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3大陸ツアー その2

 ツアー起点の街、ブトワル王国の首都ジャバルプルは、街中の建物や道が色とりどりの装飾で飾り立てられて、世界中から集まった観光客で埋め尽くされていた。

 空には100を超える数の風や雲の精霊が飛び回り、祝雷や虹色に分解された光の精霊が空を飾っている。


 首都自体はトリポカラの都と同じく人工島で、大河ヴェロールの河口に浮かんでいる。

 しかし今は観光客が集結したせいで、その守護樹が大量に都の岸壁に接岸して森を形作っている。そのため、いつもよりも都の面積が3倍くらい大きくなって、なおも拡大していた。


 広大な河口では水の精霊が夏の太陽を盛大に乱反射して、噴水や爆裂をして見せて歓声を浴びている。

 この河は汽水であるために、少し塩味がする。そのせいで、亜熱帯性のマングローブ群の森に川岸が覆われているという特徴的な風景になっている。


 トリポカラ大陸よりも小さい大陸なのだが、生態系はほとんど同じくらいに複雑で豊かだ。岸を埋めるマングローブの森も数多くの種類の木々で構成されている。

 夏なので虫や魚なども沸くように大量にいて、しかもトリポカラとは別の種類ばかりだったりする。


 王宮前通りに設けられたツアーの出発ゲートには、今回、全世界から参加してきた56チームが密集していた。巨大なスレイプニル達が興奮して、轟々と鼻息も荒く地面を踏み鳴らし、地震のような地鳴りが起こっている。

 そのそばには、額から見事な一本角を生やしたユニコーンや、馬の体に鳥の頭が乗っているヒポクリスなどがいて、因縁をスレイプニルからつけられないように縮こまっていた。


 ちょうどブトワル国王の演説が終わったところである。いよいよ号令前の興奮と緊張がピークに達してきた。

 ラウトがコラールに聞く。

「今回は、トリポカラからどこが参加してるの?」


「水上警察を中心にした警察消防合同チームが2つと、魔法研究所、大学チーム、それに民間の運送会社とか、全8チームだよ」

 コラールが少々興奮した様子で答えた。

「何といっても『水上警察のエース』ブラカン様ね。彼、第2日目の代表騎手なのよっ」

 セリアも加わって、黄色くなり始めた声でディスプレーを注視している。


 10名の警護に取り囲まれたブトワル国王が、4メートル近い守護樹に乗って王宮上空まで上昇した。

 そして、杖を取り出して出発ゲートに向けて振り下ろす。

 同時に警護が魔法支援を行い、王の杖先から発生した巨大なレーザー光線がゲートを直撃して消滅させた。


 ドオオオンと盛大な爆風が起こり、もうもうと土煙が立ち上がる。

 それをぶち抜くように、一斉にスレイプニルが先頭を占める魔法生物の大集団が走り出した。


 轟然と地響きが激しく起こり大歓声が沸き上がる。

 大会警備の現地警察が水系精霊魔法を発動させて、地響きの振動が建物などに及ばないように調整しているが……やはり土系ではないので効果は今一つのようだ。


 スレイプニル群はぐんぐんと加速していき、あっという間に他の魔法生物を引き離していく。

 長さ1キロ弱の王宮前通りの先は港になっており、まるで離陸する戦闘機のような勢いで速度を上げていく。


「あっ。バカがいた」

 目ざとくコラールが指差す。

 スレイプニル群が殺到する港の沖に、数名の若い派手な格好をした連中が貧相な守護樹に乗って騒いでいる。「ああ……本当だ」

 ラウトとセリア。


 同時に港を飛び出して水面に躍り出たスレイプニル群が、騒いでいる若い連中を巧みにすり抜けて水面に着水した。騎手たちが精霊魔法を発動する。

 スレイプニル群が水面を蹴り90度の急展開をして、首都ジャバルプルを周回する進路をとった。蹴られた水面は大きくえぐれて、次の瞬間に高さ30メートルに達する巨大な水の壁を生み出し、しぶきと化していく。


 そこに光の精霊を使った後援企業や大会の宣伝文句が、一番くだけた文体である草書体のひらがなに似ているエルフ文字でデカデカと映し出された。隅の方にはそれぞれのチームのファンからの、熱烈なリアルタイム表示の応援メッセージが無数に表示されている。


