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 彼は自分の酒の評価を知らない。


 拍子抜けるほどあっさりと屋台で手に入れた炙り肉のクレープ包みに大口を開けて齧り付く。

 具は大き目。思ったより肉厚でそこは俺好み。気分は上々だ。

 齧り付いた海馬肉の肉汁を零しそうになり慌てて吸い付く。

 一緒に挟まったサクサク衣の海草に絡まる塩のソースが口いっぱいに広がる。

 やっぱ味付け的にはいつものとこが良いけど、こーいうシンプルな味も美味いよなー。

 気に入った良い肴があれば飲みたくなるのは必然と言うやつだろう。

 これに合うとすればあの酒かな。翠がかった甘い奴。

 それとも青瑠璃か。濃い色にドロリと舌触りを想像されがちだが実はきりりと辛口でさっぱり。

 あー今持ってねぇな。

 肩に掛けていた荷袋を開け、三本並ぶ酒瓶の内から二つ目を手に取った。

 山鏑の蜜酒は少し甘いがすっきりした味わいにほんのりスパーリングが効いている。

 栓を抜けばふわりと柔らかな香り。

 銀色のカップに注ぎ、その浅緋色の堪能してから一口含んでごくりと嚥下した。

 さすがこの俺が作っただけある。自画自賛だろうが美味いもんは美味い。

 だが、このクレープに合わせるにはやはりもう一つ甘さが重い。

 こうなれば何が何でもあれが欲しくなるのは仕方がないというか、性と言うべきか。

「おい。青瑠璃を一本持ってきてくれ」

 保存庫のストックに何本かあったはずだと斜め上に声をかければ、まん丸の身体ごとコクコクと頷き黒い相棒がどの方角か空へ向かってすっ飛んで消えた。

 ぱちりと瞬き一つ。

 細い棒のような足でぶらりと自身よりも数倍の大きさの酒瓶をぶら下げ、ゆっくり舞い降りてそのまま目の前でで立ち止まるようにふわりふらり浮かぶ。

 いつものとおりの素早さにニヤリとすれば、早く受け取れとばかりにぶらぶら振り子のような動きが速くなった。

 重いわけでもないくせに。

 だがクレープが熱いうちにと急いでくれたのだろう気持ちは通じているからそれ以上の文句はない。

 残った酒を一気にあおり空にして、すぐに瓶を傾けカップに注ぐ。

 濃い藍色をしたそれはさらさらと流れ溜まる。

 仄かに柑橘系を思わせる爽やかな香りに思わず口の端が上向きに歪んだ。

 一口口に含み目を閉じ味わえば、きりりとピリリとした口当たりに満足する。

 そうそう、今の気分にはピッタリこれだ。

 もちろんその時々によって合う酒は変わってくる。

 体調が違えば欲しいものは全然違ってくるのと同じで。舌の上に転がす味わいが変わるのだから当然だけれど。

 あれだ。だから、カクテルが物凄い種類があるのだ。

 まー。そう、聞いたことがあるだけで実際に見たり飲んだりしたことはないけど。

 上機嫌のまま瓶を掲げるようにして持つ。

「グラスを」

 と言えば何処から出してきたのか、自分と同じくらいの大きさのカップを差し出してくる。

 今度はしっかりと両足で縁を掴んでいるのを見て、つい笑いがこぼれた。

 ちゃんと一杯分注いでやってから自分の分も継ぎ足す。

 うっとりとカップを傾ける使い魔を眺め、まだ温かいクレープを一口頬張り青瑠璃の酒を流し込んだ。



 ヒトの何倍も嗅覚の優れた幻獣たちや種族たちが集まるために、そういった匂いを排除することに長けた街中(まちなか)で酒の匂いにつられてやって来た水生族が、あの"先生"の知り合いだとわかったおかげで街を案内してくれたのはその後の良い思い出になった。

 先生に薬酒を貢いでてホントに良かったよな。

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