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 祭りで。


 お堅いながら懐が広いというか理解が深いおかげでそこそこ打ち解けることのできた「りょーしゅ様」(此処の住人達は彼のことを妙に間延びした風にそう呼ぶ)を連れ立って参加した酒盛りは盛況で、それでいて自分たちのそれとはまったく趣が違うものだった。


 街全体で行われるその祭りは夕方から始まっているからかキラキラと比喩ではないきらめきが、さりとて目に優しい光で溢れている。

 これはやはり星の眷属たちの灯りだからだろうか。

 あちらこちらから流れてくる音楽に思わず足取りは軽くなる。

 それに合わせて踊る住人達のダンスも浮き立つ心をそのままに表すかのように軽やかだ。

 離れた場所で奏でる曲はテンポも違うのにうまく合わさり、まるでセッションをしているかのような調和を生み出している。

 一人が止めて酒を飲みだしてもまた誰かが歌いだす。

 楽しげでさざめくような笑い声で街中で満ちているようだ。

 出し物は持ち寄りだと聞いてはいたが、食事だけではなく開いた夜店のようなものも売り物と言うよりは装飾で普段から売買されることはあまりないのだと、時々立ち止まりきょろきょろする俺にりょーしゅ様が注釈を入れてくれた。

 請えば売ってくれるがどちらかと言えば物々交換が主流で、そちらの方がなじみが深いのでありがたい。

 とはいえ、欲しいものは大概領主館で手に入れているから必要なものはないのだが。

 取り扱いは布製品のもろもろ。シーツからタペストリーまで外交用品質が揃い、あの使い魔が目の色変えて必要なものを選んでいた。

 リネン類は冬に入る前に購入済みだったが、その肌触りの良さや柔らかさに頬ずりするほど気に入った俺にも否やなどない。


 気さくで陽気な住人達と挨拶をかわしながらその賑わいの中を進んでいく。

「うちのも飲んでいくかい?」

「こっちも飲んでいきなよ」

「ああ。もらう! こっちおかえしな」

「りょーしゅ様もいっぱいどぉ?」

 それぞれが手に持つ自家酒だというそれをコップ一杯づつ交換する。

 急遽使い魔に貯蔵庫から持って来させた今一番の大樽は金色蕪で作った酒で、とろりとした甘みの中のほんのりとある苦味がその甘さを引きずらせない。

 交換する酒は様々で面白い。

 美味いものを素直に褒めればすぐにネタを教えてくれるから、次の意欲もどんどん湧いてくる。

 もちろん不味いのもある。ソコはそれ。何が当たるかわからない醍醐味とか楽しくてしょうがない。

 新たに注がれたグラスを掲げ合い、もう何度目かもわからない乾杯をする。

「あんたの酒も美味いな!」

「当然だ!」

 さらに自分の酒を褒められて浮かれないわけがない。


 そうやってしばらく楽しんでいたらいつの間にか街の奥へと誘われていた。

 特別だという場所に彼らはあっさりと踏み入れさせる。

 そこでは魔力を紡いで酒にするのだという。

 物凄い時間がかかる上に出来る量が限られるというその酒を、飲ませてくれると言われた時には驚きで目を見開いた。

 その液体は光を当てなくともキラキラと自ら輝き、ふわりと周りを照らす。街に満ちていたような眩しくはない、柔らかな光だ。

 本当にいいのかと思いを込めて相手を見れば、そいつは笑って頷いた。

 そうなれば遠慮する必要など何もない。

 グラスを傾け一口、二口喉を奥に流す。


 ……あぁ。なんてことだろう。


 世界にこんなすごい酒があるなんて!

 すみずみにまで浸透していくような感覚に、体の奥の芯がほわりと軽くなるようだった。

 心なしか指先まで光っているような。包まれているのか自分自身がそうなのかわからないが、そんな錯覚すら見える。

 うまく言葉にできないどころか、思ったことがそのまま口からだだ漏れになっていることに気付いたときには、周りからニヤニヤとした笑みで囲まれていた。

 あー。これは恥ずかしいわー。

 照れ隠しにグラスに残った酒を一気に煽った。


 だけどそのあとで俺のその喜びっぷりに気を良くした奴が、まさかその酒を一瓶丸々くれることになるとは思いもしなかった。

 此処の奴らは気前が良すぎるだろう。

 もちろん分けてくれた本人には俺の酒を一樽(小さいのだが)渡したし、感謝の気持ちとしてりょーしゅ様に薬酒を進呈したのだった。

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