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彼を含めて大雑把な人々。
「おい。これ適当に回しといてくれ」
四つ折りにした手紙を二本の指で挟んで差し出す。ぷいぷいと身体ごと横を向きながら普段は隠れている細い鳥脚のような指、いや爪先で端を掴む。
って、まだ拗ねてんのかよ。
手紙をぷらんぷらんさせながらそれでも言いつけはきちんと守ってくれるつもりらしい。
窓までわざとらしくよたよたと飛んで桟のあたりで一度ちらりと身体を傾けるようにしてこちらを見てから、一気にすっ飛んで行く姿を見送る。
まったく、しゃーねぇーな。あとで機嫌取ってやるか。
しゃべらない使い魔の何を不満に思っているかなんて、聞かなくても分かるようになったのはいつの頃からだろうか。
まぁ、しゃべらないとはいえあれだけ態度で示していれば機嫌が悪いのは一目瞭然だが。
多分俺が、怪我をしたのが気に入らないんだろう。俺のこと大好きだからな、あいつ。
と言っても、あいつらは相手を気に入らなければ契約を結ばないらしいけど。
わきわきと手を動かしてみる。
先生のおかげですっかり元通りで、怪我をしたっていう痕跡もなければ実感もすでにない。
ただ、眠ったせいで汗をかいたのか少し体がべたつく。
小さなクローゼットを開け着衣を一揃え手に取ると部屋を出た。
リビングに顔を出せば命の恩人が、一人白衣の男は優雅に、一人派手めな男はその見た目に反して項垂れた様子でソファーに座って紅茶を飲んでいた。
「どうした」
「! 酒造り、だいじょーぶ?」
先に気付いたのは先生の方で、トリスも飛び上がるように立ち上がり声をかけてきた。
「おぅ、心配かけたな。……汗かいたから体拭こうと思ってさ」
水場を視線で指し示す。
それからテーブルの上の目に付いた水差しからコップに半分ほど注いだ。
「まさか、水を浴びる気か?」
着替えを置いてコップを手に持ったところで先生から声がかかる。
「あぁ、そのつもりだけど」
「こういう時に体を冷やすな。待っていろ」
「おー?」
立ち上がり、台所に消える。
お湯を沸かしてくれるようだ。
さすがお医者先生。患者にかいがいしい。って俺もう怪我治ってるから患者じゃないけど。
水を飲む俺の前にトリスが立つ。
「ごめん、酒造りぃ。実ぃ獲れなくしちゃって。避けたつもりだったんだけど燃え広がっちゃったみたいで」
おー、トリスがこんなしょげてるの初めて見たなぁ。
長いけれど癖っ気なのかいつもはあちらこちらにはねている髪も、心なしかぺたりと落ちているように見える。
「いいって。どっちかーって言うと俺のが、ありがと。だろ?」
なんせ一番最初に駆けつけてくれたんだからなぁ。
礼を言うのは照れるもんだな。なんかむず痒い。頬をポリポリ掻いてみる。
「ぅっ、さけづくりぃ~!!」
「! おっと!」
いきなり抱き着かれて踏み留まれずによろける。なんとか尻餅を着かずに済んだ。
が、礼代わりに酒盛り前に酒一本選んでいけよ。と声をかければ抱き付かれたまま飛び跳ねられしっかり尻餅をつく羽目になった。
危ねぇ。コップ、置いとけば良かった。まだ手放していなかった右手を掲げながら俺は思った。
「……こんの、鳥頭が」
お湯の入った鍋とタオルを持って思ったより早く現れた先生が唸るように言った。
あ、ヤバい。
その日見えない雷が俺ん家を襲った。