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 サーサーと籠るような微かな雨音の合間にぱちぱちと火の爆ぜる音が洞窟内に響く。

 風が入り込みにくいように少し奥に入り込んだにもかかわらず聞こえてくる音が、雨の激しさを物語っているようだ。

 入り口に向かう方に濡れてしまった薄手の外套とシャツをロープに広げるように掛け、少しは防音の足しにしたところで雫垂れる前髪を掻き上げれば上から乾いた厚手の柔布が頭にふわりと落ちてくる。

「おー、ありがとな」

 頭を布でガシガシと掻きまわしながら焚火の前に胡坐をかいた。



 星の眷属の国で楽しい楽しい宴を満喫したあと、化け物蜂の天然蜜壺からはちみつをかき集めて、さぁ帰るかと夕暮れを背に歩きだしたころぽつぽつと降り出した雨は、暗くなるにつれて質量を増したため、身動きが取れなくなる前にと近くにあった洞窟に飛び込んだ。

 最初に街道沿いを行ったせいもあってカンテラドラゴンを捕まえることができなかったから、携帯の小さなカンテラには蝋燭を入れて火をつける。

 真っ暗な空間に少しでも明かりが灯れば、多少は人心地がつく。

 ほっと一息吐いたそのとたん、びかっと後ろから真っ白の光に一瞬照らされた直後の衝撃音に飛びあがった。

 外はすでに嵐の体で風は強く、横殴りの叩きつけてくる雨から逃げるように洞窟の奥へと進んだ。

 使い魔が焚き火の準備をする間に水を吸ってすっかり重くなった外套を脱ぎ棄て、中に着ていたシャツのボタンをはずす。

 貼りつくそれをゆっくり剥がすように脱ぐ。

 ここで急ぐと余計に脱ぎにくくなるし、くしゃくしゃになった状態で搾れば後で絡まって大変になるからだ。

 ひとしきり搾り終わったところで後ろで一際暖かい火が灯る。

 ……いっつも思うんだけどよ。こんな雨降ってるときにどっから調達してくんだろうな? 薪ってか、枯れ枝とか。いや、まぁ。助かってんだけどな。


 雨は嫌いじゃない。

 降っている時も雨上がりも。

 まー、でも。これだけ降られると夜は駄目だな。

 ランプを灯しても視界は皆無に等しい上に、足場が心許なくなる。

 一番はどんな生き物がそばに居ても気づきにくいことか。

 嵐の夜にこそ彷徨く魔物がいることもある。

 もしくは、普通なら何処かへ潜んでやり過ごすだろうこんな時にも出歩かなければならないほど切羽詰まっていれば。そんなモノと出会ってしまえばどうなるかなんて考えるまでもない。

 乾いた服にすぐ着替えられる家がそばにあってこそかなぁ。

 雨さえ止めばすぐ乾くような暑い季節だということも、風邪をひくような寒い季節でないことも幸いか。

(などと今そんな風に考えていたとしても、それが雪交じりであっても外へ出ることに躊躇いがないことを使い魔は知っている)

 乾いた布で粗方ふき取ったとはいえ、それでも一度ぐっしょり濡れた体は冷える。

 焚き火に手を翳しながらつい最近家にできたばかりの温泉に思いをはせた。

 小さな黒い相棒がヨークに頼んで掘らせたそれは、冬場の暖をとることにとても重宝した。

 夏にはあまり必要無いかと思っていたが、そうでもないようだ。

 とにかく手っ取り早く温まるために荷物袋を引っかき回した。


 温めたピリリと辛い螺旋楓の酒にせっかくだからと採りたてのはちみつをひと匙、ふた匙。

 前に造った時は量が少なかったうえに、元々ヒトにあげるためだったからあまり堪能できなかったのだ。

 甘い果物のような、それでいて甘ったるくない、柑橘系の爽やかさとはまた違う柔らかい甘さの香りに思わず口元が緩む。

 彼の国を守るという化け物蜂の蜜を大量に手に入れるためにわざわざりょーしゅ様に了解を取ったかいがあったというものだ。

 マドラーでゆっくりかき混ぜれば何処か香草臭い黒い液体が淡いピンク色に染まっていく。

 まるでヒトの都で見たカクテルのようだな。

 などと思いつつカップを傾けた。

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