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 彼は使い魔に弱い。


「この蜜酒、あなたみたいに爽やかだわ」

「こっちのもこのまろやかさが君のようだ」

 気を使っていたわけではないだろうが、現金なもので恋人宣言をしたとたんに遠慮もなく(元々そういった心遣いはされたことはない、されたところで逆に困るが)イチャイチャし始めた二人をテーブルの向かい側から眺める。

 普段はラッパ飲みで済ますような奴だが、新婚の新妻よろしく態々グラスに注いでもらったのをちびちび飲んでいる。

 姉さん女房は世話好きで尽くすのが多いんだと誰かに聞いたような気がする。

 見た目はこれぞ正しく、美女と野獣。

 美女と言うよりは少女の方がピッタリだが。

 視覚的に見え無いはずの飛んでくるハートに当てられて気分はそろそろぐったりだ。

 まー、喧嘩されるよりはいいだろ。

 俺の酒が褒められているのには変わらない。ただなんというか、どっちにしたってハブられ感が半端ない。

 見ているのも飽きてきたのでこちらのお楽しみタイムに入ることにした。

 受け取ったままの無造作にテーブルの上に置かれた荷物袋を手に取る。

 重さはさすがにそこそこあるな。

 大きさも思ったよりはあるか?

 店で買うのと違って緩衝材の類はない。

 そのままで放り込んできただけ。獣人が走るその背に揺られて壊れないほどの頑丈さはあるわけだ。

 いや、彼女が寝ていたのだからそこまでのスピードは出ていなかったのだろうか?

 荷物袋を外側から検分する動きにベタベタしていた二人もおしゃべりをやめ、こちらを窺うような気配がする。

 そりゃー、自分が作ったものを喜ばれる瞬間てのはいつだって楽しいもんだ。

 本当は自分たちで渡したかっただろう。オレだってそうだ。

 袋の口は開けない。

「おい」

 声をかけた先には使い魔。

 客間兼リビングの一角に奴専用の場所がある。

 柔らかな光沢のある布を台に敷き、壁には柔らかな色合いのカーテンを掛けられ、お気に入りのガラクタ(実際には違うのだろう装飾品やらこまごまとしたものをその時々で並べ替えている)を飾り、その台の真ん中に小さな揺り椅子。

 その人形用の小さな椅子にぎゅっと詰まるように黒い毛玉が鎮座していた。

 きょとり。目を見開く相棒に向かって袋を差し出し、テーブルに置く。


 胡散臭げな眼付きで眺めまわした後、ちょんちょんとその棒のような足を出しその爪先で突く。

 まぁ、ニヤニヤと周りから見られながらとなれば、警戒するのは良くわかる。

 さらにちらりと視線を送られ促すように頷いてやれば。

 まるで肩を竦めるように羽根をゆらし、袋の口を足に引っかけふわりと飛び上がる。しっかり皺を伸ばして大きく開き、もったいぶるようにゆっくり足を離した。

 それは中に入っていたものが良く見えるような形でぱさりと落ちる。

 そうなるように計算された動きに無駄はなかったようだ。

 そうして現れたものが、俺が家具職人に頼んだ品。今、使い魔が使っているより少しだけ大きな、だけれども小さな、それは揺り椅子だ。

 説明されたところで俺に良し悪しはわからない。

 濃茶の色の木の枠に白く鈍い色の金属の装飾が埋め込まれているが、指の平で撫でたとしても爪先で掻いても何ら引っ掛かりを覚えることなどないように見えるし、背と座る部分に張られた布は滑らかで革製のなのだろうか。その張を見るに座り心地は良さそうだ。

 二つほど乗った小さな小さな丸いクッションはもこもことしていて寒い時用か。

 良いものだということはわかる。

 まぁ、造ったやつらにしたってそれだけわかればいいって思うだろ。

 ぽかんと見ていた使い魔がこちらを振り返りながら、ぽふんと椅子に座る。

 驚くように大きく開いていた眼がそのとたんに細くなった。

 軽い音の割に跳ね返ることもなくそのまま静かにちょこんと乗るさまは可愛いものだが。


 ふ。


 それはどう見たって鼻で笑うような仕草。さらには偉そうな態度でふんぞり返るような姿を見て。

 あー。これはあれだ。

「ちょっと、何よその反応は! 気に入らなかったって言うの!?」

 言葉を選んでいる間に爆発したのはサイアリーズだった。

 隣に座る家具職人も眉をひそめている。

 わからなくもない。

 さらに文句を付けようとしているところを何とかとどめる。

「これはさー。逆なんだよ、逆。こいつ、嬉しすぎて浮かれまくってんだ」

 そう。その証拠にやつは背もたれにその身を完全に任せ、椅子を揺らしている。

 あれは堪能しているところだ。

 今邪魔をしたら手酷い仕打ちをしてくるに違いない。

 そういうところに容赦はないのだ。

 だからこれ以上刺激してはいけない。

 正直、とばっちりを食うのはごめんだ。あいつのことだ、一連たくしょーにするに決まってる。


 俺の言葉を最終的に信用したのは、使い魔自身が客用お茶のセッティングを彼らのために準備した(それまでは客と認識されていなかったということになる)後だった。

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