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 元魔王の住む島は既に春の日差しが降り注ぎ、せっかく着てきた厚手の外套を脱ぐ羽目になった。

 暖かいどころか暑い。

 空高く、上空を飛んでいる時には丁度良かったけれど。

 この島の周りを南から暖かい海流が北へ巻き込むように流れているからだ、とかで他より少し暑い時期が長いらしい。

 迎えに待ち構えていた魔族の男が言うには流れの速さも相当のようで、時には渦巻き、近づくのが困難な事もあるらしい。

 もしかしなくても前に来たときに船酔いしたのはそのせいが過分にあったんじゃないかと思う。

 もう一度確かめるような気はないけれど。

 いやホント、絶対無理だし。もう船になんか乗らないからな!

「おい。これ、……おぉ。ありがとな」

 脱いだものを使い魔に渡せば上から別のジャケットが落ちて来る。

 さすが俺の相棒。あれだ、お見通しってやつだな。

 上着を羽織りなおしたところで、招待者が現れた。

 降り立った場所が城の横の開けた庭だったからすぐに到着したのがわかったのだろう。

 挨拶もそこそこに土産の酒を渡す。

 ここの葡萄で造ったものだから土産になるか微妙なところだが、相手が喜んだので良しとする。

 魔王様自ら果樹園に案内された。

 大方収穫し終わった後だというが残りものだなんて思えないほど、こちらにとっては極上と遜色のない果実に胸が躍る。

 意識がそっちに向かいっぱなしで上の空なのことに揶揄われつつ、彼はあっさり「また後で」と退いて行った。

 片っ端から採集しながら、味見にいくつか頬張る。

 すでに小さな黒い相棒の姿は傍にない。俺好みの素材集めをしてくれてることだろう。

 お。この前見た黄金林檎ほどじゃないが、これならいいシードルになるな。

 あっちもこっちもと目移りさせて広大な果樹園を渡り歩けば、気付いた時には夕方になっていた。

 慌てて戻ったが迎えに来た元魔王は長く放っておいたにもかかわらず、少し揶揄うように笑っただけで食事を用意してくれた。

 前回と同じく彼手製の料理はここ特製の酒や持って来た酒に合うように作られているらしく、美味過ぎて一口食べるたびに称賛の声を上げるのでいっぱいいっぱいだった。

 特にデザートのフルーツたっぷりのクリームパイはお代わりをした上に、ホールを丸ごと二つもお土産にもらった。

 なにこれ、なんでこんなに良い奴なんだよ。

「私はね、君と同じただの人だから、本当に大したことは出来ないし、した覚えもないんだけどね」

 何故か名前だけ売れてしまってね。

 溜息のように吐かれたあと、さらに「やれやれ」なんて困ってんのか困ってないのか良くわからない顔で言っていたのを見て。

 魔王ってのも大変なんだなぁ。なんて思ったりした。


 翌日、朝食もたっぷり平らげたのに残りも箱詰めしてくれて、鼻歌交じりに我が家に帰った。

 あーっと、いないのか。いつもならリビングか寝室にいるのに。

 人の気配がないってのは、本当に静かだ。窓を開ければ、外の風で騒めく木々の騒めく音が良く聞こえる。

 まだ、こっちは寒いなとやっぱり窓を閉めようとした時、大きな羽ばたきが聞こえてきた。

 扉の開く音で出入り口に顔を出せば、こっちに気付いた子供が足早に寄って来た。

 送ってきたトリスのライトグリーンの頭が覗いたから、挨拶代りに片手を上げる。

「帰ってたんだ。おかえり」

「おー。ただいま」

 目の前に立ってにこりと笑うから、こっちもなんだか顔が緩む。

 ポンと彼女の頭に手を乗せた。

「それから、ただいま」

 なんの戸惑いもなく出された言葉に、ふと動きが止まる。

 でも。まー、そうだよな。


「おかえり」


 今や此処はこいつにとっても家なのだから。

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