虫ゾンビだらけ
たちまち数万匹を超える大量の虫の群れが、ラウトとコラールが展開している防御障壁に覆いかぶさるように襲い掛かった。
防御障壁はプラズマを帯びた風の精霊の群れによって構成されている。そのため、たちまち無数の虫がプラズマに焼かれて燃え上がり、風によって外へ弾き飛ばされていく。
それでも他の虫がプラズマに焼かれている間に別の虫がプラズマを突破して侵入する。しかしこれも、内側にさらに展開されている防御障壁によって焼かれて弾き飛ばされていった。
その間、闇魔法で姿を消した国王と近衛兵たちが死霊術を放っていた。一度に数千匹の単位でゾンビ虫を支配下に置き、ゾンビ同士で戦わせるように指示していく。
結果としては、この戦術の方が効果的だったようだ。炎や氷で破壊するよりも、同士討ちで効率よく数を減らすことに成功した。
ゾンビは完全に体が破壊されない限り戦闘を続けるために、少々燃えていたり凍りついていたりしても平気で攻撃を仕掛けてくるものである。
大地に半身が飲み込まれても、自らその半身を引きちぎって襲い掛かるのがゾンビの戦法である。また、全滅するまで戦闘を続けるために、恐怖による壊滅を狙うこともできない。
「ゾンビって初めて見たけれど、こんなに素早いのね。話に聞いているのと全然違うじゃない、ラウトさん」
徐々に数が減っていって気持ちに余裕ができてきたコラールが、全身白タイツの内側で冷や汗を流しながらもラウトに文句を言った。
ラウトもまだまだ緊張しているが、それでも会話できるまでには冷静さを回復してきたようだ。
「うん。このトゲアカのせいでゾンビにされた虫は、全然違うね。あのお坊様の言うとおり、多分、まだ生きているんだと思うよ。でなければ、ゾンビ化して体が大きくなったりしないと思う」
ラウトが前回の出張を思い起こしながら、話を続けた。
「前に森で見た虫ゾンビたちは、これよりももっと体が大きくて、動きも俊敏だったよ。あの時、多分、兵器用の魔法を使わなかったら、白兵戦に持ち込まれてあっというまに僕の方が殺されていたと思う」
コラールが首をかしげた。
「死んでいないのにゾンビ? っていうのが、まだ理解できないけれど……本当に変な木なのね。さすがアンデッド由来の突然変異ねえ」
国王と近衛兵たちによるゾンビ同士の相打ち戦法により、ついにこちら側のゾンビ虫の数が敵を上回った。
それを契機にして、急速に戦況が有利になってきた。数十万匹に達した味方のゾンビ虫の群れが、同じくらいの数の敵に食らいついて、体を噛み砕いて粉砕していく。
虫の外骨格が砕かれて引きちぎられる音が凄まじい。が、凄まじ過ぎて、まるでスクラップ工場の中にでもいるような感覚になり、かえって嫌悪感は感じない。
粉砕された大量の虫の破片は、すぐさま大地の精霊によって飲み込まれて消えていく。そのおかげで、展望台とその周辺は意外にも清潔で、汚れも見当たらない。岩礁の破片は、同じ土系なので掃除できないでいるようだが。
そうこうするうちに敵が押し返されていき、ラウトとコラールが展開している防御障壁にまでたどり着ける敵のゾンビ虫がいなくなった。
コラールがしみじみとつぶやいた。
「やはり、数の暴力というのは分かりやすいわねえ」
国王が闇魔法を解除してその姿を現した。目がキラキラしていて、充実した表情をしている。
「よし。そのまま押し返し、トゲアカの木とやらまで逆に攻め込め」
慌ててラウトが国王に進言する。
「わあっ。申し訳ありません、陛下。トゲアカの木は、虫除けの薬を製造するために欠かせないのです。どうか、破壊することだけはお許し下さい、陛下」
それを聞いて国王が少し不満気な表情になった。……が、納得してくれたようだ。
「……むう。仕方があるまい。今後1週間ほどは、虫除けの薬が必要なのだからな。とりあえずトゲアカの木を包囲するだけに留めよう」
