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蓋を開けた樽にグラスで中の酒を掬う。
水玉から造られる酒はほんのり青い。
顔の側にグラスを引き寄せてみたが匂いも薄かった。
そのまま口の中一杯にため込んで、そこから味わいながらゆっくり嚥下する。
すっきりした甘味は悪くないが、やっぱり少しアルコールが低いのか物足りない感があるな。
グラスを傾け、残りを喉に流し込んだ。
長い筒のような鍋は両手に抱えるほどの大きさがある。
真ん中くらいから横に飛び出した薬缶の口みたいな管から酒を注ぐ。
本当は継ぎ足し用だけどわざわざ蓋を開けるのが面倒な時によく使う。
蓋の真ん中から伸びた長い管は途中で二度折れ曲がり、上には氷を入れた袋を乗せる。
その先には空の樽。
見た通り蒸留器ってやつだ。
薬酒やこういった弱い酒の時に使う。
「おい」
声をかければ上からふわりと降りて来た使い魔が心得たように持っていた箱を鍋の下に置く。
それはついさっき火山の主のところから戻ってきた火炎石だ。
パカリと蓋を開けさせると、熱気がふわりと上がってくる。
おー、あったけぇなぁ。寒い時期にはこれに限るな。
ちゃんと調節されて魔力を注がれた石はお湯が沸騰する温度までは上がらないようになっている。
直接触ればさすがに火傷をするだろうが、少し上で手を翳すくらいなら問題はない。
そうしてしばらく冷えた指先を温めた。
水玉は本当の名前を深海サボテンと言う。
実際の名を聞いたところでピンと来るやつはあまりいないだろう。
少しばかり値は張るが、普通に遠出する時は素より海の上や砂漠なんかを旅するには特に必需品だ。
風邪なんか引いた時にもただの水を飲ませるより、これの方が良いとか先生が言っていたっけ。
かすかな甘みがあって飲みやすいのは確かだ。
大きさは様々で、風船のようにパンパンに張ったそのボールのような物体の中には、その大きさ以上の水分が詰まっている。
その圧縮率というやつはかなりのもので、間違った開き方をすれば爆弾のように破裂してしまう。
ありきたりに水爆弾などと言うもう一つの二つ名で通っているくらいに有名だ。
例えば、刃物で刺そうとして吹っ飛ばされたその刃物で怪我をするとか。
とはいえ、投げたりするぐらいの衝撃で割れることはない。
岩なんかに当ててもゴムまりのように跳ねて、どこかに飛んでいってしまう。
運悪く尖った部分があれば、まぁ、そういうこともあるだろうが。
唯一の手段はそれ自身の針で突くこと。
サボテンと名が付くだけに元々その植物には無数にとげが生えている。
もちろん店で売られる際には針も棘も処理されてつるつるだから、知らない奴もそこそこいる。
俺もこの間まではその中の一人だったから偉そうなことは言えない。
いつも付いてくる針がそれ自身の棘だったなんて聞いた日には、へぇ~~。と素直に感心したものだ。
その名の通り深海で手に入れられるそれを海底都市で大量に貰い受け、酒にしてみたのだが。
んー。これはどっちにしろヒト用だなぁ。
樽の中に溜まり始めた酒を眺め肩を竦めた。




