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彼が気を使った時ほど空回りする。
じりじりと間合いを計る。
ちらり。使い魔に目を向けた瞬間に気配が動くのを感じて、
「よっと」
ぎりぎりで大き目に左に一歩を踏み出す。
ドンッ
右足を左に添えればさっきまで暫く立っていた場所に四足の獣が突進してきた。
上手い具合に背にしていた朽ちかけの切り株に激突。
くるりと回るように後ろを向き、そのまま勢いよく腰を落とす。
目測は誤らず背部に思いっきり体重をかけて乗ることができたからか、獣が『げふっ』と声を上げるのが聞こえた。
お、結構手触りいいなこいつ。
畳みかけるようにその開いた口に今持っている一番強い酒を瓶ごと突っ込んで、様子見。
暴れるようならもう一本頭に叩き込んでやろうと身構えていたが度数の強さになのか、その前の圧し掛かりが効いたのかダウンしたようだ。
くたりと力が抜けたのを確認して、はぁと息を吐く。
肺から全部の空気を押し出そうというようなそれに、吐いてしまってからさすがに緊張していたらしいと苦笑いした。
目的地に着く前についでの用事を済ませようと寄り道した場所でまさか、魔獣に襲われそうになる思わなかったが今回は何事もなく済んだ。
いやー。単純そうなやつで助かった。
上から目線でこのくらいの相手でとばかりにふんっとせせら笑うような鼻息で迎えられたが、あいつは大抵斜め上辺りを飛んでいるからどうしたってそうなるもんだ。
そう。生意気なのはデフォルトってやつだ。もちろんそんなことで拗ねたりはしない。
前のようなことがあれば今度は馬鹿にされそうだから、それだけは避けなければ。
ベルトにぶら下げた小さなカンテラの留め具を外し、目の前に持ち上げた。
「これでお別れだな」
そう言えば、返事をするようにポッと柔らかなオレンジの光に輝いた。
目の前だしまだ明るいうちだからかそんなに眩しくはなかった。
気は進まないが道中仲が良さそうにしていたこっちにも声をかけておくべきかと思い、その横で浮かぶ相棒に顔を向ける。
「ホントにいいか?」
駄目出しのように確認すれば使い魔はキョトンとした表情でこちらを見た。
何を言っているかわからないといった風で動きを止めたせいでぐらりと一瞬傾き落ちかけて、慌ててパタパタと元の位置に戻る。
そこから「何言ってんのお前」みたいな顔されても。
いや。お前それホント可愛いから。
甘やかしたくてたまらなくなるがここは抑えなくてはいけない。
際限がないからな。
別れは本当にあっさりしていて、挨拶すらしなかった。
ここで離れたくないとかされても困るだけだが。なんとなく釈然としない。
が、一番の目的地にはまだ辿り着いていない。
空っぽになったカンテラを無造作に荷物袋に放り込む。
幸いまだ空は明るい。
夜までにあいつの棲む山には登れなくても麓まで行けば迎えは来るだろうし。
いざとなればその麓沿いに立ち並ぶ温泉街の宿の一つに世話になればいいのだし。
と思ったところで、ふと気付く。
「おい。もしかして四仙の実か?」
淡く仄かに風に乗って流れてきた香りに急いで使い魔に問えば、奴は事もなげにコクコクと身体ごと傾けて頷く。
そーいうことは早く言えよー!!
まさかこんなところでこの前手に入れられなかったものに出会えるとは!
さっきまでつけていた算段はすべて消え、すっかりそのことで頭がいっぱいになった俺は使い魔を急かし実の生る場所へと案内させた。




