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行儀はあまり良くない。
思い立ってすぐ出発したせいか、星の眷属たちの街に辿り着いたのは真夜中になっていた。
りょーしゅ様から連夜行われていると溜息と共に聞かされた酒盛りは、もちろんその夜も盛況さを見せていた。
ここの生まれであれば出奔することもなかっただろうと思えるほど馴染みは良く、煌めく街中へ足を踏み出す。
その場合、他種族用に酒を造ることもなければ、酒造と名乗ることもなかっただろう。
毎日、いや毎晩飲み続けるために酒を造り続けることに変わりはないにしても(彼の酒のファンたちの「多大なる損失だ」という嘆きは聞こえない)。
たった一度の参加だったが住民たちは覚えていて、顔を出すとそこかしこから一緒に飲もうと声を掛けられた。
酒好きがそんな誘いを断るわけなどない。
最初は昼間に用があるから一杯だけ、ちょっとだけなんて言いつつ。そうなれば後はなし崩しに、というか積極的に夜明けまで飲み明かした。
「飲み会で徹夜ってのはよくあるけど、朝に終わるってのが新鮮だよな」
と感想を述べたのだが、目の前で一緒に朝食をとる彼には頭痛の種だったようで華奢な作りのティーカップを片手に額を抑えていた。
食後の紅茶にブランデーは入れないタイプらしい。
一応一通り見て回ったが、基本的に不参加だと言っていた言葉のとおりに酒盛りでにぎわう街中で見かけることはなかったから、終了したのちそのままの足で領主館を尋ねれば存外に早起きな目的の館の主に会うことができた。
今回は個人的な用だからまだ仕事時間じゃないうちに話がしたいと持ち掛けたところ朝食に誘われたのだった。
ここの食堂はバイキング形式というやつで、だが、調理人の姿も見えないのに並べられた料理の数々は出来立てのようにいつでも温かい。
甘いのも辛いのも、さっぱりからこってりまで見た目も鮮やかだ。
前回も利用して美味かったのを覚えていたし、ほぼ一晩中飲んではいたが食べる方はもっぱらつまむ程度だったから少しガッツリ目に肉料理を選ぶ。
もちろん酒の種類も選り取り見取りに揃っている。
鼻歌を歌いながら少しずつ味見をしてさっぱりしたものをグラスに注いだ。
そうして始めた会話だったが相手の反応に首を傾げつつ、さらに撤収の鮮やかな手際について話を続ければさらに眉間にしわを寄せられた。
あの、昼間見た人っ子一人いないまるで廃墟かと思うくらいに生活感も何もない代わりにゴミ一つ落ちていないあの空間に、至るまでの素早さときたら感嘆に値するよな。と思ってのことだったのだが。
褒めたはずなのに……。これがアレか。解せぬってやつか。
一人納得していると唸るような声が前からこぼれ落ちる。
「……そんな技術を磨いている暇があるなら仕事の一つも片付けられるはずだろう……!」
そう言えば酒盛りばかりに夢中で、仕事が滞りがちだと愚痴めいたことも言っていたっけ。
民族性としてはゆるゆるしてそうだもんな。あいつら。
管理職は辛いってこういうことか、とわからないなりに考えてみる。
それとも彼がまじめだからだろうか。
領主たるものきちんとしていなければいけないのだろうか、とか。
情報源はいつだって酒宴最中のものだが、それが実際に当てはまる状況に出会えることはそうそうない。
しかし。
「それで、今日は聞きたいことがあってさ」
続ければまだまだ自分一人では感じられないことを示してもらえそうな気がしたが、これ以上は機嫌を損ねそうだと本来の目的である話に変えることにした。




