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彼は危機感が足りない。
どうしてここに居たのかわからないが家の中で逃げ惑っていたのは、この森にいるはずのない生き物―――カンテラドラゴンだった。
詳しくは知らないが奴らは重力を操るという。
その力を使って素早く動いたのだろう。使い魔のスピードを上回るほどに。
ぽ。ぽ。ぽ。とりどりの色に仄かに光るカンテラに、さてどうするかな? と首をひねった。
というか、何時からいたんだ? しばらく出掛けていたわけだし。
友人にお任せで建ててもらったこの家は、住人が居なければ鍵がかかって誰も入れないという便利な機能付き。
いくらなんでもこいつをそうだと判断するとは思えないが、実際のところ何をどう住人だとしているのかどういう魔法なのかさっぱりわからないから何とも言えない。
仕掛けた本人に問うたところで理解できるはずがないからそんなことしようとも思わないが。
もしかしたら本当に何処か傷んでいるのかもしれない。
ちらりと使い魔を見る。
不機嫌そうな不貞腐れたオーラを纏いつつ、ふよふよ浮かびながらこちらに背を向けてちまちまと片づけをしている。
普段ならさっさとこなすところをわざとゆっくりやっているようだ。
まー。そりゃーそーだろーなぁ。
あんなに捕まらなくて手こずったのが嘘のように時々カタカタと動いてはいるが大人しく閉じこもっているのだから。
そう。こいつは自らカンテラの中に飛び込んだのだ。
出掛ける準備にリビングのテーブルで荷物袋の中身を広げ、畳んだシャツの上にカンテラを置いたその瞬間に。
カンテラドラゴンだから当たり前かもしれないが。
他の入れ物に入ったなどと聞いたことがない。
ただ、見たこともないためどんな形をしてるかもわからない。
ドラゴンというからには何かこう、爬虫類的な姿をしているんだろう。
確証がなかったため相棒に確認をとれば、奴はこっくりとやけに重々しく頷いた。
とにかく、ある意味籠城ともいえる行為だが、会話という意思疎通が望めないため相手の要求はつかめずじまいだ。
危険な生物でなくてよかったよな。
がりがり頭を掻いて小さなカンテラを眺める。
凶悪な物であればまずトリスがすっ飛んでくるだろうし。
いや、この生き物であれば違う意味ですっ飛んでくるかもしれないが。
どうしてこの、俺の森にこの生物がいないのか。
これがその理由だった。
あの怪物的友人はこれを食うのだ。
美味しいよとは言われたが試すつもりはない。
あ。これ時々カタカタ震えてんの、もしかしてビビってんのか。てことはあれだ。あいつがいる森だってのは認識してんだな。
家の中にあるものは勝手に手を出すなという言いつけは守られているからか、今は来ないのだろう。
なんにせよ。こんなにもがたがたと震え怯える者を差し出すほど冷酷ではないし、時々世話になっているからこれから先恩恵に与れなくなるのはものすごく困るわけだ。
酒とつまみをちょっと分けてやるだけで油切れの心配がなくなるんだぜ? 超便利!
飲ませてやるかと酒瓶を引き寄せ、弱々しい光を眺める。
弱々しい?
……あー。なるほどなー。そりゃーそーだよなー。
「おい。なんか食うもん」
どのくらい前からここに居たのかわからないカンテラドラゴンと。俺たちは早めの夕食を共にした。