そう言って、国王が姿を現した近衛兵たちに向かって指図しようとした時である。こちら側の味方になっていた数十万匹に達するゾンビ虫たちの挙動がおかしくなった。
痙攣して動かなくなっていく。そして、闇の向こうから再び強烈な殺気が充満してきた。
国王と近衛兵たちの表情が一気に険しくなる。
「新手の敵か。我らの死霊術をジャミングして効果を削るとは、なかなか面白い戦術だな。者ども、闇魔法を使って姿を隠せ。死霊術の波動周波数を甲から乙に変更、同時に他の精霊魔法も使用せよ。かかれ!」
国王が威勢よく号令をかけたが、姿が消えない。さらに、痙攣している味方のゾンビ虫がこちらを向いて威嚇し始めた。
驚愕する国王。
「なんと。我らの闇魔法と死霊術が打ち消されているというのか? いかん、ラウトとコラールよ、急いで空中へ退避しろ。こやつら虫のくせに手ごわいぞ」
同時に、闇の中から新たな虫の大群が浮かび上がってきた。明らかに先ほどの虫の群れとは雰囲気が違う。
体も倍ほどに大きく、エルフの胸の高さまで巨大化している。アリがほとんどを占めているようだ。
慌てて上空に避難したコラールに連れられているラウトの背に、冷や汗が大量に流れた。そろそろ、白タイツの足先から、たまった汗が染み出してきそうである。
「陛下! この虫はトゲアカの森で見たサイズです。俊敏ですのでご注意くださいっ」
国王が不敵に笑った。
「くく。こいつらが本隊か」
何の合図もなく無言のままで、巨大ゾンビ虫の大群が国王と近衛兵たちに驚愕のスピードで殺到した。
炎や氷の精霊魔法が一斉に近衛兵たちから放たれ、爆音と炎の渦が展望台とその周辺を荒れ狂った。
しかし巨大なゾンビ虫の本隊は、体が小さい寝返ったゾンビ虫たちを抱えて盾にして突っ込んでくる。
小さいゾンビ虫が次々に燃え上がったり凍結して砕けたりしたが、巨大なゾンビ虫たちは次々に代わりの小さい虫を呼び寄せて盾にして、ぐいぐいと迫ってきた。
国王が冷や汗をかきながら不敵に笑う。
「戦闘経験があるのか? 組織的な戦術をとるとはな」
国王と近衛兵たちから5メートルほどまでにじり寄ったその時。巨大ゾンビ虫の大群が、盾代わりの小さい虫を捨てて一気に飛び掛ってきた。
近衛兵たちが火炎放射を放つ。が、その火炎放射の壁の隙間を信じがたい素早さですり抜けて、巨大ゾンビ虫が近衛兵たちを押し倒した。国王だけは、上空から着地したコラールとラウトが展開した防御障壁の中に保護されている。
コラールが国王の肩を支えた。
「陛下、お怪我はありませんかっ」
ラウトが簡易杖を前方に突き出して防御障壁を強化した。たちまち、強烈なプラズマが防御障壁を包み込んで、襲いかかってきた巨大なゾンビ虫を数十匹ほど焼き尽くして外へ弾き飛ばす。同時に、ラウトたちを中心にして半径5メートルほどの安全空間が誕生した。
しかし、全く構わずに次々に巨大なゾンビ虫の群れが防御障壁に体当たりして包み込んだ。虫に覆われてしまい、外の様子が全く分からなくなる。
展望台の背後だけしか視認できない。この方向は凍結した水面なので、そこだけはさすがに虫たちも進めないようである。実際、氷面に降り立った虫は、ことごとく凍結してしまっている。
国王が防御障壁の中で冷や汗をぬぐった。
「ふう……ここまで強敵とは予想外だな。バンパイアよりも強いぞ、こいつら。さて、どうするか。防御障壁はいつまで持ちそうだ? 上空へ避難するしかないか」
ラウトが息を荒くしながら答える。全力でプラズマ多重障壁を展開しているので、かなりきつそうだ。
「10分程度かと思います。あの……近衛兵たちは大丈夫でしょうか?」
国王が腕組みをしてニヤリと笑った。
