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カッタン、コットン。
水車が回り、石臼が回る。
どう繋がっているのかわからないが、滑らかに歯車が、滑車が動くのを眺めた。
何処か動きが悪ければ直してもらわなければいけない。
俺にはこういったカラクリをどうこうする術は持ってないからな。
「よし」
一通り眺めたところで切り上げる。
実際、どうなって動いているのかさっぱりわからないしな。これ以上見ていても仕方がないというか。
カラクリで圧迫し、あまり広くもない水車小屋の中の大小一つずつ並ぶ石臼の大きい方へ向かう。
昨日の内に使い魔に水で洗い流させてあったから綺麗なはずだ。
用意した籠を覗く。
色とりどりの果実がぎっしり詰まっているのを見て思わずニヤニヤした。
心苔の実は色によって気持ちに作用する効果が変わる。
変わるとは言っても一つ食べるくらいならほんの少し、変わったような気がする。といった程度のものだ。
同じ色の実をいくつも食べ続ければ違うだろうが。
まー、その前に腹いっぱいになるだろうな。
順に同じ数ずつ、少し高いところにある投入口に放り込んでいく。
同じような量で合わせた果汁はただ只管に柔らかで、それはそれは優しい口当たりになる。
それは酒になっても同じ。
ふわりと微かに甘い香りが漂う。
ほんのりと白濁しとろみがかったような液が樽の中に溜まっていくのをしばらく眺め、残りの作業を小さな黒い相棒に託した。
さてと。
果実を絞る石臼の他にもう一つ小さなものの方へ身体を向けた。
果実の入った樽や籠がある上に、果汁を溜める樽まで並ぶと身動きが取り辛いほど狭くなる。
傍に置いていた大きな布袋を踏まないように移動した。
壁際に置いてある小さな、背凭れのない椅子を引き寄せ腰を掛けると袋の口を開ける。
ひと月ほどかけて乾燥させた大量の白い粒。それは白玉髄の種。
これは薬酒の下準備の一つ。
少ない量の物であれば作業場で自分で磨り潰すのだが。
少し苦味があるが高い癒しの効果を持っている。
薬酒を作るようになってから、薬草や毒草、それからハーブに諸々。そこそこ詳しくなったと思う。
だいたいはシーサーペントのお医者先生に教えてもらったおかげだし、紹介してくれた森のおかげだろう。
カッタン、コットン。カリカリ、ゴリゴリ。かしゅり、ふしゅり。
水車が回り、カラクリが動く音。種が磨られ、それから果実の潰される音で小屋の中は賑やかだ。
下側が開く外倒し窓を開けてはいるが、多少音が反響してこもる。
そのBGMに星の眷属の街で聞いたアップテンポの曲を乗せてみる。
……悪くないな。
そのまま歌のない音を口ずさむ。
あの街の宴会はやっぱ、いいな。
浮かれた祭り騒ぎの様を思い浮かべ、ゆったり身体を揺らしながら少しずつ白い種を入れていく。
そういえば、とりょーしゅ様に相談に乗ってもらったお礼をするのを忘れていたことに気付く。
顔を出すついでに何か持って行くか。倉庫と保存庫の酒を頭の中に並べる。
この間は少し甘めのを持って行ったから、すっきりしたのが良いか。……そうだな。青瑠璃のやつにしよう。
「お?」
土産も決まりさらに上機嫌になっているところへ、使い魔が目の前でくるりくるりとその棒のような足を軸にして回る。
樽が一つ満杯になったようだ。
仕上げに余分に置いておいた青い実を一つ、二つ布に包んで搾って入れる。
ただ只管に優しいだけの口当たりがこれで少し引き締まる。
まぁ多少、涙を誘うのが玉に瑕だがそれはそれで雰囲気のものでそれぞれの好みってやつだ。
勿論その柔らかさが嫌なわけでもダメなわけでもない。
大半はそのまま酒にするわけだし。
時々、少しだけ色を多めにしたのを作り味わいを変えてみるのも楽しい。
こういうのを外に出す時はちゃんとラベルに、心苔と書いた後に「涙」だとか「笑」の文字を付け加えることにしている。
ふと、次の樽に溜まる果汁を見て、少し考えてから一つ小さな樽に分けた。
橙の実を一つ潰して加えて蓋をする。
それから鼻歌を再開しつつ、種を磨り潰す作業に戻った。