 数秒後、スレイプニル以外のユニコーンやヒポクリスなどが港に飛び出してきた。同じように水面を蹴ってスレイプニル群の後を追っていく。

 騒いでいた若い連中は見事に巻き込まれて守護樹ごとひっくり返り、川面に漂っていた。水上警察が怒りの声を上げつつ救助に向かっているのが見える。


「毎年、ああいうバカが出るのよ」

 コラールがツンとした声で言い放つ。

「さあ今年も、第1日目の首都を365周、周回するタイムトライアルが始まったわねっ。ああっ、ブラカンさま~」

 器用に声のトーンを変えて、ブラカンの姿を探し始めた。


「だよねー。よく毎年無事なものだわ」

 セリアもあきれた声でハーブティーをすすっていたが、同じように次の瞬間から黄色い声にトーンを変えてブラカンを応援し始めた。

 ミンヤックとラウトは目で互いに(おいおい……)と合図を交わして、それからディスプレーに集中する。


 既に時速300キロに達したスレイプニル群は、押し合いへし合いしながら周回している。次第にそれぞれのチームの隊列が整ってきた。

 6人の騎手が直線に並んで他のチームと押し合いをしているのが、ラウトたちにも見えてきた。ディスプレー越しだが。全体の陣形は矢印のような形で、それを構成する騎手たちが常に位置を変えて流動している。

 その大群が都ジャバルプルの沿岸を周回しながら、観衆がひしめく岸辺へ急速に接近してきた。

「さあ、来たわよ」

 興奮した様子で、ディスプレーを注視するコラール。


 沿岸には観光客の守護樹が数十もの層をなして接岸していて、森のようになっていた。その守護樹にはそれぞれ人が乗っており、よりよく見える場所を得ようとワラワラと動き出した。

 それを巧みにかわしながら、矢印状の陣形を組んでいる高速集団が沿岸ギリギリに迫って疾走していく。少しでも距離の短い沿岸側に殺到していく騎手たち。


 ディスプレイ上でも轟々とした風音と水煙、そして大波を立てて沿岸スレスレを駆け抜けていく騎手が映し出されていて歓声を浴びている。守護樹に乗った観客達は荒波にもまれて、ひっくり返ったりしているようだ。もはや障害物の群れと化している。

 スレイプニルはその障害物をかわし、相手方のスレイプニルに体当たりして、最短ルート線上から弾き出す攻防をしていた。


 感心するラウト。

「本当に、すごい技術だよね。あれだけの高速疾走をしているのに」

「あこがれるわ~。あれだけ操れたら、爽快よね」

 そう言って笑うコラール。その言葉に、ますますツーリングに熱を上げるだろうと確信するラウトであった。


 スピードや体格が劣るユニコーンやヒポクリスなどは、スレイプニルが疾走激突する修羅場には近寄らず、少し沖合いを周回している。

 それでも、時々押し飛ばされてきたスレイプニルに巻き込まれる運の悪いユニコーン騎手も出ているようだ。水上警察に騎手が救助されている。実に手馴れた動きである。


「うら行け、おら行け、そこだ、行けえっ」

 一際太くて響く大声で、腕を振り回して応援しているのはミンヤックだった。コラールの守護樹の基礎岩の角に立って、枝を持ってワシワシと揺らしている。

 それを見るなり怒るコラール。

「あーっ! 枝が折れるうっ。何するのよ! このドワーフっ」


 飲み物を買ってきたラウトが、ミンヤックにつかみかかろうとしているコラールを辛うじて抑えた。

「先生、ウィスキーです。どうぞっ」

 一抱えもある巨大な樽のようなジョッキグラスに溢れんばかりに入っている、琥珀色のウィスキーをミンヤックに差し出す。もちろんラウトの腕力だけでは持てないので、杖を使って浮遊魔法を発動させている。


