかなり美味い。

「あー、でも。結構数入ってるな?」

「おう。修行代わりにそこらへんのを片っ端からのしてやったぜ」

「あ、大丈夫ですよ。ちゃんとキャッチアンドリリースですから。次に獲れなくなっても困りますものね」

「あれはあれで美味いんだけどなぁ。ま、しょうがないから他で捕まえるか」

 実際この地に棲むモノは巨大で一度暴れれば人々にはどうしようもなく、魔貝などと呼ばれているが砂漠や砂地であればどこにでも生息している生物ではあるし、今では養殖すらされている。真のデザート・ローズを生成できるようになるには何十年単位で育成が必要だが、名産品を作る程度のものなら二、三年もあれば十分だ。

 料理された貝の味を思い浮かべたらしい男は急くように、娘を伴って帰って行った。

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