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 彼には親衛隊がいる。


 魔王が出たという。

 これは噂ではなく真実この森の東、目と鼻の先の隣山の天辺に拠点を構えたのだと。

 用があってきたんだという友人を迎え入れ、そんな話を聞く。

 そんなこと言われてもなぁ。

 だからどうしたってんだとばかりにがりがりと頭を掻いた。


 魔王城が建ち、その近辺の魔物達は狂暴化するという。

 というのはヒトたちの間に伝わる都市伝説のようなもので、実際のところは元々強い魔物の棲んでいるところに居を構えるのだが、大抵そういった場所というのはヒトからすれば秘境だとか険しい地形が広がる大地のせいであまり近寄らないから知らないだけなのだと知り合いたちは言う。

 そうでなくても権力のあるものと言うのは配下の者を近くに配置して警備を強化するのは普通のことではあるし、外敵(ゆうしゃ)に備えるのは当然と言えるだろう。

 その備えが狂暴化と例えられるのなら、間違っているような。

 面倒なのはその界隈に討伐隊が派遣されることで良くも悪くもヒトが増え、流通が良くなるだけならともかく治安が悪くなることが多いということらしい。

 ヒトが集まってできた山賊などが増えるくらい、そこに元々棲まう者たちの強さならどうともないだろうと問えば。

「潰しても潰しても出てくんだよ、あいつら。モグラ叩きでもああはないぜ」

 モグラ叩きが解らずに首を傾げれば、穴からぴょこぴょこ頭を出すモグラをハンマーで叩くゲームだと教えられ。

 いやいやいや。モグラってそんな生き物じゃねーだろ。

 只の遊びだと言われても釈然としない。

 さらには魔王城最短の地として栄えることもあるのが不思議である。

 討伐されれば跡地として観光地化して賑わうのだとか。

「図太すぎて手に負えない」

 と言うのが奴らの言い分だ。

 いや、多分それヒトだけの力じゃないだろ。

 かと思えばひっそりと魔王として立ち、ヒトに見向きもされないまま終るものも居る。

 詳しくは知らないがそのまま隠れ棲んでいるのもいるのだとか。

 そういう話を聞くと何がしたくて魔王になるのだろうかとか、その存在自体に疑問がわかないでもない。

 まぁ。其処止まりだけどな。知ったところで何かしようってのも特にはないわけだし。

 俺は俺に火の粉が降りかからなければ良いという事なかれ主義なのだから。

 ともあれ、自分にとって魔王とはいつの間にか現れ、知らないうちに消えているものである。


 なのだが。

「と、言うわけで、俺たちは酒造を守りに来たんだ!」

「近いってことはなんか来るかもしれないだろ?」

「魔王からもヒトからも守ってやるぜ!」

 口々に言い募る奴らに、そうやって騒いだり警戒した方が目を付けられるんじゃなかろうかと思いつつ手酌でグラスに酒を注いだ。

 つまみは奴らの持ってきた炙り肉。

 ざっくり大きく切り分けた肉にフォークを突き刺す。

 それを目の前でゆらゆらさせながら思いついたことを口にした。

「んで。ついでに酒、集りに来たんだろ?」

 そう言えば、途端に歯切れ悪くなる奴ら。

 まったく見え透いてるっての。


「そうだぞ。ここは俺様一人いれば大丈夫」


 と後ろから現れたのは湖の孤島に棲む魔物。いや。まー。トリスなんだけども。

 いきなり家ん中に出てくるなよ。びっくりすんだろー。

「俺様に勝ってからにしろ。いますぐやるか? いいぞ! 今すぐヤってやる」

『ひぃ~~~~~~』

 ニヤニヤと悪い笑顔で自称俺の警備隊を脅す。

 あーぁ。やれやれ。そりゃートリスがいるなら大丈夫だろ。

「まぁ、頼りにしてるよ」

 と言えば。機嫌良く、ちょっと偉そうに胸を張り。

「まかせろ。酒造も酒造の酒も全部俺のもんだからな」

「って。お前もかよ!」

 言いながら耐え切れずに噴き出す。

 まー、あれだ。使い魔もいるしな。ホントに拙いことになったら呑み仲間のみんなを呼べばいいことだし。

 とりあえず、勝手に入ってくんなと一殴りしておいた。

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