「安心せよ。この程度の咬みつきではびくともせぬ装備だ。ただ、これほどの数の虫に押しつぶされては、身動きは取れないな。近衛兵は無力化されたと判断してくれ」
コラールとラウトがほっとした表情になった。
「良かった。てっきり食べられてしまったのではと心配しておりました。では、ラウトさんの魔力が限界に達する前に、上空へ退避しましょう、陛下」
ラウトが白タイツの中で汗をしたたらせながら、コラールに尋ねる。
「でも、3人も浮遊魔法で浮かせられるの? コラールさん」
コラールがウインクする。
「とりあえず、近くの島まで飛ぶ。そのくらいは大丈夫よ」
国王がうなずいた。プラズマで炎を上げて焼け崩れる巨大ゾンビ虫の群れを睨みつける。
もう、防御障壁はかなり突破されていて、3人から2メートルほどまで虫たちが迫ってきていた。
「うむ、仕方があるまい。コラール、撤退だ!」
「ぷるわ! ちょっと、まったー!」
背後から元気なステリカの声がした。
コラールが驚いて振り返ると、凍結した水面上を高速でステリカが滑ってやってきている。背中に長い棒のようなものを2本背負っているのが、星明りの下で見えた。
「ぷるわ? まさか、ステリカも発病しちゃったの!?」
ステリカが氷上をうなりを上げて滑走して来ながら、ウインクした。
「てへ。2日前に外食していたのよ。さっき発病しちゃったるるるる」
「おいおい……」と国王を含めた3人が苦笑する。これで、魔法研究所も再びシャットダウンしてしまった。
がっくりするコラールにステリカが豪傑笑いをする。
「はっはっはー。正式な配備前の試作杖だよ! 受け取れるるるる、ぷるわ!」
ステリカが華麗な投擲を見せて、2本の長い杖をラウトとコラールに渡した。
「杖!?」
驚くラウトとコラール。
展望台の前を通過して、そのままどこかへ滑り去っていくステリカが説明した。
「光の精霊魔法だよ。発動認証は済ませてあるから、すぐに使えるわよおおお、ぷるわああああ止まらないいい」
何かに激突した音がして、ステリカの声も途絶えた。
ラウトが杖を片手で持って、驚いた表情になる。
「こ、これ。警察の人が森で使った杖みたいだ。ってことは、兵器?」
コラールも杖を構えた。
「確かに認証と発動許可は取れているわね。光の魔法か。とりあえず、撃ってみる? ラウトさん」
ラウトがちょっと真剣な表情でうなずく。もう、虫たちは1メートル先まで迫ってきていた。
杖の先端に見覚えがあるカートリッジが2本刺さっているのを確認する。
「カートリッジから必要な魔力が供給されるから、僕たちは魔力を使わないでいいよ。発動の許可さえすればいいから」
コラールも真剣な表情でうなずいた。
「分かったわ」
「せーの」で一斉に発動させる。杖の先がまぶしく輝いて強力な光魔法が発動した。
……が、その全ての魔法弾はなぜか隣の国王に命中してしまった。
「ぐはあああ!?」
国王が断末魔の叫びをあげてもんどりうって倒れる。
あっけにとられているラウトとコラールである。
「な、なんで!?」
コラールが混乱して国王を抱き上げた。息はあるようだ。
ラウトが苦笑した。
「そういえば、陛下ってゾンビ虫と同じ死霊術と闇魔法を使っていたような……ゾンビと誤認されちゃったみたいだね」
ついに障壁の向こうの巨大ゾンビ虫たちの足の先が、ラウトとコラールの全身白タイツに引っかかり始めた。互いに顔を見合わせる。
「ここまでかな。コラールさん、浮遊魔法で近くの島までお願いします」
コラールも、「はあ……」とため息をついてうなずいた。
「ステリカには後でキチンと怒らないといけないわね。ごめんなさいね、ラウトさん。せっかくの十分間の猶予を無駄にしてしまって」
ラウトが微笑んだ。
「僕も、何も策を考えつけなかったから、コラールさんが気にすることはないよ。うーん、カートリッジは空になっちゃったか」
