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ゴリゴリと石の擦れ合う音が低く作業場の床を這うように響く。
カラカラに水分の飛んだ草や実は簡単に砕けるが、粉にするにはまだまだ手がかかる。
ざっくりと粗方潰して終えたものは後で乳鉢でさらに細かく磨り潰すのだ。
ごりごり。ざりざり。
終らせたものを瓶に詰め、コルクの蓋を締めればひと段落。
手袋を外して一息吐いた。
目の前にグラスの縁を掴んだ相棒がふらふらと降りてくる。
「おー、ありがとな」
流石使い魔。丁度喉が渇いてたんだ。受け取って一気に半分ほど飲み干す。
良く冷えた水が喉を通ってすっきりしたら、思ったより疲れていたのか長い溜息が出た。
「おーい、お嬢」
腹減ったし、なんか食うか。どうせ準備できてるだろうと声をかけながら立ち上がり、伸びをした。
ずっと座ってるとなんか、身体固まるよな。
飲み切って空になったグラスを置いた。ついでに肩もぐりぐり回しておく。
やれやれ。……ふと返事のなさにリビングに顔を向けた。
今は端に寄せてあるが、扉のない続き部屋には簡易に布をかけて仕切れるようにしてある。
深くソファーに座る子供は背凭れに頭を乗せ眠っているようだ。
傍に寄っても目が覚めないところを見ると眠りは深いのか。
最初の頃に比べたらそのくらい気を許せるようになったのだろうか。
前はこのくらい近寄ったら、目をぱかりと開けたものだが。
見下ろしてまじまじと観察してみる。
会った時も思ったけど。あの時ですら憔悴していたとはいえなんていうか、こう。凛々しそうな顔立ちしてるよな。将来はイケメンとか言うのになりそうだよな。オンナノコだけど。
まー、今はちょっと口開いてて、あどけない。ってやつだな。
さてと。いつまでもこうしててもしょーがねぇし、飯にするか。と、肩に手を伸ばした。
「おーい。トリス居るかー?」
ランチというにはちょっと遅めで食事を終えて、「出掛けるぞー」と連れ出した先は森の中の湖。
どうなるか分からなかったから暫く様子を見てたけど。そろそろ行った方が良いよな。
一番熱い時間帯な上に日差しはまだまだきつい。自分用も準備したが、薄手の上着を羽織らせた。
ついでに釣り具も持って行く。
丁度良いから晩飯に魚でも捕まえよう。
困惑顔の彼女をそのままに、岸から湖の小島に口の横に手を立てて大声を出した。
あー、説明すんの忘れてたけど。顔合わせるだけだし。
「なぁに? さけづくりぃ」
ふわり、ひらり。
まったり、のんびり空から現れた長いライトグリーンの髪の男は、大きく手を振りながら背中の翼を羽ばたかせる。
……なんで目の前の島じゃなくて、後ろから出てきたんだお前。
珍しく用事でもあったのか、邪魔したなと謝罪すれば「ブラブラしてただけ」と間延びした答えが返ってきた。
まー、いいけどさー。
振り返れば後ろにいたお嬢が丁度俺の前になる。
ぽん。と、その頭に左手を乗せて、
「しばらく一緒に住むから。あー。てか、今一緒に住んでっから。まぁ、頼むわ」
降りて翼を何処かに隠したトリスに言う。これで、見かけても攻撃することはないだろ。
いや、まぁ。子供にいきなりそんなまねする奴じゃないけど。あれだ。森にいる限りは気にかけてくれんだろ。
……あー。やっぱ一応言っとくか。
「あいつ、トリスな。暴れたらあぶねーけど、悪い奴じゃねーから」
と言えば、見てわかるくらいに不貞腐れられた。
悪くないって言ってんのに「……なんかヒドくない?」とか言ってくるから「ふつー、ふつー」と答えておいた。
あんまり機嫌損ねるのもなんだから、後で飲み来るかと誘っておく。
これで浮上してくれるんだから、良い奴だよな。ホント。




