10
彼は良く相棒に振り回される。
あー。なんか、空振りっていうか、無駄骨っていうか。
表現的には大袈裟な気もしないではないが、心境的にはこうとしか言いようがなく。
頭をがりがり掻き、目の前の状況に盛大に溜息を吐いた。
川伝いにえっちらおっちら上流を目指し、目的地にやってきたのだが。
それは湖へ行くよりも足元はさらに悪い。
岩場を乗り越え、倒木の橋を渡る。
まぁ他にも道があるにはあるが此処に辿り着くにはこのルートが一番しっくりくるというか、好きだというか。偶に滑りそうになると上から降ってくる何やってんだという視線を、気付かない振りでやり過ごす。
そりゃー、お前みたいに飛べりゃあ良いけどさー。
好き好んでわざわざ行くのだからしっかり歩けということなのだろうが、ちょっと釈然としない。
まだ昼には少し早いがその行程のせいか暑さで汗ばみつつ、そうしてまでして辿り着いた場所を見てなんとも言えない気持ちになったわけだ。
手入れのつもりで来たのは確かだが、その必要はあったのだか無かったのだか。
酒盛りの爪痕はこんなところにも残されていたらしい、真新しく建て直されたそれを眺めた。
この間の霧雨のせいもあってか、しっとりとした空気の中まだ木の香りが辺りに漂う水車小屋はその景色の中で浮いて見える。
水源である岩壁の滝口が元のままの姿を保っているところを見ると、宝玉樹と同じく俺がが大事にしている場所には触れてはいけないという暗黙の了解はきっちり守られているようだ。
酒造りに必要な物であるから、傷つけてその分遅れたり作れなくなることを造り手以上に恐れているに違いない。
注ぐように細く落ち流れる何処かからの地下水がゆったりと水車を回す。
合わせて建つ小屋の中から微かに音が聞こえ、中も機能しているのだろうと想像する。
だが、まぁなんというかこの時点で既にやる気は失せていて。軽くさらりと中を覗けばやはり滑らかに動くそれらを見て、また今度でいいかと踵を返した。
ほとんど新築状態のため掃除の必要も感じられない程度に小奇麗であることだし、用は済んだも同然だ。
「まったく。そうならそうと声をかけてくれりゃぁいいもんを。なぁ?」
そしたら様子を見に来なくても良かったのにと小さな手拭いでジワリと滲む汗を拭き、愚痴るように同意を求めれば、まるで聞こえなかったように前をふらり、ふわりと飛ぶ黒い相棒にピンと気付く。
「……お前。知ってたな?」
それはもう思わせぶりにゆっくり振り返り、その体の大きさからすれば大きい円らな瞳をさらにきょとりと音が聞こえそうなほどに見開く。
それからぱちくりぱちくりと瞬いて、ふーる、ふーると身体ごと横に振る姿ときたら。
……あざとい。
「って、わざとらしいんだよ!」
眉間にしわを寄せ声を荒げてみせたにもかかわらず、悪びれもせずふわふわと飛ぶ使い魔に肩に入った力を抜く。
しょーがねぇなー、ったく。
そのまま先を行く奴をゆったりと追うようにその場を後にした。




