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城壁沿いの街道を上を見上げながら歩く。
空は青く、灰色のはずの石壁は日の光を反射して白く輝いて眩しい。
ふらりふらりと前を飛ぶ使い魔が、顔の上に影を落としてくれるおかげで手を翳す必要はないが初夏の日差しはそこそこキツく、少しばかり目を眇めるようにする。
「たっかい壁だなぁ」
なんてぼやけば、連れの男が転ぶなよと笑った。
王都に入る前には検問があった。
一昔前に訪れた時には、夜になれば門が締まるのは変わらないが昼間はもっと普通に通れたような気がする。
そう言うと、「それ、一昔どころの話じゃないだろ」なんて突っ込まれた。
まー、そう言われりゃあ、どのくらい前か? だなんて覚えてるわけねぇや。
……まてよ。ホントにこの国だったかなぁ。んー。でもまぁ、こんなに物々しくはなかったはずだ。多分。
隣の大陸ほどではないにしても、こちらの大陸でも魔王があちこちで名乗りを上げているらしいなどと聞けば、自身の住む森の側にも出たくらいだからそういう時期に嵌ったのなら仕方ないのかと思ったりする。
群雄カッキョならぬ群悪カッキョってところだろうか。
魔物が増えるなら警戒もするものだろう。
そういった場合には治安が悪くなり、盗賊団が跋扈するからだ。
証明書は連れの男が用意した。
何処でどうすれば手に入れることができるのか、ということすらわからないことを思えばありがたい。
「石化の森から来たなんて正直に言っちまえば、確実に化け物扱いされちまうからな」
理由があって偽装するのは構わないが、だからと言って男一人物見遊山の旅に護衛に傭兵を雇うものなんだろうか? そっちの方が無理があるんじゃないか?
などと思っていたがあっさり通されて拍子抜けする。
そういうのが主流なのかと問えば、なんのことはない。奴が普段から入り浸り、顔パス状態だったようだ。
久しぶりにやって来たヒトの都での目当ては酒場巡り。
今、流行のものから新しい銘柄まで、出来ればいろんなものを試し飲みしに来た。
ヒトの作る酒は多少キツイものがあっても酔うことはない。
どちらかと言えば興味があるのは味の方で、同じ種類の酒でも少しずつ味わいに違いがあって面白い。
いや、まぁ。土地柄やその育成状況によっても味は変わるものだからいつも同じ味のものができるなんてことの方が奇跡に近いってのは、俺の造る酒でも一緒なんだけどな。
普段飲める酒とは違う風味を楽しみに来たってことさ。
あとは、希少な雑誌を手に入れるのも楽しみの一つ。
あー、新しい酒の本が出てるといいなぁ。
昔のように朝から晩まで開いてるような酒場は減っているらしく、お目当ての店が開く夕方まで街中をぶらつくことになった。
きょろきょろとおのぼりさんよろしく辺りを見回す。
その時々で建て方にも流行があるらしい。とやっぱり少し記憶とは違うレンガ調の家屋を眺めた。
最初に連れて来られたのはバーだった。
それもどちらかといえばカクテルのみを出す店らしい。
狭い店でカウンター席しかなく五、六人も入れば満員になるような店だ。
今日は奇跡的に席があったと連れの男は興奮気味に語る。
仲間内が良く行くところにはいつ開いてるかわからないような店がたまにあるが、そういうのと同じようなものだろうか。
なんて言うと、開いてても入れないのと本格的に開いてないのとでは全然違うと何やら熱く語られた。
あいつ等の場合は本当に気紛れで気分次第な上に、長生きだからか気が長い。
俺の「ちょっと」も長いと言われることがあるが、奴らほどじゃない。
確かに開いてさえいれば客の回転が悪かろうが入れる可能性があるかもしれないと納得する。
待つのは苦手だけど。
奴がおすすめと言うだけあって、味は美味かった。
こちらが注文するのではなく、バーテンダーが好きにシェイクしたのを欲しい奴が声をかけて手に入れる仕組みが一風変わっていて面白い。
ただ、なんていうか俺は大酒飲みってやつで一口で無くなる量は物足りない。
海底都市の王様が酒瓶一本程度じゃ酔えないって言っていたのを思い出す。
見た目はヒトと同じ大きさでも本体は大きさが違うからだ。
行くことはあるかもしれないが、彼王に会うことはもうほとんどないに等しいだろう。
けれど、まー。機会があれば、大樽の二、三個で持ってってやることにしよう。
頭の端っこに留め置いて、次の店に向かうために腰を上げた。