「それじゃあ」とコラールがラウトと国王をそれぞれ片手で持って浮き上がった。
「ん……さすがに重いな」
その時、気絶していた国王が英雄笑いを高らかに夜空に響かせて復活した。
「コラールよ、もう無用だぞ。我の一撃を見よ!」
そう言い放つと同時に、一切の術式詠唱もせずに光の精霊魔法が発動した。
見たこともないような強烈な光が3人を包み込み、そのまま花火のように光が弾けた。それらが数百万もの光の矢と化して、都じゅうに降り注いでいく。
そのあまりのまぶしさにコラールが意識を集中できなくなった。浮遊魔法が消失して、2メートルの高さから展望台に落下してしまった。
数十秒後。ようやく光の洪水が収まり、夜の景色に戻ったので、ラウトとコラールが辺りを警戒して見回した。巨大なゾンビ虫の大群と普通のゾンビ虫の大群が倒れて痙攣している様が、闇の向こうまで広がっている。
ラウトが、はっとして思い出した。
「そ、そうか。バラン先生がおっしゃっていたよ。僕のバンパイア化は光魔法の集中攻撃で治療できたって。これも、つまりそういうこと?」
コラールが簡易杖で国王の波動状況を診断してうなずいた。
「そういうことね。もう、完全に普通のエルフの波動に戻っているわ」
国王が「ふふん」と腕組みをして胸を張った。
「トゲアカの木ごと、ゾンビどもを光の精霊魔法で洗脳した。しかし、凄まじい魔力供給だったぞ」
無数のゾンビ虫が国王の指示で起き上がり、そのまま都の外へ向かって行進し始めた。
氷上に降り立ったそばから次々に凍結して砕けていくが、それを踏み台にしてさらに多くのゾンビ虫の群れが氷上を進んで、そしてジャムナ内海へ飛び込んでいく。
早くも待ち受けていた魚の大群が狂喜して食らいつき、盛大な水しぶきを都の周囲で上げているのが展望台からでもよく見えた。
国王の言った通り、虫が去った展望台の床には近衛兵たちが残されていた。かなり咬みつかれている様子だったが、これといったケガはしていないようだ。
「陛下、申し訳ありませんでした。虫ごときに押し潰されるとは不覚の至りでございます」
膝をついて国王に陳謝する近衛兵たちを、国王がなぐさめる。
「無事でなによりだ。今後は、通常の精霊魔法が使えない事態も想定して訓練するがよかろう」
「ははあっ、御意のままに」
そして、国王がラウトとコラールに振り返った。
「よい仕事ぶりであった。後ほど褒美をやろう。トゲアカの木だが、もう洗脳済みである。よって、結界などで囲む必要はなかろう。虫をゾンビ化させることはするが、我らに敵対することは今後ない。ゾンビ虫どもは農園の作業員にでも使えばよかろう」
ラウトとコラールがひざまずいて頭を下げる。
「陛下の御意のままに」
国王が満足した表情で伸びをした。
「うむ……楽しき夜であった。では、者ども王宮へ戻るぞ。おお、そうだ。ラウトとコラールは王宮へ来る必要はないぞ。余の精霊魔法が正常に戻ったのでな。おのおのの仕事に戻って励め」
ラウトとコラールが顔を見合わせて、ほっとした表情になった。
「はい。御意のままに、陛下」
国王が、ニヤリと笑う。
「思考が顔に出すぎだ。そうだ、ステリカとやらを探さなくてよいのか?」
「あ」
結局、この病気の治療に光魔法を使うという話は、バランをはじめとする医局の反対によって実現はしなかった。バランによると――
「ちょっと、乱暴すぎる治療方法だからねるるる。後遺症の問題が起きるかもしれないんだるるるる」
……ということであった。
いつもの喫茶店で、ラウトがジト目になってコラールとセリアに報告する。そういえば、喫茶店の店主もトロルなまりがまだ直っていない。しかし掃除とグラス磨きには何ら支障は出ていないので、大して気にしていないようだが。