「おお。これは気が利くなあ、ラウトよ」

 上機嫌で片手でそれを受け取って、ラウトに乗せられるままガブ飲みするミンヤック。


 その十分後。酔っ払ってひっくり返ってしまったミンヤックを守護樹の根元に横たえながら、ラウトがコラールにウインクした。

「これが一番有効なんだよ……ん? 何だこれ」

 ラウトが、大イビキをかいているミンヤックのポケットから、何枚かの紙券を見つけた。

「うわ……賭けをしてたんだ、先生」

「それは、応援にも熱がこもるわね」

 冷ややかな目でミンヤックを見下すコラールとセリアであった。



 爆走レースはいよいよ終盤に突入してきていた。コラールとセリアが黄色い声で叫ぶ。

「残り10周よっ! ブラカンさまあっ」

 さすがにスレイプニルの俊足である。ユニコーンなどはまだ半分しか周回していないのに、もうラストスパートの押し合い合戦になっている。

 この段階で、トリポカラとパタンの警察チームが先頭争いを激しく繰り広げていた。エース騎手のブラカンが巧みにスレイプニルを操って、パタン王国警察隊のスレイプニルを弾き飛ばしている。


 それを見たディスプレー観戦の群集が「うわー!」と興奮喝采している。パタン王国びいきの観客からは悲鳴が。ラウト達も声を限りに応援する。

 そしてラスト3周になって、この日担当の代表騎手がポーンと先頭から飛び出た。そのままグングン加速していく。ブラカンたちはパタン王国の騎手達に体当たりを繰り返し、走行妨害して援護するようだ。


「いけーっ」

 身を乗り出して応援するコラール。

「うわーっ、うわーっ」

 ラウトも叫んでいる。そこへ復活したミンヤックが一際響く大声を上げた。

「うおーっ! いけーっ!」


 そのまま守護樹の基礎岩から飛び降りて、ディスプレーにへばり付く。その姿勢で腕をブンブン振り回して、あっけなく落ちてしまった。

「せんせー!」

 守護樹から身を乗り出して下を見るラウトに、冷静なコラールの声が。

「いいのよ、放っておきなさい」

 心配は無用だったようだ。ミンヤックが興奮と酒で顔を真っ赤にさせて、エルフで埋まった人混みの中でピョンピョン飛び跳ねて騒いでいるのが見える。


 レースは、トリポカラ王国の警察チームが独走状態になった。ラウトが驚く。

「うわー、さらに加速したあ」

 コラールも感心している。

「精霊を集めるのがうまいなあー」


 先頭の代表騎手を援護するために、ここでブラカンが指示して選手全員が急ブレーキをかけて停止し、パタン王国チームの突進を力ずくで止めた。

 ものすごい水煙が巻き上がり、スレイプニルが集団で激しくぶつかり合う轟音が響き渡りこだまする。


 その援護を受けて、1人先頭を独走するトリポカラ警察チームの代表騎手。港の入り口で水面を蹴って90度旋回し、出発した王宮前通りへ上陸した。

 沿道の大観衆から空気を揺るがす歓声が上がる。そのまま猛ダッシュをしてゴールイン。

 勢いのままジャンプし、王宮を飛び越えて向こう側の水面にドーンと着水する。


 そこへトリポカラとパタンのチームがなだれ込んできた。彼らもジャンプし、向こう側の水面に盛大な音と水柱を立てて着水した。


「やった。トップよ」

 コラールが拳を振り上げてピョンピョン飛び跳ねて、セリアに抱きつく。下でも大騒ぎになっていた。ミンヤックが熊のように吼えている。姿も仕草も熊のようだ。賭けが当たったのだろう。

