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 額に当たる軽い感触に意識が浮上する。

 ぺちり。

 薄く開けた目の前に翳された何かを振り払おうと出した右手が空を切った。

「あー、もー。なんなんだよ。……って、お前かよ」

 顰め面で見た視界の中の、顔の上でクルクル回る黒い毛玉に突っ込みを入れる。

 まぁ、こんなことすんのはこいつしかいないんだけども。

 起き上がって大あくびを一つ。

 前髪を掻き上げ、そのまま後ろ頭を掻きまわした。

 部屋の中に外の光が入ってかなり明るい。

 これはもう昼か昼前か。まぁ、そんなとこだろう。

「手紙? 珍しいな」

 サイドテーブルの水差しを引き寄せ、グラスになみなみと注ぐ。

 一息に呑み干せば体の隅々まで潤った気がする。

 すっきりと覚めた頭を上げて改めて振り返り、使い魔が足にぶら下げた封筒を受け取った。

「ぅおっ。なんだこれっ」

 裏側の封蝋に驚く。思わず出た変な声にすらびっくりした。

 差し出されたペーパーナイフで封を切る。

 いやいやいや、これ使うのも久しぶりって言うか。まだ有ったんだなこれ。

 恐る恐る開いたその手紙の主は元紫紺の魔王様。

 農園の葡萄が大豊作だとかで、良ければおいで。ってなことが流暢で堅苦しい言葉で綴られている。

 前に貰った葡萄とはまた違う品種らしい。

 あー、もしかして。これってあれじゃね? 招待状ってやつじゃね?

 さすが今までの奴らとは違うな。

 その上、覚えていて空飛ぶ乗り物まで用意してくれるとか。なにこの至れり尽くせりっぷり。

 ……魔王ってのは世話好きなんだろうか。

 あいつ等なんかだったら、いきなりやって来て「行くぞ」とか言いそうだよな。

 それどころか適当に採集してきて「持って来たぞ」とか。

 自分の目で見て収穫するのとはやっぱり違ってくるから、手ずから確認させてくれるのはありがたい。

 あとでそれを元魔王様に言ってみれば、「最低限のマナーだよ」とおっしゃられた。

 なんつーか、食事時以外のマナーとか初めて聞いたような気がする。

 どこからどこまでがマナーなのかわからないが。

 って、もしかしこれからもこの御方と接触が増えるならアポイントメントくらいは取るようにしておかないとな。

 そういう意味では俺も仲間内の奴らと違いはない。

 出掛ける先は大抵、その縄張りから出ない奴らのところだが、タイミングが悪くて会えないこともある。

 それはそれで仕方のないことだし、そういうものだと思っていた。

 確実に用事のある時しか手紙は送ってこなかった。

 ……そうだなぁ。次からはりょーしゅ様のところには出してもいいかもしれない。いつも忙しそうだし。

『ご招待有難くお受けします。さらに足の件もご厚意に甘えさせて頂きたく候』

 とにかく慌てて返事をしたためた。

 前回の分で作った酒も少し持って行くつもりもあったことだしな。



 空の旅は快適であっという間だった。

 数時間と経たずに彼が送ってよこしたのはグリフォンだ。

 それは巨大で美しい緑の羽根をしていた。日の光に柔らかく虹色に輝く。

 狂暴なはずの怪物は静かで大人しく、それでも鋭い眼差しはきりりと厳しい。

 きれいなものを見るのは大好きだ。

 文句を吐かれないのをいいことにその首筋をそっと撫でた。

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