喫茶店内は、まだ精霊魔法が復旧していないのでテレビなどが使えない。しかしコラールが図書館のネットワークを喫茶店の席上まで引っ張ってきているので、この時だけはニュースを見ることができた。
といっても、トリポカラの放送ではなくて8つある衛星国の放送であるが。今は最寄りのトルパット王国放送局が伝えているニュースを見ている。
それによると、航行中の貨物船が座礁したり、島に激突したりして32件の事故が確認されたということであった。目下、パタン王国やブトワル王国を中心にした救助隊が救援活動を行っているとアナウンサーが伝える。
幸い、死傷者は出ていないと聞いてほっとするラウトたちである。
セリアもトロル化したままなのであるが、ラウトとコラールが注文したジュースを冷やすための冷蔵庫代わりにされていた。
「まあ、1週間ほどで元に戻るんだから、楽しむことにしたわ。どんどん冷やしてあげるからねるるるる、ぷるわ!」
コラールが微笑みながらセリアに抱きつく。
「うーん、ひんやりしてるう。そうだ、虫除け薬は行き渡っているのかな?」
ラウトがキンキンに冷えたジュースを飲んで、こめかみを押さえた。
「あたたた……うん。それは大丈夫だよ、コラールさん。ゴーレムだけで自動生産できるからね。それと陛下のおかげで、トゲアカから容易に大量の原材料が採取できるようになった。これもゴーレムに任せてあるよ」
コラールもジュースを飲んでこめかみを押さえた。
「うう……そうなんだ。じゃあ、大きな騒ぎにはならないわね。というか、都の虫そのものがほとんどいなくなったから、虫除けもあまり使う機会がなくなっちゃったけど。それで、ミンヤック先生は?」
ラウトが苦笑する。
「ご想像の通りだよ。1日中お酒を飲んでご機嫌だよ。そろそろ明日あたり、二日酔いの薬を作らないといけなくなると思うけれど」
コラールとセリアも苦笑した。
「ドワーフよねえ、やっぱり」
ラウトも苦笑しながら話題を変えた。やはり上司である以上、悪口が続くのは避けたいのだろう。
「そうそう、農園だけどね。復旧作業は今日中に終わる見通しだって。薬草株や果樹を結界内に入れなおさないといけないから大変みたい」
口調が明るくなっていく。
「それと、トゲアカが巨大ゾンビ虫を100匹ほど作ってしまってね。農園の作業をしてもらっているんだけど、なかなか優秀だよ。動作がもの凄く機敏で力もあるから、オーガの出稼ぎの出番がなくなってしまったみたい。ついでに自分の農園作業も半分くらいなくなってしまったって、カンプンが喜んでたよ」
コラールがクスクス笑いながらうなずいた。
「そうよね。あの機敏さはありえないくらいだものね。凄いのよセリア、至近距離で火炎放射しても当たらないんだから。そうかあ……カンプンさんも暇になっちゃったかあ。じゃあ、スミング農園長も仕事が減ってのんびりできるわね」
ラウトが微笑みながら手を振って否定した。
「残念ながら。陛下がこの際だからって、10万年前に起きた海底事故の処理をさせているよ」
「海底事故?」
コラールとセリアが話に食いついてきたので、微笑むラウトである。
「ほら、都で使われている石材って、海底鉱山からゴーレムが切り出して届けているでしょ? 鉱山を掘り進めていたら、10万年前に石油の層にぶつかってしまってね。10ほどの鉱山が廃坑になっているんだよ。今も石油が漏れ出ているそうなんだって。それを永久凍結させて漏れを止める話だよ。今しか凍結魔法が使えないからだとか」
コラールとセリアが顔を見合わせて、笑い転げた。
「ひどい扱いされているわねえ」
ラウトも笑いをこらえてジュースを飲み、こめかみをまた押さえた。
「トゲアカの管理を怠ってしまったからねえ。僕たちが大騒ぎしている間、家に閉じこもっていたし。この程度で済んでよかったと思うよ」




