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彼は大概行き当たりばったりだ。
やっぱり青の色は少し違うらしい。
思っていたよりもずっと明るい空を見上げる。
海の底とは思えないほど眩しいそれに思わず、左手を額の上に翳した。
まいったなぁ。せめて市の場所くらい聞いときゃよかったぜ。
歩き始めて暫くもしないうちに自分の迂闊さに頭をガリガリと掻く。
有体に言えば『迷った』。
普段は気にならない建築物にも目をやり、おのぼりさんと言うか観光客丸出しの風できょろきょろとしていた割りにガラの悪い者とブチ当たらずに済んでいるのは着ているものが少々よれているからだろうか。
ただ単にまだ明るい場所を歩いているからだろうか。
それともこれが種族の差と言うものなのだろうか。
海の中とは思えない石畳の堅い感触を靴底に感じる。
さーて、と。どーすっかな?
広い道を選んで来た先にあった開けた場所で、真ん中の噴水が見渡せるベンチに腰を掛けた。
大きな都市の広場には大概あるものだが、それはここでも変わらないらしい。
行ったことのある都市のそれより大きく広い水場には、いくつかの岩場が飛び石のように不規則に並ぶ。そこかしこから順番に、時にはバラバラにちいさな水の柱が立ち上がり、その飛沫があちらこちらに散っていく。
当たり前のように中に入って遊ぶ子供たちの甲高い悲鳴のような歓声に、口元を緩めつつも縁に腰掛けなくて良かったよなと心境は複雑になった。
此処に住む知り合いに挨拶をするのだという、連れ立ってやってきた大魔法使いと自称する男とはこの海底都市に入ったところで別れた。
付いてくるかと誘われたが、見知らぬ相手に押し掛けるのも押し掛けられるのも迷惑だろうと断った。
けして面倒くさいからだとかと言う理由だけではない。
とはいえ、この男のおかげで来れたようなものであるからには、と手土産を持たせた。
こういった幻獣や精霊都市に入るには、色々と許可がいる。詳しいことはわからないので省くが国家間での取引や証明が必要になることもあるとか。
一番簡単な方法が許可を持つ者と一緒になることだが、それでもものによっては拒否られ放り出される事も多々あるらしい。
特に嫌がられるのは、まぁやっぱりと言うか、ヒトだ。
暴れるなら力の強い種族などの方がよっぽど危険であろうと思われがちだが、あいつらは力関係に敏感だから、それ以上に強い奴が睨みを利かせれば一発で大人しくなる。
気配や魔力を感じられない、気付いても活かせない底辺の数が多いヒトとは違うのだという認識が横行しているせいだろう。
そのくせヒトの街には適当に入り浸るヒトでないモノが結構いる事を思えば、ある意味ズルいとも言えなくもない。見た目を重視するヒト側からはわからないから、仕方ないことだけれども。
とにかく、例えて言うならば一見様お断りの店のようなものだろう。
それを思えば運がよかったのだ。
なんとこの魔法使いはヒトでありながらフリーパスだったのだから。
手渡したのは、相手はドラゴンだというので出来たばかりの銀昌の酒。
賄賂としては十分(何に対してかはともかくとして)だろう。
今回も上出来な仕上がりに何一つ細工しないまま瓶に詰めたそれは、押し付けた当人には決して手を付けるなと言いくるめた。自己責任だし、知ったこっちゃないが後で噂が回って来ても微妙に後味が悪い。
呑む相手の表情が見れないのは残念だが、今回は良しとする。
そりゃー、やっぱり。目の前で旨いって言われたいもんだろー。
ふわりと風に乗ってきた美味そうな香りに辺りを見回す。
そう言えばちゃんと風が吹くのだと、今頃気付いて感心する。
広場の端の屋台から漂ってくる香ばしい香りに、ぐぅと音が鳴る正直な腹に思わず苦笑いがこぼれた。
とりあえず、腹ごしらえをしたいところなのだが持っている通貨が使えるのかどうかがわからず、ちょっぴり黄昏る。
普段は物々交換で済ませているのも問題だろうか。
懇意にしている串焼き屋はコップ一杯で食べ放題だ。
が、いつまでも黄昏ているわけにはいかない。腹は減るばっかりだしな。
持ってるもんで何とかなるといいなー。
なんて思いながら重い腰を上げた。




