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 頭をガリガリと掻きまわしながら窓を開ければ空はすでに青く、それでもまだ太陽の位置は低い。

 久しぶりに朝と呼べる時間帯に起きたな。と眩しさに目を細めると、涼しい風がふわりと前髪を揺らした。

 腕を振り上げつつ欠伸を一つ。

 振り返って見た、サイドテーブル一つ挟んだ向こう側の新しいベッドに人影はない。

 引っかけていたサンダルに足を通しなおして足首で軽く紐を縛ってから、のそのそと階段を下りたところで漂う甘い匂いに誘われてそのままキッチンを覗けば、其処には粉塗れの一匹と一人の姿があった。

 黒い毛玉が真逆色になっているとか珍しい。などと思いながら挨拶に声をかける。

 朝食に差し出されたサンドイッチを頬張りながら何をしてるのかと尋ねたら、まぁ、見てのとおり菓子作りだった。

「この前食べたの、おいしかったから」

 あー、そう言えばここのところちょくちょく作ってるかもな。

 酒造りに残った搾りかすを乾燥させて小麦粉と一緒に混ぜて焼き菓子やパンにするのは昔、森に教えてもらった料理だった。

 バターに砂糖を入れて、ミルクや卵黄はその時々で使ったり使わなかったり。

 砂糖の代わりにはちみつを入れるとカチカチになる気がする。

 分量は適当だが、用意するのは使い魔だから実はしっかりと量られているかもしれない。

 まぁ、大抵は面倒くさくてそこらへんに撒いて捨てる。

 気が向けばハーブとかの採取地に肥料代わりに撒くこともある。

 森が潤うのは良いことだ。

 焼きあがったものを皿に盛り、次のトレイを竃に入れ換えるのを眺めながら水差しからグラスに水を注ぐ。

 すでに何度か繰り返されていたらしく、山盛りの皿は二つ目に突入しているようだった。

 味見なのだろう、そのうちの一つ二つを二人(?)でうんうんと頷きながら食べている。

「おじょー、あんまり食べさせるなよ」

 声をかけ、摘まみ上げた熱々の焼き菓子に二度ほど息を吹きかけ冷ましてから口の中に放り込めば、ほろほろと舌の上で甘さを残しつつ解けるように溶けていった。

 ん。けっこう美味い。

 顔を上げるともったいぶったようにちまちま、わざとらしく体の割に大きな目を細めながら食う使い魔の姿。

 ……これは、子供の前で猫被ってやがるな。あざとい奴め。一口で皿ごと食えるくせに。

 口の中に残る焼き菓子特有の粉っぽさを水で流すように、グラスを一気に呷った。

 と、下からの突き刺さるもの言いたげな視線に、その先を促す。

「前から思ってたんだ。これって虐待じゃないのか?」

 使い魔と顔を見合わせ首を傾げた。

「前に雷と氷が言ってた。使い魔は可愛がってやらないと、って。何か一つ頼んだあとには必ずご褒美をあげるんだろう?」

 あー、あいつらめ。余計なことを。

 思わず額に指先を添え、そのまま前髪を掻き上げた。

 俺の微妙な表情に気付いていないのか子供は、ほんのり不機嫌を滲ませてさらに口を開く。

 前よりずっと顔に出るようになったのは良いけど、こういうふくれっ面ばっかりってのもちょっとなぁ。

「お駄賃代わりって言うか、ご飯やお菓子をあげるんだって言ってた。……あんまりあげてないよな?」

 おいこら、そこ。目ん玉落っこちそうなほど見開いて、キラキラさせんな。

 いや、お前のは食いしん坊じゃなくてその先にある、巨大化が望みなのは知ってるけどな。

「ご飯あげないと大きくなれないって」

「待て待て待て、あいつらが言うデカさなんて家ん中入れなくなるぐらいだぞ!?」

 奴らの可愛い(・・・)使い魔を思い浮かべて身震いする。

 つい最近、森ンとこのデカブツを見たばっかりのせいでその想像はリアルだ。

 自分たちがずっとデカくなる生き物だからって、デカくさせ過ぎだろう。って。いや、まぁ。それで何とかなってるんならいいんだけどさー。


「でも、いつまでも大きくなれないなんて、大人になれないなんてかわいそうだ」


 ぽつりと呟くように言う姿を見て、やっと気づく。

「……一応言っておくけど。こいつ、子供じゃないからな?」

 どんな誤解をしていたのかは分からないが、使い魔という種族(もの)に食事は必要ないこと、与えれば与えただけ食べること、その分際限なく大きくなること。

 説明する間自分のことだと理解しているだろう当の生き物は、俺たちの少し上で偉そうに無い胸を張るように踏ん反りながらふわりと浮かんでいた。

「それにどっちかつーと、俺の方が踏んだり蹴ったりされてるだろー」

 そっちの方が虐待じゃね? 

 いや。お前さ、さも当然みたいに頷くなよ。まー、しょーがねーよな。こういうヤツだし。

 奴の態度と俺の苦笑いに納得したのか、やっと。

 笑みを浮かべるのを見た。

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