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彼はあまり警戒心がない。
それは昼間とは違い、どこから湧いて出たのかと言うくらいあちこちでヒトビトの姿が街中に溢れかえっていた。
騒がしく活気で満ちたさまは、まさしく祭りのそれで。
朝訪れた時との落差に目を丸くした。
朝の柔らかい光の中、迷い込んだその町はあまりにも閑散としすぎていた。
ヒトっ子一人どころか、先ほど森の中で聞こえたような小鳥の囀りさえ聞こえなかった。
なんというか、生き物の気配が感じられない。
まるで廃墟のような。いや、そうであっても野生動物的なモノや小動物、ああ、魔物が巣くってることもあるけれど。
確かにどんな所にもそういった瞬間はあるようで、あまり街に踏み入れない自分であってもその時に立ち会うことがある。
だとしてもそれは一時的なもののはずで。
実際に廃墟なのかと疑い掛けるが、それにしては手入れが行き届いている。
荒れ果てた地と言うのは何もなく風化して朽ちているか、こういった森の中であれば木々に埋もれていくものだ。
此処にはそのどちらでもなかった。
その石壁には皹はなく蔦におおわれていることもない。
路なりに草木は生い茂るものの往来を阻むものでもない。寧ろ景観に一役買っているだろう。
周りをゆったりと見回しながら歩く自分の足音しか聞こえない。
あー、そうか。
そこでやっと生活の音が聞こえないことに気付く。
すでに日は昇っているのに。
そのせいで街に来た感が薄いのだろう。
早朝で、又は真夜中を過ぎたころのまだ街中が寝静まっているような。
ああ、それが一番しっくりくるというか、ぴったりの表現だろう。
都市から遠く離れた農村だってもっと動きはあるものだし、飼育された動物の鳴き声が聞こえるっていうのに。
同じようになかなかヒトの姿が見えないにしても、だ。
これ、もしかして街一周回っちゃうんじゃね?
なんて思えるほどのそんな膠着状態を打破したのは、ひときわ立派な建物前でようやく見つけた人影だった。
入り込んだ位置も悪かったのだろう。と、後から思った。
一番よく見えるこの大きな建物を目印に、ぐるりと回り込むように来たせいで此処に辿り着くのが最後になったわけだし。
それともこのタイミングだからよかったのか?
後からゆっくり考えたところで、今更何ともならないしどうしようもないな。
頼みの使い魔は素知らぬ顔で俺の斜め上をふわふわ浮かぶだけだったし。
まぁ、最終的に住民に会えたんだから良かったんだろうな。
とにかく、その住人が言うことにはここは星の精霊たちの街で、ここに住まう者たちの活動時間は夜であること。
立派な城にも見えるような建物は領主館で、昼日中はそこしか動いている場所はないとか。
食べものも店もそこに行けば何とかなるとか。
「夜に会おうぜ」
これから家に帰るんだと大あくびするそいつとそこで別れた。
普通なら入るのにも一苦労しそうな領主館にあっさりと入れたことに驚く。
門番的なモノはいないし、そこそこ重厚そうな扉は鍵すらないような状態で。
受付もなくて困っているところを助けてくれて、中を案内をしてくれた若い男が領主様だったことに。
さらに驚かされたのだった。




