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 家具職人は長い薀蓄に疲れたのか、挨拶もそこそこに話の途中で逃げるように帰って行った。

 玄関に行き着く前から獣の姿になっていたのを見るとどれだけ急いでいたのかが手に取るようにわかってしまう。

 思わず吹き出してしまったが、まー、わからんでもない。

 興が乗り出すと更に長くなる。

 与太話にするには真面目だし、茶化して説教にシフトされても困るし。

 面白くないとは言わない。

 でも、まー。限度はあるよな。

 気になるところだけ聞いておいて後は流すのが丁度いい。


 今度お礼に酒を届けることを約束して見送る。

 しばらく興味深そうに聞きながらちびちびとジュースを舐めるように飲んでいた子供も少し飽きてきたのか、ただ単に夜遅くて眠くなったのか欠伸が目立つようになってきたから上の寝室に追いやった。

 せっかく持って来てもらったもんを使わない手はない。

 いくらクッション性が良くてもソファとどちらの方が良いかなんて、広い方が良いに違いない。

 この子供は細いけれどまあまあ身長があるしな。


「それで、おじょーなんて呼んでいるが名前はどうしたんだ。もしかして異世界人だから呼ぶには難しい発音だからとか、そういうことか?」


 子供をフォローするように使い魔が後からついて行くのを眺めてから顔の位置を前に戻せば、いつの間にか講釈は終わっていたのか、向かい合わせに座る魔法使いがこっちをじっと見ていた。

 良く喋って喉が渇いていたのか、用意しておいた酒のグラスを一気に煽って魔法使いがさらに口を開く。

「俺のことも魔法使いだし、他の奴も名前で呼ばないよな? ……そもそも、前から気になっていたんだが名乗らないのにも何か理由があるのか?」

「名前を呼ばないのは、それが失礼に当たることがあるからさ」

「名乗っている時点でその名前を呼ばない方が失礼じゃないのか」

 んー。でも名前を聞く頃には今まで読んでた呼び方で定着してるしなー。

 そう言いおいて、ツマミの鳥皮の唐揚げを摘まむ。

 カリカリ、ぱりぱり。ときどき、もちもち。

 あー、美味いな。やめられないなぁ。トリスの奴、コレどこで買ってきたんだろ。もっかい買ってきてもらうか、店の場所教えてもらうかなぁ。

「二つ名があるなら、それで呼んだ方が良いって聞いたけどな。知らない奴には教えない方が良いとか。俺はそういう切り替えが苦手だし、面倒くさい」

 それで呼べって言われたら、まぁ、そうしても良いけど。

 グラスを持ち上げ、中の液体を揺らす。ほんのりピンク色のそれが縁に沿ってたぷんと揺れる。

「俺が名乗らなかったのは、このあたりで『酒造』と言えば俺だ、ってわかりやすいかと思ったんだけど」

 あれ? こういうの気にするってことはこいつは名前で呼ばれたいってことか?

 なんて考えていたら溜息を吐かれた。

「……魔法使いなんてありきたりだろう」

 あー、んー。うん。それ、まさにそれ。今ちょっと困ってるんだよなー。

 ソファに深く腰掛け背凭れに体重をかける。

 この前、砂んとこの娘が来た時二人のこと「おじょーちゃん」「おじょー」って呼び分けたつもりが、同じだと臍曲げられたことを思い出す。

 そのあと子供とした約束のこと。

 誰のことを呼んでるのか、当人同士で分かっていればいいとは思うけれど。

「まぁ、覚えてたらちゃんとザクアって呼んでやるよ」

 ニヤリと笑ってやった。

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