「うわー! 初日優勝したー」

 ラウトが興奮してディスプレーとコラール達の顔を交互に見る。コラールとセリアがニコニコしてラウトに抱きついてきた。

「ね、言った通りでしょ? さ、祝勝会よ」


 もう地上も空中も、興奮した人々で溢れかえっていた。

 肩を組んでトリポカラ水上警察の隊歌を大合唱する輪に、ラウト達も地上に降りて加わる。特設ディスプレーには繰り返しレースのハイライトシーンが流れている。

 やがて今日のヒーローである水上警察の騎手がインタビューに答え始めると、ますます歓声と合唱が大きくなった。


 ミンヤックは早くも迎え酒をやってしまい、また倒れて大イビキをかきながら道端で寝ている。

「もう、今日は放っておこう」

 ラウトとバランもさすがに、さじを投げてしまった。特設ディスプレー前の大賑わいの輪に戻っていく。


 合唱は次々に曲を変えながらあちこちで自然発生的に起こり、ついには踊りの輪がいくつも出来上がっていく。

 祭祀の時や伝統芸能の集いで踊るような威厳のあるゆったりしたものではなく、飛び跳ねたり奇声を上げたり精霊魔法を使ったりする賑やかな踊りだ。

 ラウトとコラールも加わって手をつないで飛び跳ねたり、一斉に光の精霊魔法を夜空になった空に放ったりして、汗を飛び散らせて楽しんでいる。


 バランとスミングは、さすがにこういった派手な踊りは苦手なようだ。輪の外で観賞している。

「今日は楽しい日だったな、スミング君」

 バランがスミングに笑いかけた。スミングも農園で仕込んで熟成させた酒を持ってきており、バランと分け合って飲みつつ嬉しそうに踊りを眺める。

「そうだねバラン。明日からも首位を守っていければ、言うことはないな」



「ふあ……眠くなっちゃった。もう、これで帰るわね、ラウトさん、おやすみー」

 早寝早起きのコラールは2時間ほど踊ってから両親と一緒に帰宅していった。セリアも家族とともに帰宅していく。こちらは2次会をするようだ。ラウトも誘われたが、踊り疲れたので丁寧に断る。

 途中で合流した農園勤務のカンプンと、あまり踊っていなかったテランの2人がセリアたちと一緒に2次会をしに去っていった。

「さて……じゃあ帰ろうかな」

 ラウトは彼らを見送って帰路についた。その後、踊りと歌は延々と深夜まで続いていったようである。



 第2日目は、本格的な荒野を走り抜けるオフロードツアーである。現地とは7時間の時差があるので、バクタプルではツアー開始がちょうど夕方になる。

 ラウトが仕事を早く切り上げて、待ち合わせ場所へ向かうと――


「ラウトさーん、こっち、こっち」

 コラールの声がした。

 人混みにモミクチャにされながらも、何とかコラール達の声がする喫茶店の場所にたどり着く。

 何と、そこだけがぽっかりと人がいない状態になっていた。場所は喫茶店の特設空中ディスプレーの真正面、特等席である。どう考えてもありえない。


「え? どうして?」

 ラウトが驚きながらもコラールに勧められるまま、流木を巧みに組み合わせたイスに座る。まさに特設ディスプレー最前列真正面の特等席である。


「久しぶりねぇ、ラウト君」

 この世界の住民ではない3人の美女が、霧が晴れていくようにラウトの横に姿を現した。

 美女たちは特等席に座ってくつろいで、4、5種類の果物が乗ったアイスクリームパフェを食べながら微笑んでいる。奥にはゲート管理の坊主が座っていて、紅茶をすすっているのが確認できる。

 ラウトの横にはコラールとセリアが緊張して座っていて、ホットハーブティーをすすっていた。


 ラウトが美女の声に聞き覚えがあると直感したのに呼応して、ハーブティーをすすっているコラールが小声でラウトに教えてくれた。

「ラウトさん。ピンク色の蛇さん使い魔を操っていた人よ。第6世界の第3女王さま」

「うあ。ご無沙汰しております」

 慌てて立ち上がり、トリポカラ国王に対してするのと同じ形式の礼をするラウト。


「まあ。礼儀正しいのね、可愛い」

 女王の奥に座る2人の美女が目を細める。3人とも南欧系の彫りの深い端正な顔立ちで、身長は170センチ前後とエルフよりも背が高い。

 モデルのようにスレンダーで手足がすらりと長く、漆黒の黒髪はウェーブがかかっていて、上品な顔に嫌味でない程度に収まっている。

 衣装はエルフの簡素なものとは全く異なり優雅なドレス姿であるが、エルフに配慮してか革製品や毛皮のものは身に着けていない。なので、足元はフェルト生地のようなものでできたサンダルである。また、指輪などのアクセサリーも一切見当たらない。


