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欠伸が何度も口をつくようになって、そろそろ休憩でも取るかと一つ大きく伸びをしてさっきまで話してい込んでいた奴に断りを入れて立ち上がった。
久し振りに触れた仲間内の宴会の雰囲気に飲まれたのか、足元はおぼつかない。
やれやれ、酔ってもないのに酔った呼ばわりされそうだな、こりゃ。
思った途端に周りに揶揄われる。
適当に受け流しつつ、雑魚寝場所に提供された部屋に行こうとして、足を止める。
思いついて、賑やかで騒がしい喧騒を後に新鮮な空気を求めて外へ出た。
室内での宴会は時間感覚を少し狂わせていたらしく、出迎えてくれたのは予想もしない夜明けの光だった。
朝何徹したやらわからない身体を引きずって、砂浜との境目に腰を下ろした。
霧にけぶる海は金色に輝く。
眩しさに目を細めつつ、その美しさを堪能した。
見るだけなら感動し癒されるその景色に、ただ只管溜息を吐いた。
「……一杯やらにゃ勿体無いな」
これも迎え酒ってやつだよな。
荷物袋は置いてきてしまったから、見上げる先にふわりふわり浮かぶ相棒に酒を調達させる。
さっぱりしているのが良いな。……奥から三つ目。自分ちの酒蔵を思い浮かべ合いそうなのを選ぶ。
瞬きする間に戻ってきた使い魔にも分けてやり、こつりとグラスを合わせた。
もうすっかり日は昇り切っているが、そこはそれ。
一口口を付けたグラスをもう一度、今度は朝日に向かって軽く掲げてから呑み干した。
しばらくちびりちびりと酒を舐めながらぼんやりと眺めていたがグラスを落としそうになって、焦る。
本格的にこのまま寝入ってしまいそうだ。
海からの風にすっかり体が冷えてしまったし、そろそろ戻るか。
そのせいで風邪でも引いてしまえば、笑いものになるのは必須。
いくらお膝元だからといっても、気を抜きすぎだと先生に呆れられ、使い魔には鼻で笑う仕草をされるところまで見えるようだ。
それだけは避けないとな。
「きゅーー!」
「おっと」
背中に飛び掛かられる衝撃に既視感。
後ろからだった上にすでに座り込んでいたため、前のように尻餅をつくことはなかったけど。
いや、立ち上がるところだったから危なかったよな? 立ってたら間違いなく前のめりにぶっ倒れていたよな?
流石に胡乱な眼差しになって後ろを振り返れば、
「うむ。久しいな」
思った通り火山の主が腕を組み、見下ろしてくる。
「……これが挨拶の仕方なら、躾し直した方が良いんじゃね?」
「む。気に入らんというのか。こんなにも甘えているのに薄情な奴だな」
睨むな睨むな。怖いから。
赤い髪の偉丈夫は憤慨するように眉を寄せる。
「私とて、お帰りの挨拶ですらしてもらえんのだ。ありがたく受け取るがいい」
「いやいや、それはいつも一緒にいるからじゃねぇの?」
羨ましいとか言われても、俺のせいじゃないぜ。
ころりと赤いフワフワのひよこ(というには大きさがサッカーボールほどもあるからか、どうも縫いぐるみのような体である)が胡坐をかいたその真ん中にぽすんと落ちてきた。
「む。受け取れとは言ったが、まだ嫁にはやらんぞ。気持ちを受け取れということだ」
わかってるよ。とは思ったが口についたのは別のことだった。
「っていうかさ。酒盛りに子供連れてくるか?」
「問題無い。すでに嗜んでおる。この子はきっと酒豪になるだろう」
あー、……うん。もう何も言うまい。
誇らしげな彼にはこれ以上何を言っても聞いてもちぐはぐな答えが返ってきそうだ。
一々修正して聞き直すには眠気で頭が回らない。
「今来たとこなら先生のとこ行くだろ? 俺も戻るから一緒に行くよ」
せっかく腰を落ち着けたとこ悪いけどな。
奴が頷くのを確認しながらきゅーきゅー鳴くヒヨコを抱き上げ、尻に付いた砂を片手で払った。




