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空を仰ぎ見て、やれやれと独り言ちる。
少し上をふわりふらりと飛ぶ黒い相棒が、肩を竦めるように黒いコウモリのような羽根をそうして見せる。
分かってるっての。
日はとっくに上っていたが、昼というにはまだ早い時間だった。
殆どの仕事は午前中に済ませるとりょーしゅ様が言っていたことを覚えていたから、今が仕事時間真っ最中だろうという推測が立つ。
お礼を言いにやってきて邪魔になるのはどうかと、あまり空気の読めない自分にでもわかる。
「さーって、と。どうすっかな」
がりがりと頭を掻いてみたところで時間が進むわけでもない。
人っ子ひとり見当たらない閑散とした街中をぶらぶらして暇を潰すことにした。
天気は良い。盛りは過ぎたとはいえまだまだ暑い。昼になればもっと暑くなるだろう。
彼方此方に生える街路樹のおかげで陰には事欠かない上に、間を抜ける風が涼しい。
人間の住む町のそれよりずっと高い木々を見上げて。
……えーっと。
「いよぉ。おのぼりさん、調子はどうだい?」
その木の中程にいる人影に声をかけた。
薄着、スカート。あれはカーディガンかな。
ふわりふわり。水色の長くて柔らかそうな髪が風に揺れる。
「今日は調子がいいの。そうね、ご機嫌な方かしら」
どちらかと言えば可愛らしい甘い顔立ち。言葉遣いというか、どこか『きれいな発音』。木登りなんかしなさそうだ。
「お隣どうぞ。とってもいい景色よ」
そう言って彼女は自分の座る枝をポンポンと叩く。
まー、そうだろうな。どう見たってその木は高い。
彼女がいる位置もな。建物で言えば三階分くらいはあるだろうか。御呼ばれされたからには行かにゃ男が廃る。多分。
「よっ、と」
幹を挟んで反対側に腰を下ろす。
指された場所は枝先の方だから彼女を乗り越えなけりゃ行けないし、だからと言って彼女を枝先に寄せさせるわけにはいかない。
普通に自分の場所を明け渡しそうだったから、これが一番の妥協案だろう。
さわさわと穏やかな風が気持ちいい。
「……こりゃあ、確かにいい景色だ」
この街にあまり高い建築物はない。せいぜい二階建て。つまり屋上より高い場所にいて、街並みを見渡すとかなかなかあることじゃない。
「でしょ」
彼女がにこりと笑う。
りょーしゅ様同様この街ではあまり見ない顔立ち。
ここの星の眷属とやらの種族はどうもこう、整った見た目だけれど個性のない顔立ちをしているように感じる。
髪の色は金やら銀やらで違うけれど言っちゃあなんだが、同じような顔で誰がどれだかわからなくなるような。あれだ。モブっぽい感じ。拘りの飾りを付けている奴しか見分けがつかない。
服装もちょっと違う。あいつらは布を身体に巻きつけて適当に纏う。
それに比べたらふんわりとしたワンピースのようなちゃんと洋服っぽい形をしたものを着ている。
「ここにはよく来んの?」
あんまりじろじろ見てるのも悪いかと話題を振ってみる。
「私、体が弱くてあまり外に出してもらえないの」
たまにね。と前置きしてから脹れたように言う。
やってることはお転婆だけど、雰囲気のせいか何かストンと来るものがあった。
これがアレか。品が良いってやつか。
もしかしたら静養に来ているお嬢様ってヤツなのかもなぁ。
元々の性格なのか、木登りなんてアグレッシブだとは思うけど。病弱な奴ってのはもっと普段から大人しくしていそうだ、なんてのはこちらの勝手な思い込みもあるだろうし。
すぐに熱を出して寝込むわりには傍に誰もいない。ってことは、本当にはねっかえりなんだなぁ。
お供を蒔いたってことなのか、抜け出したのか。なんか後者な感じがするな。
そんでこっそり戻ってそうだ。
思わず笑いがこみあげて、彼女に見えないようにそっぽを向いてから小さく笑った。




