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その日は旅の途中で早くに目が覚めたから、道を外れてブラブラしていた。
といっても野宿をするにあたって元々街道を少し外れた森の中に寝床を作っていたのだが。
外にいたから早く起きたわけじゃない。
前にホントにお前はマイペースだなって言われたことがあるくらいに、まぁ。気ままにやってる自覚はある。
とはいっても相手だって相当のものだからお互いさまってやつだ。
半分はまだ暗い色を纏った空は薄曇りで白々しく少し寒々しい。
昨日の星で満天の夜空が嘘のようだ。
上半身だけ起こして一つ伸びをする。ついでに欠伸も一つ。
目覚めは悪くない。
火を熾していると小さな鍋を引っ提げて使い魔がどこからか戻ってきた。
水を汲んで来たらしい。
「おー、ありがとな」
一声掛けて火にかける。
湯が沸くまでとぼんやりと枝葉の間から覗く空を眺めれば、徐々にその端が明るくなってくるのが見えた。
普段なかなか夜明けなど見ないから少しだけ開けた場所に移動する。
象牙色した空が黄金色より薄い輝きに彩られていくさまは、えもいわれぬほどに美しい。
強くなる光に少し目を眇めた。
曇っているのかと思っていた空は少しずつ青味を増していく。
このままいけば今日は晴れそうだ。
早起きで良いもん見たと戻れば湯が沸ききるまでもう少し。機嫌良く鼻歌を歌いながら毛布を片付けた。
建物の中に居れば聞こえなかっただろう、鳥の囀りが耳をくすぐる。
遠くから響くそれは軽やかで心地よい。
カップに香茶の茶葉を入れ、火から下ろした鍋の湯を入れた。残りの湯にタマゴを入れて蓋をすれば少し放置。
カップを揺らせばふわりと柔らかな香りが広がった。
一口飲んでから朝食の準備をする。
肉とチーズを焚火で炙り、さっき放置したタマゴを割り落とす。
白身だけドロリと固まったそれは温泉卵とかいうもので、温泉旅館主の森に教えてもらった簡単調理だ。
それから、そこらへんで採った葉物のハーブをパンで挟む。
おっと、塩を振らないとな。味は悪くないが物足りない感が少しあるな。あー、なんかソースでももらっておけばよかったか。今度頼んでみるか。森とか。
野営の後を片付けながらふと気付く。
偶に通ることのあるこの森で時々こうやって寄ることもあったわりに、あまりウロウロしたことがなかった。
時間もあることだし探索がてらぶらぶらすることにする。
が、思ったよりすぐそこに光が見え、とりあえずそっちに行くことにした。
森を抜ければそこには町が広がっていた。
と言えばありきたりのことなのだが。
「こんなとこに街なんかあったっけ?」
視界を遮らない程度で斜め上をふわふわ飛ぶ相棒に問う。
こっくりと頷かれた後、何今頃そんなこと言ってんの? っていうような眼差しで見下ろしてきた。
……いやいやいや。知らねーから聞いてんだろって。
思いはしたけれど口にはしなかった。していたら無い肩(あれは羽根と言うべきだな)を竦められるのが目に見えている。
「やれやれ」
溜息を一つ吐いて街に向かって足を進めた。




