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海に浮かぶ小さな島とはいえ、自分の森の孤島とは比べるべくもなく。
海岸から天気のいい日にちらりと見えるだけの島の大きさなど測れるはずはない。
とにかく、森と同じくらいの広さはあるんじゃないだろうか。
案内されるままについて行く道すがら見える景色と言えば。
視界いっぱいに広がる果樹園は話に聞いていた通りそのほとんどが葡萄であるようだ。
時々影がちらほらと動いているのが見えるのは、世話をしているモノたちだろう。
よく手入れされているようで少し離れているというのにかかわらず、その果実の輝きがここまで届くようだ。
これは楽しみだとほくそ笑む。
態々ここまで来たかいがあったというものだろう。
これはぜひ収穫させてもらいたいな。いやいや、あんな目に遭ったんだからこれくらいもらって帰らないと割に合わないよな。
「……あー、もう。やめろよー。そんな自業自得だろ、みたいな眼差しを送ってくんの」
斜め上からふわふわと漂う冷たい視線に思わず唸るように呟く。
口には出していなかったが、そこはやはり長い付き合いのせいか見透かされているようだ。
せっかく言った文句もどこ吹く風で、飄々と先に進みながらくるりくるりと舞うように飛んでいく。
ったく。器用なやつだよな。……そりゃー、最初からちゃんと断って船に乗らなけりゃあいい話だったろうけどさー。
心の中でブチブチ言いながらふと視線を上げ、長閑な田園風景の向こう側に見える建物に目をやる。
少し高台に建つ瀟洒なそれは、正しく城と呼んで差し支えない代物だった。
え。っていうか。これ白亜の城ってやつじゃね?
そうして、ふと懐かしく思う。
あまりヒトの城の近付くことはないとはいえ、見たことはある。
今でこそ城の周りには城下町が連なりその外側を城壁で囲いなどしているが、古式ゆかしき昔の城と言えばこういったものだった。
そう、森の中や山の中腹にぽつりとそれだけが建ち、近隣とは名ばかりの集落。
……今でもあると言えば、あるか。それに当てはまるものと言えば。
田舎領主、あー、いや。辺境伯と言ったところだろうか。ここの主殿は。
「そう言えばここって元々魔王城のあったところなんだよな」
かなり昔に聞いた噂ではそれは強い、もの凄い強い魔王だったらしいがある時ふつりと存在が消えたのだと。
さらには島自体も消えたとか言っていたような。
あれ? いつの間に復活したんだ? この島。
普段からそういった情報に疎い、というよりも興味がなかったせいか詳しい事情はからっきしだ。
首を捻っていると案内人の魔族が後ろを振り返り口を開いた。
「元々、というより今も紫紺の魔王様の領地ですよ。陛下もご健在であらせられます」
……マジか。
あー。ってことはアレか。酒の献上相手って魔王か?
えー、これってヤバいフラグじゃねーよな? え、ホント俺、大丈夫か?
いやいやいや、ちょっと勘弁してくれよ。
……とは思うけど、これってもう遅いよな?
「っていうかさ。これちょっとさすがに遠くね?」
動揺は収まらぬままにとりあえず思ったことが口に出る。
「いえ、言うほど離れていませんよ。この道は特に途中で転移するようになっていますので」
ほら、もう城門ですよ。
その言葉通りいつの間にか頑丈そうな鋼鉄製っぽい門が目の前にあった。
一見質素な、けれどそういったものの価値のわからない自分が見ても分かるほど、それは見事な彫の入った美しい門だった。
こうして門番に見守られる中、なんとか覚悟を決めてそこを潜り抜けた。