 ラウトとコラールが声だけを聞いた女王は、一番近くの席に座ってこちらを優しい目で見つめている。深海の青さをたたえたその瞳は、見る者を全て魅了してしまうかのようだ。

 漆黒のウェーブがかった髪は3人の中で最もフワフワしているのだが、それをきっちりとまとめている。

 さらにドレスもビジネススーツの延長線上にあるような印象だ。真っ黒い生地なので、優秀で切れ者の秘書のように見える。サンダルも黒で足にぴったりとフィットしている。ただ、身長は3人の中で一番低いようだ。


 坊主が紅茶を石のテーブルに置いて、ラウトたちに紹介した。

「この御方はな、姉王様じゃよ。君から見て、奥から第1女王、第2女王、そして君が先日お会いした第3女王じゃ。今日は、向こうの世界では偉い人が全員いなくなってしまっておる。どうなることやら」


「あら、大丈夫よ。今日は私たちの世界の時間を、ものすごーく遅く進むようにしてきたから。ここでの1秒程度しか向こうでは経たないわ。5日間だから5秒間ほどね」

 何食わぬ顔をして、パフェを食べる第1女王。

 3人の中で一番背が高く、白を基調にしたドレスも気品と威厳があり、足元のサンダルですら気品が感じられる。老舗の若社長といった印象だが、あふれ出るカリスマの輝きは尋常ではない。


「因果律と、他の異世界との時間調整は後でするから平気よ」

 パフェを食べ終える第2女王。

 こちらはエルフ世界に合わせたような若草色を基調にしたドレスである。髪のウェーブは最も癖が強いようだ。

 レース編みのフリルなどがたくさんついているドレスや、可愛らしさを強調したサンダルなどと合わせて、人懐こい印象である。会社でいうと営業部のトップというところだろうか。


 第3女王が事務的に言葉を補足した。

「不要な異世界を一つ、ひねり潰せば事足りるでしょう。既に潰す異世界は指定してありますからご心配なく」


 いきなり物騒な物言いをしたが、ラウトたちの方に振り返ると優しい話し方に変わった。

「エルフさんたち。実はね、私たちは毎年来て観戦してるのよ。今年は貴方たちも招待したという訳。周りの人には、私たちがこの空間を占有しているとは認識させていないわ。だから、ここだけ人がいないのよ。分かる?」


 そう言って、第3女王がラウトたちに説明する。

 そこへ、人混みをかき分けてミンヤックとバランが現れた。彼らも気づかない様子だ。目の前の特設ディスプレーに釘付けになって、一抱えもあるジョッキグラスに波々と琥珀色のウイスキーを入れて飲んでいる。横のバランも手に大きな石のグラスを持っている。


 ラウトが彼らの方向を見たので、第3女王もバラン達を見る。が……

「今回は招待できないわね。お騒がせな魔神の肩凝りと火傷を治しちゃったから。まあ、もう処分しちゃったからいいけどね」

 そう言ってラウトに向き直った。かしこまるラウト。

「は、はい。分かりました。女王様」


 第1女王がその様子を微笑んで見ていたが……ふと、何かを思い出したようだ。

「君たちはクモを見ても平気よね。せっかくだから、全員を紹介しましょう」

 いきなりラウトやコラール達の座るイスの背後、2メートル四方ある空間に、それを埋めるような巨大なクモが現れた。


「うわ」

「きゃあ」

 驚くラウトたちに、第1女王が穏やかな声で説明した。

「魔法生物の保護世界の住人なんだけど、勉強熱心でね。よく一緒に出歩くのよ」

(よろしく、森の住人たち)

 その大グモが、念話で挨拶してきた。

(もう少し体を小さくした方が、窮屈な思いをさせずにすむだろう)


 あっという間に巨大な姿が消えて、1センチくらいまで小さくなったクモになってしまった。それが、なぜか空中に浮いている。よく見ると空から1本の糸が垂れており、それにぶら下がっていると分かる。こうして見ると、きれいな宝石のようだ。

 礼を述べるラウト。

「クモさま。ご配慮くださりありがとうございます」

 しかし、この糸はどこから垂れてきているのだろう?


「さて……そろそろレース開始ね」

 第1女王がディスプレーを見ないでパフェを食べ終えた。


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