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 彼が村を出たのは少年ともいえる時分のことだった。


 その頃のことはあまり覚えていない。

 親兄弟のことですら曖昧だ。

 それだけ無頓着であり、物欲などもあまりなかったせいだとは思う。

 興味があったのは酒造りのことだけで、それも何時の頃からやりたいと思っていたのかは定かではない。

 まぁ、忘却されるほど遠い遠い昔の話だともいえる。

 じゃあ、少年だったというのも本当は違うのではないか?

 そう言われても可笑しくはないが、今の住処に腰を落ち着ける前に働いた場所で盛大に成人を祝ってもらった記憶がなんとなく残っているから、そこは間違いはないはずだ。

 いざとなればその当事者に確認すれば確実だろう。

 忘れた頃に「あんなに小さかったよなぁ」などと保護者面でしみじみと呟かれれば、さすがに覚えもする。

 それなりに思い出しもするさ。

 そうなれば芋づる式で、そのあたりをそれなりに繰り返ししていればなんとなくでも残る。

 だから俺の記憶はそこから始まっているようなものだった。

 出奔の理由なら多分、村では手に入らないような見たこともない酒を求めて、だったのだろうと思う。

 それも実のところ確証はない。

 だが、そういったようなものであったからには、きっと浮いた存在だったんだろうという想像は難くない。

 いや。本当のことを言えば想像もできない。

 今のは只の受け売りだ。

 というのもそんな状況を見たことがないからだ。

 興味がなく意識もなかった時に自分がそんな状態になっているだなんて、客観的に見れるか?

 居心地の悪さ、なんてものも周りに関心がなければ気付かないものなのだ。

 ずっとずっと後になって、そうだったんじゃないかと言われて、そうかもしれないと思っただけ。

 もしかしたら、皆が皆そういった考えの持ち主でそうでなかった可能性もある。

 なんにせよ、気を巡らせるようになったのも此処に住みだしてから、幾度となく酒盛りを経験して知り合いが増えてからと言うのだから、我が事ながら少々呆れる。

 何があってこんなにも、この「酒」と言うものに惹かれたのか。魅入られたというべきか。その根本すらあやふやなのだからまったくもって笑えない。だからと言うわけではないが、そのあたりのことは昔から酒造りになりたかったのだと濁すことにしている。

 それに関しては嘘はついていないし、実際のところそれ以外のものは何処かに落っことしてきた、という表現がぴったりなほど。

 綺麗にすっぽりと抜け落ちているのだ。

 ……おかげで住んでいた村の位置も、自分の種族も、今となってはさっぱり解らず仕舞いで。

 何せ、あちらこちらをそこそこ出歩いているにも拘らず見つからないのだ。

 探してるわけでもないけどな。

 というわけで、やっぱりというか、今更別になんとも思わないのだが。


「あんたは人間じゃないのか?」


 などと聞かれると困るわけだ。

 テーブルについた肘の上、手の甲に頤を乗せたままホンの少し思案する。

 向かい合わせに座るのは、ついこの間この森で拾った魔法使いだと言い張る焦げ茶色の髪の男だ。

 額に巻かれたバンダナに丈の短いジャケット。腰ベルトに差された剣といった装備のせいであまりそうは見えない。

 まぁ、見た目だけで判断してはいけないのは重々承知してはいるつもりだが、相手は何せ人間だし。

(流石にそこそこ長生きしているからか、ヒトとヒトじゃない生き物の判別くらいはつくようになった)

「んー、ヒト寄りの種族だったと思うけど」

 そうではないかと言う憶測に、ちらりと視線をやったその先で使い魔のそれとぴたりと合う。

 奴は投げやりな感じに羽根を竦めるようにしてから、こくりと頷いた。

 自分的にはどうでもいいことなのだが、相手にとっては煙に巻こうとしているように映るらしい。

 誤魔化そうなんて気はさらさらない。

が、分からぬでは納得できないらしく。

「知りたくはないのか」

 と知りたがりの魔法使いに畳みかけられて。

 そんなこと押し付けられてもなぁと天井を見上げて溜息を吐いた。

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