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 彼の作業風景の一つ。


 ぐらぐら。ぐつぐつ。

 湯面が揺らぐのを眺める。

 時折、ぎっちりと詰め込まれた瓶の間を縫ってぼこりと大きな泡が浮かんで弾けた。

 もうもうと白い湯気が風にそよぎこちらに向かってくるのを手で払うように避ける。

 後から後から湧いてくるそれに軽く払ったところで間に合いもしないが。

 ……こんなものかな。

 そろそろ火を消しても良い頃合だろう。

 便宜上大鍋と呼んでいるでかい金属の容器を焚きつけている火に、用意しておいた川の砂をかける。

 あまり細かい砂だと火の勢いに煽られて舞うからだ。

 砂利の隙間からくすぶるような煙が出る上からもさらにかけていく。

 こんもりと山ができたところで暫くこっちは放置する。

 一息吐いて辺りを見渡した。

 天気はすこぶる良い。

 偶に初冬特有の突風が来るのが玉に瑕ってやつだろう。

 家の中にも水場や作業場があるが、家の裏手は外の作業場だった。

 大鍋からすればやや大きさが見劣りのする、レンガ造りの多分普通サイズの釜土が家の壁沿いに設えてある。

 買い集めた瓶はすぐ使えない。こうやって熱処理が終ってからでないと使わないというべきか。

 まきはこの前来た森が、それこそ山のように割っていったおかげで有り余るほどある。

 とはいっても元々足りなかったわけではない。瓶を洗うつもりだと予定を告げたら、あり過ぎても困らないだろうとばかりに増やされた。

 誓って言うが狙ってない。ほんっとーにあいつは世話焼きな奴だよな。

 他にも使い終わった樽を解体して薪代わりにするがあれは室内用。

 川の水で洗い流して乾かしたそれはアルコールこそ蒸発しているが、その香りはかすかに残る。

 冬の間は暖炉にくべ、その香りに包まれるという優雅な時間を過ごすのも楽しみの一つだ。

 もちろん、それに合わせた酒を傾けるのも忘れない。


 一度家の中に戻って小さな片手鍋を取りにキッチンに向かう。

「……おぉ。ありがとな」

 入り口のドアを開けたところでブツを持った黒い毛玉がふよふよ浮ながら待ち構えていた。

 そーいや、お前何時からここで待ってたんだ? まー。いいんだけどさー。

 その使いどころは大鍋の湯を掬って近くに並ぶ柵にかけること。

 手入れはされているからそれほどではないだろうが、外にあるものだからな。被っているかもしれない土埃を洗い流すのは当然だろう。

「はあぁ~~~~~~~~~」

 そこそこ数のあるそれに流石に疲れを覚え、大仰に息を吐くととも大きく伸びををした。

 だがまだ仕事は終らない。

 急に吹いた強風にぶるりと体を震わせ慌てて大鍋の傍に寄る。

 中身はまだ湯と呼べるほどに温かい。

 これをするのは寒い時期に限るな。

 乾燥させるには暑い方が良いのだろうが、そんな時に火を起こせば熱さで潰れるに決まってる。

 とはいえ、今日はさすがに寒いな。雪が降るほどでないのが幸いってところだろう。

 寒ければ冷めるのも早い。

 寒すぎるのも困るけどな。

 雪が降る季節だと今度は乾燥しきる前のガラス瓶についた雫が、薄い氷の膜になってしまう。


 いつの間にか冷えてしまっていた手が熱気で温もれば作業は再開だ。

 まだ熱い湯から金バサミや鈎付き棒を使い瓶を一本づつ取り出し柵に逆さに差していけば、後は乾くまで放っておけばいい。

 思ったより数がなかったはずだから暖かくなる頃にもう一回ぐらいはやっておくかな。

 ……覚えていればの話だけど。


 大鍋に残ったぬるま湯は後で片付けることにしてその下にしゃがみ込む。

 一仕事終わってもう汚してもいい鍵付き棒で釜土の中のこんもりとした山を崩していけば、燃えたまきや灰の下から現れたのは四角い石、の箱。

 とはいえ見た目ほどの重さはない、どころか驚くほど軽い。今は中身が入っているからそうでもないが。

 主に野宿の時に使う調理道具だと言えばわかるだろう。

 蓋を開ければ湯気とともに香草の香ばしい香りがふわりと上がる。

 箱にぎゅうぎゅうに詰められた大きな魚。

 ハーブや香草を底に敷き、塩だけを振ったそれの上からたっぷりの辛口の酒で浸したものを火の中へ入れておいたのだ。

 並べたガラス瓶が乾燥するまでは時間かかる。

 その間に腹ごしらえをすることにして使い魔にカトラリーを用意させた。

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