12
彼は疎い。
カシャン。
酒瓶の封も開けぬ内に背後で聞こえた音に使い魔を見上げる。
こくりと身体ごと頷かれ樹の裏側へと回ってみれば、立てて置いたはずのカンテラが倒れているのが見えた。
天辺に付いた引っかける用のリングを持ち上げさっきよりもほんの少し重みが増したソレに、声をかければポ、ポ、ポ、短く点滅する。
「呑むか?」
思うより早い捕獲ではあったが出した酒を引っ込める気はさらさら無く、せっかくだからお前もどうだと問えば小さな扉が開いて小さなカップが差し出される。
そうして一人と二匹の酒盛りが半刻ばかり行われたのだった。
すっかり暗くなった空を見上げ、右肩をぐるりと回す。
幸いにも見つけた地中花の中に先住者の姿はなく、自分がほんの少し落とした枯葉が蜜の上に浮いているだけですんだ。
先住者と言うのは何かのはずみで落っこちた生き物が花の蜜を糧に暮らしていることがあり、それを指す。
地中で咲くその巨大な花は例えるなら蓮の花のような形をしているが実質、食虫花のようなもので一度落ちれば登るのは難しい。まぁ逃げる方法なら他にもあるのだが。
底にたっぷり溜まる蜜を汲み上げ今日のミッションは終了。
満杯になった中樽を二つ、使い魔に持たせ先に保存庫に送らせた。
「きゅーー!」
「おっと」
何かに飛び掛けられドスンと尻餅つく。
……なんか最近こんなのばっかりだなぁ。上に乗る赤いふわふわした多分鳥のような生き物眺めていると。
「よぉ、酒造」
何処から湧いたか赤い髪の男が腕を組み仁王立ちでこちらを見下ろしていた。
「おー」
挨拶を返せば、「気配を感じたからな」と来てやったぞ的なオーラを出している。
さらに何やら、一人にさせるなと回ってきているしな。などと呟いているが何のことやら。
というか。だったらもっと早くから来て手伝ってくれりゃぁいいのに。
まー、気ままな奴だから、しょーがねーか。
奴はそこの火の山に棲む火喰い鳥のような生き物だ。
とにかく、そこは置いておくとして。
「あー、うん。ありがたいんだけどさ。コレ、じゃれつかせんの止めてくれる?」
なんつーか。地味に痛い。
圧し掛かられた上にコツコツと突くように啄まれる。
「うむ。甘えているのだ、気にすることはない。なかなかここまでは懐かぬのだ」
いや、喜べって言われてもな?
しぶしぶ退かせられたそれにちょっと長めに息と吐く。不満そうな鳴き声に恨めしげに見られたがこれ以上はごめんだ。
重いし。
暫く男の頭の上でジタバタ動いていたその男の子供は、ターゲットを何時の間にか戻ってきていた相棒に切り替えたらしくふらふら飛ぶ奴に向かってジャンピングアタックを始めた。
「一緒に住んでいるらしいな」
「……あー、隊長の娘な」
主語を抜くなよ。何のことだかさっぱりわからないところだったぜ。
「砂のところのか」
「そうそう」
そういえばそういう呼ばれ方もしていたな。
立ち上がり尻に付いた汚れを払う。
彼女が我が家にいた理由を話せば奴は呆れたような顔で、
「それは、もしかしなくても婿探しなのではないのか?」
などと言われ、思い出してみれば。
「あー。もし仲間を作るなら魔法が使える奴が良いとか何とか言ってたっけ」
強ければ強いほどいいとか。
てことはあれか。
「トリスのことが気になってたってことか!?」
あー、悪いことしたなぁ。もっとそっちに時間取ってやればよかったか?
「いや、そういうのは違うと思うんだが」
「……なるほどな。周りがどうこうお膳立てしたところで上手くいくとは限らないもんな」
納得。
「っていうかさ。やっぱそういうの難しいな」
「お前が鈍いだけだろう」
「ひでぇ」
どうせ俺はそういうのに向いちゃーいねぇよ。
「どっちにしろ、もう彼女は街に行ったさ」
そう言えば、男はただ一言「そうか」とだけ答えた。




