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彼の住む小屋はそこそこ広い。
寝室に客間兼用リビング、あまり使われない台所に広めの水場。それからちょっとした作業場。
地下には発酵部屋と貯蔵庫、それと保管庫がある。
鬱蒼とした森の奥の、少し開けた場所に建つそれに辿り着くには道らしい道はない。
空を飛んでくるような者たちには関係ないが。
そういった奥地にひっそり住む魔法使いがするように見た目はおんぼろ小屋で、扉を開けたら捻じ曲がった空間に繋がっていて広々している、ということも全くない。
ごくごく普通のログハウスだ。
風通りを良くするために寝室の窓を開け放ち、その涼しい空気を吸い込む。
もう一寝入りしたいところだったが、すでにシーツはすべて剥がされていた。
遠い昔、シーツの海に巻き込まれて目を回していたりしていたのが懐かしい。
とはいうもののそういう事態に陥っていたのは最初の一、二回程度のことで、今さら口に出して言おうものなら当の本人(?)からいつまでも何言ってんの的な視線を返されるだろうが。
すっかり手際が良くなったなぁ。くるくるよく回るし。
動かないときはさっぱり動かないけど。
人形用の小さな揺り椅子にすっぽり嵌ってうつらうつらする使い魔を思い浮かべながら独り言ちる。
しょーがねぇなー。
知らず顔を顰め、がりがり頭を掻きながら部屋を出た。
激しい暑さが来るにはまだ遠い季節だからか、太陽が高い位置にあるというのに日差しは柔らかい。
ちょうど裏手に着いたところで抱えていた空の樽を下ろした。
この間、空にしたばかりの奴でまだ湿気っているそれを少しずつ解体していく。
填められた小さな部品を外すたびに、濃いアルコールが香る。
外すというよりは繋目を壊してるだけ、ともいう。どうせ俺はそんなに器用じゃないさ。
「よぉ! 酒造り!」
一息ついたところを見測られていたかように横手から声を掛けられて振り返る。
「近くまで来たからさ。ちょっと分けてもらおうと思って」
もちろんタダでとは言わねぇよ、と続けるそいつに、
「……ぉお。って誰だっけ?」
そりゃあ当然だろうと答える前に思ったことが口につく。
どっかで見た覚えはある。どこだったかなぁ?
こんな場所に来るにはあまりに軽装な男は呆れ顔で腕を組む。
「先生んとこで会ったろうがよ。いつでも来いよっつったのお前だぜ?」
「おお!」
繋がる記憶に思わず振り下ろす左の握り拳を右の手の平で受け止めた。
「おお! じゃねぇよ」
男の苦笑いを受けながら、さして汚れていない膝を払い立ち上がる。
と思っていたが、はらはらと零れ落ちる草のきれっぱしに長い間作業していたことを気付かされる。
そういえば先生のとこで最近飲み会やってないな。
海沿いの古ぼけた館とそこのアイドルって言うには程遠いような風体のアイドル医師を思い浮かべた。
まぁ、美形には違いない。
「来いよ。選ばせてやるから」
声をかけ貯蔵庫に向かって歩き出す。
こいつにどの酒を勧めてやろうかなとか思いながら。